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4GB USB 〜29歳既婚者が過去に戻って一攫千金を狙ったけど現実は結構厳しそう〜  作者: ナカモリトマト


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18話 信頼関係......

 その日の作業は、思ったよりも早く終わった。

 日が傾き始めた畑は、昼間の喧騒が嘘みたいに静かで、風の音だけがやけに大きく聞こえる。

軽トラの荷台に腰を下ろすと、北大路さんが缶コーヒーを投げてよこした。


「ほら」


「ありがとうございます」


 プルタブを開ける音が重なる。


「いやぁ……昨日はすげぇ日だったな」


 北大路さんは、まだ笑っていた。


「100万馬券だぞ?あんなもん、そうそう当たるもんでねぇ」


「そうですね」


「しかもお前の言った通りだ」


 ぐいっとコーヒーを飲み干して、満足そうに息を吐く。


「正直、最初は半信半疑だったけどな」


「ですよね」


「でもまぁ、当たっちまえば正義だ」


 ケラケラと笑う。

その無邪気さに、少しだけ救われる気もするが同時に、怖さもあった。


「また行こうぜ。次も頼むわ」


「どうですかねー」


 曖昧に返す。


 同じことが、もう一度通用するとは限らない。

それどころか、あの“ズレ”を考えれば――

むしろ、続けるべきではないのかもしれない。


 缶を持つ手に、少しだけ力が入る。


「北大路さん」


「ん?」


呼びかけると、気の抜けた声が返ってきた。


「昨日の金、どうするつもりですか」


「どうするってまぁ、しばらくは使わん」


「貯めておく感じですか」


「そりゃそうだろ。急に増えた金なんてな、ろくな使い方しねぇもんだ」


 意外な答えだった。


 もっと豪快に使うタイプだと思っていたが、そこは一応、現実を見ているらしい。


「だったら......」


 言葉を選ぶ。

ここから先は、一歩踏み込む話だ。


「増やすって考えは、どうですか」


「増やす?」


「はい」


 北大路さんがこちらを見る。


「また競馬か?」


「いや、そうじゃなくて」


 一度、間を置く。


「株です」


 空気が、ほんの少しだけ変わった。


「株ぅ?」


 露骨に胡散臭そうな顔をする。


「なんだ急に。そんな話するやつに見えたか俺が」


「見えないですね」


「だろ」


 即答される。

だが、ここで引くわけにはいかない。


「でも、昨日の話じゃないですけど……」


「おう」


「“当たる”って分かってるものがあるとしたら、どうします?」


 北大路さんは、少しだけ眉をひそめた。


「なんだそりゃ」


「例えばです」


 あくまで、軽く。


「これから伸びる会社があるとして、その株が今はまだ安いとしたら」


「……」


「買っておけば、あとで大きくなる」


 ゆっくりと言葉を置いていく。


「そういう話です」


 北大路さんはしばらく黙っていた。

やがて、ふっと鼻で笑う。


「うまい話すぎるな」


「そう聞こえますよね」


「聞こえるじゃねぇ。そうなんだよ」


 はっきり言い切る。


「そんなもん、本当に分かるなら誰も苦労しねぇだろ」


「まあ……そうですね」


 否定はできない。


 だが、こちらには“知っている”という前提がある。


「でも、ゼロじゃないと思います」


「根拠は?」


 すぐに返ってくる。


 鋭い問いだ。


「データ......ですかね」


「はっ」


 笑われた。


「データで人の金動かそうってか」


「そうなりますね」


 自分でも無茶なことを言っている自覚はある。

それでも、ここで止まるわけにはいかない。


「ただ、一つだけ」


「ん?」


「俺が金出すより、北大路さんの名義でやった方がいいです」


 空気が、少しだけ張り詰める。


「なんでだ......」


「信用の問題です」


 短く答える。


「俺、身分証もまともにないですし」


「まぁそうだな」


「だから、ちゃんとやるなら、北大路さんの名前を借りたい」


 正面から言う。

誤魔化しはしない。


「もちろん、金はこっちでも出します」


「……」


「共同でやる形です」


 沈黙。


 さっきまでの軽い空気が、完全に消えていた。

北大路さんは缶を握ったまま、地面を見ている。

その横顔は、少しだけ固かった。


「やめとくわ」


 ぽつりと、そう言った。

予想していた答えだった。


「悪ぃな」


「いえ」


「そういう話はな、もういい」


 それ以上は語らない。

だが、理由は分かる。

この人は、一度やられている。

金で裏切られて、全部失っている。


「そう、ですよね......」


 それ以上は踏み込まない。

ここで押せば、完全に終わる。


「話聞いてくれただけでも十分です」


「おう」


 短く返す。

会話は、そこで途切れた。


 さっきまでの空気には戻らないが、完全に壊れたわけでもない。

ただ、微妙な距離ができただけだ。


「明日もあるし、戻るか」


「ですね」


 いつも通りのやり取り。

だが、その裏にあるものは少しだけ重い。

軽トラから降りながら、ふと考える。


(まあ、そう簡単にはいかないか)


 当然の結果だ。

むしろ、話を聞いてもらえただけでも上出来かもしれない。


 だが......

完全に終わったわけではない。

そんな感覚も、どこかにあった。

北大路さんは、最後に一度だけこちらを見た。

何かを言いかけて、やめる。

そして、そのまま歩き出した。

その背中を見ながら、俺は小さく息を吐く。


 まだ、決まっていない。


 けれど


 何かが、少しだけ動いた気がした。

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