10 優しい呪い
奴隷たちを乗せ馬車は進む
デールス王国の追手は来ないがもうあの国には行けないだろう
なにせ貴族御用達の奴隷市場のエリアを一つ破壊
奴隷の脱走と兵士の殺害
勇者あることを明かさなければ罪人として裁かれるだろう
「もう――、朝か」
日は昇りもうじきデールス王国領土を抜けバサバ共和国という異種族が同時に暮らす国の領土に入る
バサバ王国は来るものを拒まず、だれでも入国することが出来るがトラブルなどは自己解決しなければならない
つまり死んでもなにもお咎め無しの無法地帯だ
しかし意外にも民度はいい、その理由は国民の団結力だろう
「……さぁついたぞ」
ホドの小さな声掛けでは疲れ切った人たちを起こすことはできない
薄っすらと意識があり目の隙間から光が入る
小さな声に気づきツカサが皆を起こす
「ふわぁ~よく寝たね、ホド君お疲れ様~」
目を半開きにしながら眠そうにカヤナが目を覚ます
「おう!お前ら起きやがれ!!朝が来たから飯食うぞ!!」
目が覚めたジウは起きて早々元気だな
誰でも目が覚めそうな声を出すジウの声は
奴隷たちも続々と目を覚まし自由を実感し始めたようだ
「俺ら……自由になったんだ……」「もうおびえる日は終わりなのね」
「「「「ありがとうございます!!」」」」
奴隷たちが一斉に感謝を伝える
体はボロボロで涙を浮かべるものがほとんどだ
奴隷は9名ほどいる
みんな種族がバラバラでけががない
マオが頑張ってくれたおかげだ
「私はカヤナ――あなた達を助けたくてやったからね、これからは自由に生きてね、お礼とかは生きてくれるだけで良いからさ!」
にっこりと歯を見せながら笑うカヤナはとてもまぶしく見える
「あと感謝なら私じゃなくこのマオちゃんにたくさんしてあげてね!」
ずっと寝ていたはずのマオの耳がピクリと反応し飛び上がる
「ふっふーん!私はマオだ!お前たちの命の恩人、私に供物を捧げることを誓え!」
「こいつはおかしなことをたまに言うんだけど、人助けが初めてだからテンション上がっているんだ、気にしないでくれ」
「おい、私は感謝されるべきじゃないのか!」
余計なことを言うので保護者の俺が何とかしなくてはならない
「おお、あなたはマオ様というのですね、感謝してもしきれません……」
「わかればよいのだ、わかれば」
調子に乗っているけど今は頑張りに免じて放置するか
それよりも気になっていたものがある
氷漬けにされているレイ、これは後で解決するとして
馬車の奥、そこにはヨウと横たわる少女がいる
マオの連れてきた鬼の少女モモナだ
「なあ、ヨウがずっと様子を見てるその子――」
「ツカサか、こいつは呪いがかけられていてな、マオが連れてきたんだがひどく衰弱していてな」
モモナのことをヨウは夜通しでずっと看病をしていたようだ
初対面の子供の為にここまでするのは本当にいいやつなんだな
「カヤナ!この子をちょっと見てくれないか?」
大きく手を振りヨウはカヤナを呼ぶ
「はいはい~ってこの子今にも死んじゃいそうじゃない!」
「お前もそう思うか?呪いがどんなのかわかったりするか?」
「うーんちょっと待ってね」
ぐったりと寝込んでいるモモナに手をかざす
「これ、ただの呪いじゃない、祝福と呪いが混ざっているよ……」
「そんなことありえるのか?」
「ん?どういうことだ?祝福があるならいいんじゃないのか?」
「ツカサ君はあんまり詳しくないだろうから説明するね
祝福と呪いの表裏一体、良い効果と悪い効果が同時に発動することはありえないの
だからこうなっているのは特殊としか思えないしだれがこんなこと……」
本来ならありえないようになっているから祝福でもなく呪いでもないのか
だから解くことはできない……か
ツカサは苦しそうにするモモナの近くにしゃがみ手を握る
「初めましてだな、モモナっていうんだよな?
お前を助けたマオの主人をやってるツカサだ」
モモナはかろうじて目を開きツカサの顔を見る
力を振り絞り声を出す
「ツ……カサ……?」
「ああ、そうだ、ツカサだ
俺はテイマーなんだがよかったらテイムされないか?
マオはお前のこと気に入ってるみたいだしどうかなって思ってさ」
マオが認めた、そしてここまで助けて連れてきた
モモナが死んでしまったらあいつは何もしなくなるかもしれない
悲しい顔をさせたくない、だからなんとか助かる可能性を取りたい
「おい、ツカサ正気か?死にかけの鬼の少女をテイムして何になるんだ?」
「ツカサ君、なにか考えがあるんだよね?信じるよ」
困惑するヨウとこちらをまっすぐに見つめるカヤナ
俺の推察が正しければ出来るはずだ
「私は、お姉さまの従者です……だから……その主の方なら……」
「ああ、悪いようには絶対にしない」
「テイム」
ツカサが手をかざしテイムをする
体の痣は消えていき顔色が良くなっていく
「ヨウ!早くポーションのませてくれ!」
「わかった!」
ポーションを飲んだ先ほどまで屍のようになっていたモモナの肌に赤みが戻っていき力が湧いてくる
「あれ……私生きてる……?」
「ああ、ちゃんと生きているぞ、改めて俺はツカサ、よろしくなモモナ」
手を差し伸べるツカサの手にモモナは震えだし触れられない
「あ、あの、ごめんなさい、もう悪いことしませんから……」
「大丈夫、俺は酷いことしないよ、そんなことしたらマオに怒られる」
優しく微笑み危険がないことを伝える
いままでの生活上殴られたりは当たり前だろうから初対面で触れるのは難しいだろう
恐る恐るツカサの手に小さな震えた手が近づき――握る
彼女の手はとても冷たく力ないものだ
「ほら、なにもしないだろ?この冷たい手を温かくしよう、ご飯を食べよう」
「すごい、すごいよツカサ君!なんで治ったの?テイムにそんな効果ないよね?」
「お前ってホドが言ってた通りただものじゃなかったんだな」
「ホドには言ってないと思うけど……それは後で話すよ」
インベントリが表示される
『名前を付けてください』
そんなのは決まっている
「モモナ、立てるか?」
「は、はい!こんなに動けるの初めてです!」
馬車の出口にはマオがいた
「ようやく目を覚ましたか、モモナ
――はやく飯を食うぞ、付いてこい」
モモナはこちらを振り返る
「いいぞ、行ってこい、後で俺も行くからさ」
「はい!」
元気になったモモナは馬車を飛び出しマオに勢いよく抱き着く
「な、おい、何をするんだ!」
恥ずかしいのかたどたどしくなるマオ
そんなマオに抱き着き泣きじゃくりだすモモナ
「お姉さま、私死んじゃうかと思いました……
せっかく出会えたのにもうお別れだと思うと怖くって……」
体に顔をうずめ震えるモモナの頭をそっと撫でるマオ
「し、心配はもういらない、私の従者なんだからな
――――、好きに泣け、私はそれを許すぞ」
なんだかほっこりする
マオの成長を物凄く感じるからいい出会いだなほんと
「よっしゃ!飯の準備ができたぜ!!」
ジウとホドが近くの料理屋に行きこの大人数分の食事を持ってきてくれたようだ
「わーい、ここのサンドイッチ最高なんだよね!このふわとろの卵!」
「カヤナはここに来たことあるのか?」
「うん、この計画を進めるときに何度も視察に来たからね
ここなら仕事も住む場所も困らないと思ってね」
「なるほどね――ってうま!このサンドイッチ!」
「でしょ~、ツカサ君もハマっちゃうよきっと」
「お姉さま、これはなんですか?」
「ん?ああ、これは――サンドイッチだ」
(危ない、いまカヤナとツカサの会話が無かったら恥をかいていた)
「サンドイッチ……」
見たことも聞いたこともないものに戸惑うモモナ
「はぐ……ん!」
「どうだ、新鮮なサンドイッチは」
「こんなに、こんなにおいしいご飯は初めてです」
「お前はすぐに泣いてしまうな、これからは旨いご飯ばかりだから安心しろ!金はあいつが出すから」
聞こえてますよ
まぁ俺の役目だしいいんだけどね
「なぁなぁ、ツカサ、さっきの呪いの件、どうやったか教えろよ」
「あ!私も聞きたい!」
「俺のことを殺したりしないか?」
「当たり前だろ?ジウさん!ホド!ツカサが秘密教えてくれるってさ!」
いつかは言わなきゃいけなかったけどここで言うとはな
ギャラリー増やしてるし
「まぁいいか、これが俺の正体」
左手の手袋を外し勇者の紋章を見せる
「ツカサ君勇者なの……?」
「はは、こいつは驚いたなぁ」
「ツカサは勇者だったのか!なら強いのは納得だな!」
「あんまり見せびらかすもんじゃないと思っててさ、隠しててごめんな」
カヤナが近づいてきて両手を俺の頭の後ろに巻いてきた
これはハグという奴だろう、心臓の鼓動が早くなる
「な、なんだよ急に!」
「ごめんツカサ君!私ね、勇者が大嫌いだったの
でもあなたみたいないい人がいるの知らなかった……だからごめんね!」
「嫌いだからって謝らなくていいよ、実際問題起こしているらしいし」
とりあえず落ち着かせて座りながら話すことにする
「俺のアビリティ《勇者の仲間》ってのがあるんだけどそれがあると病気とかにならないらしいんだ」
「なら勇者の仲間は元気いっぱいってわけか!二日酔いしないのは羨ましいぜ!」
「ジウさんは二日酔いしたことないでしょ……」
ヨウが思わずツッコむ
「……お前のスキルを見たときの違和感は勇者のスキルだからなのか」
「ホドはツカサと会ったとき速攻でスキル覗いてたからな!」
「そうだったのか、まぁ見られて困るものじゃないけど他人からはそう見えるのか」
「うーん、勇者のアビリティは女神の加護に近い……
だからテイムした魔物とかも仲間扱いで加護を受けれるのね」
モモナが何かを言いたそうにこちらをチラチラ見てくる
「ん?どうしたモモナ、何か言いたいことあるなら言っていいぞ」
いきなり指されたので驚いて焦る
「あ、えっと、呪い?かわからないですけど元気がなくなるときがあって
それがお母さんが死んじゃう時だったんです」
「お母さんが呪いをかけたってことか?
だとしたらなんでそんなこと自分の娘にするんだ」
その疑問の回答をカヤナが納得した答えを出したようだ
「――多分モモナちゃんのママは危険な目に合わせたくなかったんだと思う
連れて行かないでほしい、生きてほしいっていう祝福を望んだ
しかし死に際の後悔で祝福は呪いになってしまった」
「モモナちゃんはとても辛い生活をしていたけど呪いの痣のおかげで売られず捨てられずに生きてこられた
これは、私が知る限り最も優しい呪いだね」
優しい呪い、呪いという形でモモナを守り続けた
誰にも解けない呪いとなりいまここで役目を終えた
「そっか……お母さんが守ってくれたんだ」
「辛かったけどこれからは大丈夫だからな!あんな目には合わせない」
「私の従者なんだからな、守ってやる」
再び目に涙が浮かびだす
「主さま、お姉さま、ありがとうございます」
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元奴隷たちを新たな住処に案内し仕事を紹介してくれるところを案内した
これから彼らは独立してもうあんなところに閉じ込められることはないことを願う
「ここでやること終わったんなら俺らはデールスに帰るぜ!」
「ジウ達帰っちゃうのか?国で捕まったりしないか?」
「ホドがいろいろやってくれたからさ、正体はバレてないから平気
ツカサ、いろいろありがとな、この前の奢りの礼返せてないからいつか顔見せろよ?」
そうか、ジウたちとはここで別れるのか
モモナを連れてデールス王国に戻るのは危険すぎる
すこし名残惜しくて目頭が熱くなるなぁ
「ああ、高級な酒を頼むから覚悟しとけよな!」
「へ、勇者ツカサ様が世界救いましたって話を待ってるぜ」
「……また会おう」
ヨウとホドはいいやつだった、また話したい
「おうじゃあなツカサ!お前が勇者だろうがもう仲間みてぇなもんだ!
今度は飲み明かすぞ!」
ジウとも共闘しあんなに豪快で楽し気なやつは初めて見た
ザ・冒険者って感じがすごくいい
「みんな!ありがとう!また会いに行くからな!」
3人を乗せた馬車は次第に小さくなっていく
「いっちゃったね~あとはこっちの問題片付けようか」
「ああ、ちゃんと話すんだよな?」
いつになく真剣な表情をするカヤナ
「うん、レイがなんでこんなことしてたのか、こんな目にあったのかを聞かなくちゃ」
元奴隷たちに紹介された居住区の一角
その空室の中
誰も近寄らない部屋にいる俺たちの前には氷漬けのレイがいる
「よし、ちゃんと見張ってるし縛ってあるから大丈夫だ」
カヤナの魔法で氷を溶かしポーションを飲ませる
凍っていなかったかのように静かに目を覚ます
「さぁ、話を聞かせてね、レイ」




