第4話:白天様の隣で笑う人
ーーどうして先生たちは新入生のクラス替えをする際に、
同じクラスに"天使"が2人もいるようにしてしまったのだろうか。
朝のホームルーム前、クラスの雰囲気が一瞬だけ静かになる。
もちろん、その理由は分かっている。
「おはようございます」
こはるが入ってきたからだ。
背筋を伸ばした姿、全く乱れのない整った制服。
透き通った落ち着いた声。
それだけで、視線が自然と集まる。
ーー白天様。
俺が心の中でそう呼ぶようになってから、しばらく経つ。
でも、やっぱりマンションの隣の部屋に住んでいて、俺の部屋で無邪気に笑う姿は知っているのに......
学校のこはるは、遠いいように感じる。
「相変わらず、完成度高いよなぁ」
俺が、周りに聞こえるか聞こえないか微妙な大きさの声で
ふと、呟く。
その横から。
「本当だよね〜」
俺でもこはるでもない別の人の声。
その声はどこか、ふわっとしていて、こはるとはまた違う
質感の声だった。
驚いて振り向くと、
目の前には篠宮あおいが目の前に立っていた。
話かけやすい雰囲気で、誰にでも分け隔てなく接し、いつの間にか気づいたらどこかのグループで楽しそうに笑っている。
そんなタイプだった。
ーー現実の天使様。
それが、白天様に続き、学校の男子たちが彼女につけた
別名だ。
現実の天使様。
本人はどう思っているか分からないが、白天様と比べると、どこか少しバカにしているように感じてしまうのは
俺だけだろうか。
まぁ、本人が気づいているかは分からないが、
ぱっと見、彼女がその呼び名を嫌がっている素振りは特に見られないため、別に俺がどうこう言うようなことではないが、なぜか気になってしょうがない自分がいた。
白天様みたいな緊張感は特にない。
それどころか、彼女が教室にいないと少し物足りなくなるぐらいだ。
「毎日見ているはずなのに、慣れないのすごくない?」
「......まぁ、うん」
「あ、今の"慣れない"って言うのは、尊敬って意味でね」
あおいはそう言ってくすっと笑った。
作り笑顔じゃない自然な笑顔。
その笑顔には、全然棘がない。
「でもね、私さ、白天様好きなんだ〜」
突然、さらっというから、少しだけ驚いた。
みんながみんな白天様を見るから、彼女もどこか嫉妬の念を抱いていると思っていたが、それは俺の気のせいだったらしい。
クラスの男子はみんな白天様に好意を抱いてしまっているため、クラスの男子が好きな女子からすると、好きな人を奪われた気がして嫉妬の念が女子の表情に現れることも少なくなかった。
「憧れかな?ちゃんとしているし、優しいし。
話す時、ちゃんと目を見てくれるからさ」
あおいの視線の先では、こはるが他のクラスメイトの女子と静かに話していた。
その姿を見つめる目は、嫉妬というよりもーー
どこか、純粋だった。
「仲良くなりたいなぁーって、ずっと思っているんだ
よね」
「もう十分話しているんじゃないの?」
「んー、まぁそうなんだけど」
あおいは少しだけ、首を傾げる。
「多分だけどさ、私からガツガツ行っちゃうとさ、
"比べられる側"になっちゃうでしょ?」
軽い口調で、落ち着いている。
でも、比べられる側という言葉にどこかすごく現実味を感じさせられる。
「白天様がいるから、私この辺の立ち位置でちょうどいい かなって」
この辺、という言い方がどこか胸の奥に残るような気がする。
クラスの男子たちの会話を思い出す。
白天様は遠い存在で、観賞用。
あおいはーー手が届きそうな現実ライン。
「これが一番現実的でしょ?」
あおいは冗談のように言いつつも、その目は真剣そのものだった。
「白天様はまじで別格。
私は、まぁ......付き合えたらラッキーって感じかな」
自分で言って、少しだけ肩をすくめる。
こう自分で言うのも、恥ずかしいがあおい自身もかなりの美人だ。勉強は苦手らしいが、誰隔てなく接し、運動神経の良さも相まって、白天様ほどではないが、学校内でも有名だったりする。
それなのに、白天様がいるのもあってか、気づけば白天様との比較対象に用いられるようになってしまった。
許可なしに、勝手に比較対象にされる。
それはあまりにも可哀想だとつくづく思う。
「......そんな言い方、しなくても」
俺がそう言うと、あおいは少しだけ驚いてから、
すぐにいつも通りの笑顔に戻った。
「優しいね、ゆうくん」
それ以上、俺は何も言わなかった。
授業中。
白天様ーーいや、こはるは、いつも通り変わらず完璧だった。
ノートを取る姿も先生からの質問に答える時も、その全ての動作が綺麗。
俺はその後ろ姿を、少し離れた席からじっと見つめる。
その時、背中が指でつつかれた。
「ね、ゆうくん」
振り向くと、あおいが先生に聞こえないぐらいの声量で
話かけてくる。
「白天様さ」
「うん」
「ちゃんと幸せになって欲しいよね」
突然の話だったが、不思議と自然な言葉だった。
「......そうだな」
「わたし、ああいう子がちゃんと大事にされるような
環境が好きなんだ」
その言い方が、妙に引っかかった。
自分をどこか卑下するような言い回し。
自分は、その"ちゃんと大事にされる側"に含まれていない。
そう、最初からわかっていたかのような口調だった。
チャイムが鳴って、会話は一度そこで途切れた。
放課後。
教室を出る時、あおいが軽く手を振ってきた。
夕方に照らされる彼女は、幻想的でどこか切ないような
感じにも捉えることができる。
「ねぇ、ゆうくん、また明日ね」
「おう」
こはるは俺の少し前を歩いている。
その背中を見ながら、俺は考える。
白天様と、
白天様の隣で笑う現実の天使。
どちらも優しい。
どちらも、きっと周りには言えないような、"何か"を
抱えている。
ーーそしてまだ、
俺は何も知らない。
みなさん、おはこんばんは。
七海結莉です。
毎日投稿をすると、勝手ながら自分で決めていたのですが、
ネタが思い浮かばず、気づいたら3日でストップしちゃいました。......すみません......
と、このくらいにしておいて、
今後とも毎日投稿をしていきますので、高校生のかなり拙い文章ではありますが、温かい目で見守っていただけたら幸いです。
ちなみになんですけど、
この作品の略称は公式(七海結莉の主観)で、
『となしろ』で行こうと思います。
他にも読者間の略称などは随時募集していますので、
そちらもよろしくお願いします。




