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もう一度、雨の日に

ーー同じ雨なのに、あの日とは違う。


そう思ってしまった時点で、もうあの日にはたぶん戻ることができない。


時刻は朝の6時。

窓をしきりに叩く音で目が覚めた。

朝の眠気をなんとか押し殺しつつも、いつも通りカーテンを開けに行く。

カーテンの隙間から見える空は、どこかどんよりしていて

暗く、一日の不幸を暗示しているかのようだった。


雨だ。


たった3文字の言葉。

たったそれだけで、胸の奥がいつもとは違う。

あの日の出来事が、胸の奥から溢れ出してくるような不思議な感覚だった。

それはまるで、神からの警告かのようにも思えた。


昨日の夜、こはるは家に来なかった。

「今日は用事があるから」

という珍しく短いメッセージだけが残っていた。


だから土曜日の今日は、

家で1人で過ごす予定だった。


ーーそのはずだった。


「おはよー、ゆう」


玄関の方から、いつもの聞き慣れた声がする。

声は何度も何度も聞いているので、間違えるはずがない。


「え......鍵」


「空いてた」


悪びれもせずに、こはるはそれが当然かのように言った。

髪は少しだけ湿っていて、初めて見る制服じゃない姿。

薄手パーカーに、ラフな格好。

いつも家に来ている時の性格から考えれば、その格好はまだ想像が付くが、学校での白天様の姿から考えれば、あまりにもかけ離れ過ぎた格好だった。 


「雨、すごいね」


「そうだな」


勝手に入ってきて、

勝手に靴を脱いで、

勝手にタオルを使って髪を拭いて、

勝手にソファーに座る。


いつも通りの光景にはなんら違いがない。


でも、雨のせいか、

距離が、やけに近く感じる。


テレビを付けると、案の定天気予報番組ばっかだった。

画面の中の雨雲。

窓の外の雨雲。


「ねぇ」


こはるが俺の方をじっと見つめて話しかける。


「今日さ、どこにも行けないね」


「そうだな......」


「じゃあ、だらだらしよっと」


そう言って、

ソファーの上で、足を崩す。


気づけば、彼女の方が触れそうなぐらいの距離まで

近づいていた。


「近くない?」


「え、今さら?」


質問を問いかけた瞬間、即答だった。

もう初めから俺が聞くのがわかっていたかのようだった。


それ以上は、

何も言えないのもあって、気まずさを回避するために、黙ってテレビを見る。


こはるは時々笑って、

時々スマホをいじって、

ときどき、何もしないでぼーっとする。


ただ、同じ空間にいる。


それだけなのに、俺の心臓が落ち着かない。


雨音が強くなってきた頃、

突然こはるがその場に立ち上がった。


「あ、やべ、洗濯物取り込まなくきゃ」


「......干してたんだ、この天気の中」


「昨日ね」


ベランダに出ようとして、

一瞬、その場に立ち止まる。

何かを忘れてたかのように、そっぽ俺の方を見る。


「......寒いかな」


そう言って、

机の上に置いてあった俺のパーカーを取った。


「それ、俺の」


「知ってる」


まるで自分の物のように、羽織って、

そっと微笑む。

その姿はどこか愛しく、守ってあげたくなるような気持ちが胸の奥底で強まった。


「借りるね」


別に、拒否する理由なんて、

どこにもなかった。


ベランダから帰ってきたこはるは

さっきよりも静かだった。

外にいる間にはたして何があったのだろう?


そんなことを考えているとーー。


ソファに座って、

膝を抱える。

どこか、拗ねたような姿だった。


「......雨、嫌い?」


突然、不意にこはるから質問が投げかけられる。


「別に嫌いってわけじゃないけど、

 好きってわけでもないかな」


「そっか。普通ってことね」


それだけ。


会話はその数回で途切れてしまう。


雨の音だけが、やけに大きく、部屋中に響き渡る。


「ねえ、ゆう」


しばらく沈黙が続いた後、こはるが、ポツリと言う。


「もしさ、」


一拍だけ、間が開き、沈黙が再び続く。

でも、今回は一瞬だけ、

気づいたらその時間は終わりを迎えていた。


「もし、あの日......声を掛けてくれなかったら」


続きを、待つ。


「......どうなっていたと思う?」


答えは正直すぐに出なかった。

聞かれた瞬間、すぐに悩み込んでしまう。


正直分からない。

そんなことすら、考えようともしなかった。


でも。


「絶対に後悔してた」


それだけは絶対に言える。


こはるは少し驚いた様子をした後に、

そっと微笑む。


「そっか」


その笑顔は、

学校の白天様でも、

家での元気なこはるでもない。


あの日、雨の中見た

どこか、

弱そうな顔だった。


「今日は、もう少しだけ一緒にいてもいい?」


「別に好きにすれば」


「やった」


そう言って、再びソファに近づく。


お互いの肩が触れ合う。


でも、

それ以上は、まだ何も起きなかった。


雨はまだまだ一向に降り止まない。


そしてこの時の俺は、

この雨が、

ただの偶然ではないと、

少しずつ感じ始めていた。
























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