12話 新しい拠点
翌朝、日雇いの仕事を辞めて漫画喫茶を出た。
軽トラの男性に会うためだ。
指定された場所へ向かう。
街を抜けるにつれ、人の姿が少なくなっていく。
男はすでに外にいた。いつもと同じ軽トラ。
「おう、来たんか」
「すみません、急に」
状況だけを簡単に伝える。
身分証がないこと、日雇いのこと、漫画喫茶に住んでいること。
男は少しだけ考えたあと口を開く。
「空き家あるけど使うか?」
「助かります」
一拍置いて、男が続ける。
「その代わりウチで働けるか?」
当然だと思った。
「何でもやります!」
即答だった。
「畑手伝えるか?」
「やったことはないですけど......」
「別に難しいことはさせん」
短いやり取り。
条件としては、破格だ。
「それでいいなら、住め」
「お願いします」
軽トラに乗り、しばらく走る。
窓の外には畑が続くだけの景色。
「この辺、人いないですね」
「田舎だからな」
それだけ言って、会話は切れた。
案内された家は古い平屋だった。
外壁は剥がれて、庭も荒れている。
だが、住めないほどじゃない。
中に入ると埃の匂い。
でも水も電気も問題ない。
「どうだ?」
「ありがたいです」
「好きに使ったらいい。家賃はいらん」
「その代わりしっかり働きます」
「そういうことだ」
それで話は終わった。
契約も書類もない、口約束だけの関係。
だが、その方が都合がいい。
「名前、まだだったな」
男が言う。
「北大路だ」
「明日の朝から仕事があるから来い」
軽トラが去る。
残されたのは静かな家と、自分一人。
ようやく拠点ができた。
金もある。場所もある。
そして、働き口も手に入った。
怪しい日雇いに戻る必要もない。
私は部屋の中央に立ち、息を吐く。
これで色々なことに怯える生活も終わる。
環境は整った。
あとは、どう使うかだ。
これからは安定した生活の中で次の一手を打つ......




