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第2話:白天様と、交わらないはずだった春

ーーあの距離感を、誰が想像できたのだろう。


今、こうして俺の部屋のソファーで笑っている彼女と、

この日の彼女がまさかの同一人物だなんて。


入学式のことは正直ほとんど覚えていない。

体育館の匂いと、校長先生の長い話、名前を呼ばれるまでの緊張。

そんな、どこにでもあるようないたって普通の入学式。


ただ、唯一これだけは、鮮明に覚えている光景がある。


何組になったか、どの先生になったのか、他の人は昇降口に貼られた一枚の紙に一喜一憂しているが、正直言って俺は、別にそんなことはどうでもいい。


どうせ、どのクラスになっても教室の影になるのは

変わらないから。


ーーこの時の俺はそう考えていた。


入学式恒例の主席者による学年の代表挨拶。

壇上に立った彼女の姿を見た瞬間、

体育館の雰囲気がガラリと変わった。

クラスと出席番号によって決められた席の近くに知り合いがいる人を中心に、彼女のことについて男子の大半が熱中していた。


ーーもちろん、そこには俺も含まれている。


白いブラウスに整った前髪。

背筋を伸ばして、静かに礼をする。


その姿はどこか凛々しく、男女関係なく、誰もが見惚れてしまうような輝きを放っていた。


ーー白天様。


誰かが、そう呟いたのを、俺は聞いた。


こはるさん。

それが、彼女の名前だった。


入学式が終わり、教室の方へ戻ってからも、

彼女の周りには見えない境界線のようなものが引かれていた。


もちろん、彼女に話しかけようとするものも多い。

けれど、彼女に話しかけると、誰しもが素っ気ない態度で

相手をされる。

そのせいか、彼女と他の人の間に何枚も壁があるかのように、自然と距離が保たれていた。


誰しもが、

近づき過ぎない。

踏み込み過ぎない。


まるで、

「触れてはいけない存在」

みたいに。


俺は窓側の自分の席で、その様子をただ眺めていた。

自分とは縁のない人だと、思いながら。


別の世界の人かと思った。

いや、彼女にそう思わされた。


数週間が経っても、その関係は決して変わらなかった。


こはるさんは、

誰とも群れずに、

騒がず、

ただ、静かな笑顔を周りに振りまいて、クラスの男子たちを虜にしていくだけ。

そんな、姿をよく思わない女子たちからの嫉妬の声も

少しずつ増えていく。


それでも、授業中でも、休み時間中も、

完璧な距離感を保ったまま。


俺とは、もちろん一言も話していない。


それだからか、視線が交わったことすら、

たぶん、ない。


でも、一度だけ、例外があった。


入学してかは一週間ぐらいたった日だっただろうか。

廊下で、彼女が誰かに呼び止められていた時だった。


困ったように、微笑みながら、

それでも、一歩も引かずに凛々しい態度を最後まで貫き通す。


その横顔を見て、

なぜか、俺の胸の奥の鼓動が早まった気がする。


声をかけたいわけでも、

助けたいと思うわけでもない、不思議な気持ち。


ただーー。

「ああ、この人は、きっと1人なんだ」

そう思っただけだった。


その視線に、彼女が気づいたかどうかは俺には分からない。


気付いたとしても、

決して、何も起こらない。


それが、

俺と白天様との距離感だった。


だからーー。


あの雨の日の出来事は、

俺にはあまりにも実感が湧かなかった。


マンションの前で、

地面に座り込んで、

びしょ濡れになって、

誰かに助けを求めているかのようだった彼女。


「大丈夫じゃないかも」


そう言って、自分の本当の感情を押し殺して、弱々しく笑った顔。


入学式の日に俺が見た、

あの"白天様"と、

同じ人だとはあまりにも信じられなかった。


そして今。


「ねぇ、あおい」


ソファーの方から声が聞こえてくる。

決して大きな声ではなく、優しく包み込むような声。


「テレビつけてもいい?」


遠慮なんてどこにもない。

返事を返す間もなく、勝手にリモコンを取り、

勝手にチャンネルを変える。


「......どうぞ

 ってか許可出すよりも先にチャンネル変えるなよ

 まぁ、別にいいけど」


「やった。まぁ、これからは気をつける」


そう言って、

彼女は無邪気に笑う。


話終わった途端、そんなにテレビの内容が気になるのか、

視線がすぐにテレビの方へと向かう。


学校での彼女の姿を知っているからこそ、

この距離感は、どう考えても、おかしいと思った。


白天様は、

俺の世界には、決して足を踏み入れないはずだった。

クラスの中心のような人物と、クラスの端で1人でいるだけの自分。

どう考えても、この2人は釣り合わない。


話しかける理由も、

関わる未来も、

本来は存在しないはずだった。


なのに。


どうして、

今、彼女が隣にいるのだろう。

はたして、どこで俺の道が変わったのだろう。


その理由は、まだ分からない。


ただ、一つだけ言えることがある。

この春は、

俺が思っていた以上に、

ややこしいと言うことだ。
























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