11話 潮時
朝。いつも通りの解体現場に向かう。
最初は地獄だった。
腕は上がらず、足は震え、息をするだけで苦しかった。
だが今は違う。
体は慣れた。
動きも分かってきた。
それでも。
「潮時だな......」
ぽつりと、心の中で呟く。
重い鉄パイプを持ち上げながら、ふと考える。
この仕事で得られるのは、一日四千円。
汗と疲労を引き換えに、ただそれだけ。
今はUSBを売って手に入れた、まとまった現金もある。
数日前までの自分からすれば、十分すぎる額だ。
しばらくは生きていける。
でも。
「これじゃ、ダメだ」
このまま日雇いを続けたところで、増えるのはせいぜい数百円ずつ。
時間を削って、体を削って、それでようやく少しずつ増えるだけ。
これじゃ、ダメだ
私は、未来を知っている。
それなのに、今やっているのは
誰でもできる単純労働。
馬鹿みたいだ。
鉄パイプを地面に置きながら、ふと手を止めた。
「何やってんだろうな」
この時代に来てから、その日暮らしだった。
金がなければ働く。使えばまた働く。
だが今は違う。
元手がある。
だったらもっと増やす側に回るべきだ。
その考えが、妙にしっくりきた。
胸の奥で、何かがすっと決まる。
「今日で、最後にするか」
声には出さないでただ、自分の中で決めた。
昨日USBを売り、ヒッチハイクの時の軽トラの男性と再開してから、とある事を考えていた。
軽トラの男性。
無愛想で、口も悪いが、妙に面倒見の良かった農家の親父。
ヒッチハイクで拾われた、あの時の記憶。
名前も知らない。
「話くらいは聞いてくれるか」
別に、頼るつもりはない。
ただ、使えるものは使う。
このまま、時間を売る側で終わるつもりはない。
その日の作業を終えたとき、
私はまっすぐ拠点には帰らず少し歩いた。
この金を、増やす。
そのために動く。
私は、もう二度と
ただの労働者には戻らない。
勿論、彼の元に行くのは何もヒッチハイクの思い出や感情論だけではない。
まとまった金を手にして彼と出会った夜、
いつもの漫画喫茶に戻り手帳を眺めているとと、あるアイデアを思いついた。
「これなら......いけるか?」
その夜、昨日再開した男性に公衆電話から電話をかけた。
電話先の男性は、無愛想ながらもいつもの声で潔く歓迎してくれた。
そして明日、彼の元に会いに行くこととなった。




