13 神鳥を祀る町
早朝
スラルクとモモナは寝ぼけながら乗車し今は眠っている
揺れる馬車の中でピりついた空気が流れる
マオが不機嫌なのだ
先日、宿に戻る前にデザートを買うと言ったが時間が遅くどの店も閉まっていた
そのため俺含め全員の気分は落ちてしまった
そのせいで食べ物にうるさいマオがとても不機嫌になってしまった
「なぁ、昨日のあれは仕方なかったんだから機嫌直せよ」
「……」
「俺も食いたかったんだし後で買うんだからいいだろ?」
眉間にしわを寄せ開かなかった口がようやく開く
「私はあのとき食べたかったんだ」
「それはわかるけどさ、我慢ってやつを覚えなくちゃな
じゃなきゃ嫌われちゃうぞ」
マオの顔には困惑が映る
「嫌われるという感情がわからない」
「ん?わからないって経験とかないのか?」
「私は生まれたころから戦い続け、常に孤独だった。
目の前のものは全部壊した、壊して壊し続けていたら魔王になれるほどの強さを手に入れていた」
少し悲しそうな表情で俺はなんだか悪いことをした気分になった
「―――嫌われるとか考えなくていいよ、お前はここにいるスラルクとモモナと家族みたいなもんだからな、もちろんカヤナとレイもな」
「家族か――ずっと孤独で他人と深く関わることはないと思っていた。
その考えが浮かぶお前は恵まれていたのだな」
恵まれている、そう言われるのは初めてだった
「誰かを家族と思えるような環境にいたんだ、恵まれているといってもいいだろう?」
「あ……いや、そうかもしれない、そんなこと思ったこともなかった」
ペットを飼う
それが全てだったがその考えは知らず知らずのうちに愛情を貰っていたから?
誰かに愛情を与えられるように、与えたいと思うように育った俺はたしかに恵まれているのかもしれない
「はは、マオはすごいな、俺は一人で舞い上がってたみたいだ
自分の環境は恵まれていたって気づかされたよ、ありがとう」
そういうとマオは少し照れているのか頬が少し赤くなる
「お前のそのまっすぐなところは嫌いじゃないぞ」
「なんだかすごく照れるからやめてくれよ!」
「――家族、その言葉を信じるぞ」
視線はまっすぐに俺を向いていた
俺には背負うものが出来た
そう考えるだけで胸が熱くなる
「そういえばテイマーの新しいスキルの《遠隔会話》を使ってみたかったんだ」
このスキルを使えば遠くにいる仲間と話せるらしい
テイマーだとテイムした魔物限定の会話になるがレベルアップで覚えられる
「聞こえるか?」
頭に聞き覚えのある声が響く
「――あれ?これってテイマーのスキル?昨日ぶりだねツカサ君!」
「長くは使えないけど試しに使ってみたんだ」
「――これなら遠くにいても話せるね!」
「また何かあったら話すからよろしくな~」
遠いからかラグがあるし戦闘向きではないな
「ついたぜ兄さん方!」
馬車は次の目的地、パルスへと到着した
ここは『中央都市 スワルク』に向かう途中にある町だ
まずは少しの間拠点として、情報を集めていく予定だ
「よし、町についたから起きろ~」
「ん……お、おはようございます!」
ぐっすりと眠っていたモモナが飛び起きる
「そんなに慌てなくていいぞ」
「お気遣いありがとうございます!」
「硬くならなくてもいいよ」
町に付いたらやることは一つ、宿と食事だ
いまの食事は4人分必要だ
金には余裕があるからとりあえず手頃なとこを探そう
「宿を見つける気だな?ふわふわのベットじゃないと許さないからな」
「わかったよ、お前の頑張りはわかってるからちゃんとそうする」
「それとデザートもな」
「はいはい」
表情はキリっとしているが尻尾が横に触れているのがわかる
「それにしてもたくさんの種族がいるな、デールスよりも異世界って感じがする」
人間以外の種族がたくさんいる光景はまさに異世界
獣人という人型の獣がよく目だつ印象だ
マオの見た目は半獣人と呼ばれる人間にケモ耳がある感じだ
それとは違いもう動物って一目でわかる
「ここは本当に自由な国なんですね」
「こんな光景モモナは初めてだもんな、俺も初めてだけど」
「はい、なんだかすごくワクワクします!」
純粋な少女の笑顔がまぶしい
「お嬢ちゃん、良かったらこれどうぞ」
熊らしき獣人がモモナに風船を渡す
「これって……何ですか?」
「ん?ああ、これは風船だよ、ほらふわふわして持ってるだけで楽しいだろ?」
「あ、ありがとうございます!」
「どうも、風船なんか配ってるけど祭りでもあるのか?」
いきなり風船を渡す獣人に俺は少し警戒する
これが子を守る親の気持ちか!
「いやいや、警戒しなくていいですよ
おっしゃる通りこの町はお祭りみたいなもんでしてね、こう、子供たちが楽しそうにしてたら雰囲気がいいじゃないですか」
すごく穏やかに微笑む顔を見て安心する
この顔を嘘で出せたら誰
「なるほど……お祭りみたいなもんって何をするんだ?」
「もうすぐこの町の守護神様の子供が生まれるんです」
「それでこんなに盛り上がっているのか」
「それではこの町を楽しんでください」
そう言い獣人は去っていく
ほんとにいい町なんだな、みんな笑顔で楽しそうだ
「よかったなモモナ、風船はすぐ割れちゃうから気をつけろよ」
「はい!なんだか見てるだけで楽しいです!」
「モモナ、その風船私にも少し貸してくれ」
「マオは大人だろ?これはモモナが貰ったんだよ」
「私は人間になったばっかりだから子供みたいなものだぞ」
マオも人間の世界を知らないから興味があるのか
「マオ様も持ってみてください、楽しいですよ!」
「ふん、風で揺らぐ姿は中々いいものだ」
それを聞いていたスラルクが背中から飛び出す
(ぼくと同じ形なのに浮いていてすごい!)
「俺はもう良さが理解できない大人なんだな……」
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宿を確保するためにやってきたがすごい派手だ
宝石のようなもので飾られ、たくさんの羽が飾り付けられている
どこも満室で借りられるところがないのでここしかない
「こんなキラキラしたところで寝られるんですか!」
「ベットはふわふわで頼むぞ」
「いや、そういう問題なのかなこれは……」
恐る恐る扉を開くと内装は思ったより普通で静かだ
「すいませーん……」
誰が来るかわからないので声の大きさを控える
「いらっしゃい!何人でお泊りで?」
迎え入れたのは元気そうな少年だ
「ここって宿屋だよな?」
「はい!今は神鳥様の誕生祭の準備中なので派手に飾ってます!」
「神鳥ね、それが守護神として祀られているのか」
「今年は僕の家の宿が担当なので町のみんなが飾ってくれたんです!」
なるほど、この装飾は今だけ特別なものなのか
「とりあえず3人の部屋を用意してもらえるか?」
「はい!――ってお客さんはテイマーなんですか?」
マオとモモナを見て少年の顔が輝く
モモナの手にはスラルクが抱かれているからそれでテイマーとわかったのか
「お、俺テイマーになりたいんです!どうしたらなれますか!」
「いやー俺もよくわからないんだけど……動物を愛していたらって感じかな」
「うおー!すげーやっぱそうなのか!」
謎にガッツポーズをとりテンションが上がる
テイマーは珍しいらしいし憧れているのがよくわかるな
「とりあえず部屋に案内しますね!俺の名前はファスト、予六市区お願いします!」
「俺はツカサ、よろしく」
ファストはまだ14、5歳だろうか
この宿を一人で経営してるわけはないよな
部屋につくとマオが即座にベットの質を確かめる
「おお!このベットだ!私が求めていたのは!」
嬉しそうにベットを飛び跳ねる
それにつられてモモナもベットで跳ね始める
「ベットの上で跳ねるなよ!」
「いいですよ、他に宿泊者はいないしもう使うことはないので」
すこし悲しそうに微笑むファストがぽつりとつぶやく
「もうこの宿は終わりなんです」
「終わり?どういうことだ?」
「神鳥様の供物としてこの建物が選ばれたんです」
「は?」
神に捧げる供物は生贄を想像する
まさかこいつが生贄になるのか?
「神鳥様の子供に栄養を与えられるようにこの町から供物が選ばれるんです
それが今回は俺が選ばれたんです」
「親は反対しなかったのか?」
「いいえ、俺が選ばれた瞬間親はこの宿を捨てて出て行きました
俺は逃げられない、神鳥様の為にあとは過ごすだけなんです」
とんでもないな
明るい町だと思っていたがこんな闇を抱えているとは
いや、これが当たり前って認識なのかもな
「お前、よかったらこの町を案内してくれないか?飯も奢るぞ」
「ほんとですか?!ぜひ案内させてください!」
これから死ぬかもしれないやつをどうしても助けたくなった
そう思うと近くに小さな影がこちらを覗くのがみえる
「ん?あいつはなんだ?」
「こいつは俺が飼ってるフロストラビットです!
ひんやりして気持ちいいんですよね!」
「キュ!」
氷の属性を蓄えたウサギか
なつき具合を見てる感じほんとに愛情を込めているのがわかる
「連れて行ってもいいぞ、俺の仲間たちもきっと可愛がる」
「やったあ!よかったな!」
「キュー!」
「なぁファスト、この町にクレープってないか?」
ベットで遊んでいたマオが勢いよく反応してこちらにくる
「おい!クレープがあるのは本当か!」
「まだあるって決まってないから落ち着けよ」
ファストの服をつかみ問い詰めるかのように見える
「は、はい!あります!近くにあります!」
「よし!早速行くぞ!モモナ、スラルク、付いてこい!」
「わかりました!スラルクさんも行きましょう!」
こいつら食べ物に釣られすぎだろ
そこがまたいいなと思う俺も俺だが
「行きましょうかツカサさん」
「そうだな」
入口がなんだか騒がしい
「おいどけ人間ども、私たちはこれからクレープを食べに行くんだ」
扉の向こうにはたくさんの人が押し寄せている
「ファストが自分を守りたいからって冒険者をこの宿にいれた噂は本当だったのか!」
「出てこいファスト!逃げるな!」
どういうことだ
なんだこの人達は
ファストが震えて汗をかいている
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫……です……」
「あいつらはなんだ?」
「あの人たちは僕が生贄になりたくないと思って助けを求めたと思ったんです
だから動けないようにここにきたんです」
入口の人たちはみな武器を手に持っている
そこまでしてこのファストという少年を追い詰めるこの町の異常性にもっと早く気付くべきだった




