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第1話:隣の部屋に住んでた白天様が、俺には甘すぎる

雨の夜、たまたま助けた相手は、

学校で「白天様」と呼ばれる少女だった。

これは、隣の部屋から始まる、

少し距離の近い学園恋愛の話です。

ーーもし、学園のアイドルが雨の中、座り込んでいたら、

俺みたいな人間は声を掛けるべきなのだろうか。


その答えを出さないまま、俺はその場に立ち尽くしていた。


時刻は午後8時を少し上回ったところ。

学校からの帰り道、雨に濡れた泥の道を避けながら、

アスファルトの道を通り、俺は自宅のマンションの前に立っていた。


そんな時だった。


マンションのガラス張りのロビーの外、

雨に打たれながら、誰かが地面に座り込んでいた。


最初は、ただの人影だと思った。

それとも、マンションの人に助けを求めに来たホームレスの人かと思った。

でも、その人に近づくにつれて分かる。


ーー制服だ。


しかも、その制服、顔、姿勢の良さ。

その全てに俺は見覚えがあった。


「......え?」


思わず声が漏れる。


学校で知らない人がいないほどの有名人。

清楚で、成績優秀で、スポーツ万能。

おまけに、誰にでも平等で、気配りができ、

先生達からの信頼も厚い。

そのせいか、学校では近寄りがたい。

いつの間にか、そう呼ばれるようになっていた存在。


ーー白天様。


その本人が、今、俺が住んでいるマンションの目の前で、

びしょ濡れになりながら座っていた。


声を掛けるか正直かなり迷った。


俺は教室の端で、1人でいるような目立たないタイプだし、白天様とは、もちろん話したこともない。

クラスは一緒だけれども、そもそも名前どころか、同じクラスの人だと認知されているのかも怪しい。


でも。


雨がますます強くなる一方で、

彼女は立ち上がるような素振りを一歩も見せなかった。

だが、それを見て見ぬふりをできるほど、俺は冷たくはなかった。


「......だ、大丈夫?雨こんなに強いけど......」


情けないくらい、声が震えたものの、話しかけながらそっと傘の中に彼女を入れる。


彼女は、ゆっくりと顔を上げる。

その表情はいつも学校で見ているような完璧な微笑みとは

違っていた。

彼女の目をよく見ると、どこか泣いているようにも見えた。

きっと訳ありなんだろうと、知りたい衝動を胸の奥にぐっとしまい込んで、知らないふりをする。


少し驚いてから、

彼女はそっと微笑む。


「大丈夫......じゃないかも」


そのたった一言で、俺は覚悟を決めた。


ロビーの前にあるベンチに彼女を座らせ、

俺は全力ダッシュで自分の部屋から新品のタオルを持ってきた。


「これ......使って。ちゃんと新品のやつだから、

 安心して」


「うん、ありがと」


タオルを肩にかけて、自身の髪をぎゅっと絞る。

その仕草が、やけに人間っぽくて、可愛らしかった。

普段の学校生活では決して見られない彼女の姿。

その自分だけの特別感に胸の鼓動が抑えきれずにいた。


それも束の間、2人の間に沈黙が訪れる。


でも、沈黙が続いても、不思議と気まずい雰囲気が流れるようなことはなかった。


「雨......急だったね」


彼女がそっと呟く。

理由はもちろん彼女からは語られない。

俺も、聞かなかった。


ーー翌朝。


朝の6時ちょい過ぎぐらいの時間。

いつも通り、朝のゴミ出しのためにドアを開けたその瞬間、隣の部屋のドアも同時に開いた。


『『カチャ......』』


「「あ」」


ふと出た声がお互い重なる。


そこにいたのは、昨日の土砂降りの中、傘を差さずにびしょ濡れになっていた白天様、彼女だった。


「お隣?」


「うん、そうみたいだね。

 昨日はありがとう」


そう言って、彼女は笑う。

いつも学校で見るような遠い笑顔ではなくて、ずっと近い

笑顔。


それから、少しずつ。


「今日、ちょっとだけいい?」


「コンビニ行くなら私も」


「暇だから来た」


「一緒に遊ぼう」


理由は曖昧なまま、 

彼女には何も聞けずに、

彼女は自然に俺の家に来るようになっていた。


家では、学校の姿からは考えられないほど、

別人だった。


ソファーは占領するし、

テレビは勝手につけて、飽きたら勝手にチャンネル変えるし、

俺のマグカップを平気で使うし、

非常食用で買って置いたカップラーメンや携帯用の保存食だって気づいたら、勝手に食べて、机の上にゴミが散乱している。


「ねぇ、この飲み物甘過ぎじゃない?」


「文句言うなら、自分で買って、作ってくださーい」


「むー、ケチ」


こんな感じで、ずっとわがままな彼女。

そう言って笑う彼女の笑顔との距離は、学校での姿を知っている俺からするとずっと近いように感じた。


学校では、完璧な白天様。

でも、俺の部屋では、

元気で、素直で、でも図々しくて、わがままな可愛い女の子。


ーー天使ってこんなに騒がしいものだっけ?


まだ、この時の俺は何も知らない、

雨の日の理由も。

なぜ彼女が俺の家にやってくるのかも。


ただ一つだけわかることがある。


この関係には、

まだ名前がなくてーー

居心地が良くてーー

それが、これからもずっと続いて欲しいと言うことだ。






















ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

第1話は「出会い」と「距離感」だけを描いています。

次回は少し時間を戻して、

学校での白天様の姿をお見せします。


よければ、続きも読んでもらえると嬉しいです

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