09 売れ残りの少女
「あ、あなたは人間ですか?」
痩せ細り、今にも倒れそうな角の生えた少女が床に座り込んでいた
「私は魔王だ、お前は鬼か、今にも死にそうじゃないか」
マオは飢餓による死にかけの状態を見たことが無かった
満足に食事もしていないのか?可哀そうなやつだな
「まおう……?」
「なんだお前、魔王も知らないのか、魔物たちの王様で偉大な存在だぞ」
「じゃあ……外の世界をたくさん知ってますか?」
マオは魔王の存在すらしらない少女に疑問を抱く
「人間の国のことは知らないが知ってはいる、お前はいつからここにいる?」
すこし考えて黙る鬼の少女
「わかりません、ずっとここにいたので……」
「ちゃんとご飯は食べているのか?ま、ここの環境を見るにまともな食事は出てこないだろうがな」
牢屋の中はトイレに使う用の掘っただけの穴
藁の束が散乱していてこれはきっとベットの代わりだろう
――こんなところに何年も、よく耐えているな
「お前は鬼だからこんな劣悪な環境にも耐え、食事をとらずとも生きているのかもな」
「私は、外のことはわかりません、どんな場所なのか、どんなご飯が食べられるのか……
でもたまにこうして外から来た人と話すのが楽しいんです
みんな売れて私はずっとここにいるから……」
こいつは哀れだ、自分の生まれを恨むしかない
けどあいつらの作戦が成功したらこいつも自由か
しばらく無言が続いた
マオ自身もあまり誰かと長くコミュニケーションをとるのは無かった
しばらく考えマオは関わったことのない人物の話に興味が湧いてくる
「――お前、外に出れるとしたら何がしたい?」
突然の質問に少し焦るが顔が明るくなる
「そ、外に出られたら甘い、ってものが食べてみたいです
――、それとぱれーどっていうキラキラしたのも見たいです!
一度だけ見たことある天井のキラキラよりキラキラって聞きました!」
「そうか、ぱれーど?は知らないが甘いってものは私も最近始めて食べたぞ、クレープと言ってな
柔らかい牛の乳を小麦で巻いて果実を乗せるんだ」
ツカサやカヤナと関わっていくうちにマオも人間の文化に最近触れだした
そのなかでも唯一食べた甘い食べ物がクレープ
マオの中でも初めての甘さで記憶に強く残る食べ物だ
「す、すごいです!そんなもの聞いたことないです!
いいなぁ、食べてみたいなぁ……」
少女の顔には笑みが浮かび嬉しそうにしている
その表情を見たマオは不思議な感覚になる
今までは全てが敵だった
でもこいつの浮かべ私に見せる表情はなんだ?
あの勇者もカヤナ、スラルクも私の為に何かをしてくる
私もそんな気持ちをこいつに思ってしまっている
マオの顔は薄っすらと赤くなり壁を見ながら喋りかける
「そのクレープの店……私が連れて行ってやろうか……」
な、なにを言ってるん私は!
なんだか顔が熱い、顔を見ることができない!
「え、え、そんなことって、できるわけないですよ……
私たちは奴隷なので……ずっとここにいるんです」
マオの優しさは少女には現実味がなく思ったよりいい発言ではなかった
「ぐ、そう落ち込むな、本当だ、私は魔王だし、そ、外には仲間もいる!」
「仲間?」
「ああ、仲間だ、私はここの奴隷を解放するためにここに来たんだ」
「でもここの人たちはみんな怖いです……」
思うようにいかずマオは少しイラつきが溜まる
なんでこいつは話を聞かない!
私が助けようとしているんだぞ、少しは希望を持ったらどうだ
―――でもこいつはずっと一人でここにいる、今更そんなこと言われてもってことか
「よし、じゃあお前を私の家来にしてやる」
マオは自信満々に腕を組み尻尾を揺らす
少女は困惑し意味も分からずにただ無言でいることしかできない
「家来が何かわからないって顔だな、ようは私が守りお前が私を守るってことだ」
「でも私は守る力なんてありません、それに私が売れないのはこれがあるからなんです、だからあなたも私と関わらないほうがいいんです」
初めての誘いを断られさっきまで揺れていた尻尾は動きを止めていた
そう言い少女は自分の服を脱ぎ体を見せる
思わず背中を見たマオは動きが止まる
「これは呪いか、呪われているやつを見るのは久しぶりだな」
体中には黒く渦を巻いたような跡がある
見る人によっては禍々しく気味が悪いと思う
「そんなのは魔王には通用しない、無理やりにでもお前だけは連れ出す」
マオの顔には笑みを浮かべ立ち上がり少女を見る
遠くで大きな衝撃音が鳴る
これはツカサが牢屋に入れられたときに救出しにきた時のものだ
「よし、ちょうど合図が鳴ったな、行くぞ」
マオは壁に近づき壁を殴り大きな穴を開ける
その光景を見た少女は目に涙を浮かべる
「ほ、本当に、ここから出られるんですか?
あなたは一体何者なんですか?」
マオは大きく笑う
「はっはっは、最初に言わなかったか?私は魔王だ……いや今はマオだ
お前は私の家来だ、拒否はさせないぞ」
少女の瞳に浮かんだ涙は零れ頬を伝う
「私は、ずっと、ずっとここにいて死ぬんだと思っていました
外のお話だけ聞いて夢ばかり見ていました……」
「もうその心配はない、お前は家来となり、私を守り私が守る
お前――、名前はあるのか?」
少女は首を横に振る
壊した壁から薄っすらとした明かりが入ってきて少女を照らす
そこには赤みがかった肌 薄っすらと桃色の髪の鬼がいた
「ほう、桃色の髪をしていたのか、私が名づけるのは初めてだが
――モモナ、お前は今日からモモナを名乗るといい」
モモナは涙をぬぐい嬉しそうに答える
「モモナ、モモナ、それがお姉さまが与えてくださった名前ですね」
「お前と出会ったきっかけのカヤナという女がいてな、そいつの名前からとったみたいなものだ
――あとそのお姉さまってなんだ!」
ずっと笑わなかったモモナが笑う
「姉って存在はすごく頼りになる女性って聞いたことがあるんです
だからお姉さまって呼んじゃいましたけどダメでしょうか?」
初めて笑うモモナ、それは自分のおかげかと思うと心の中で何かが熱くなる
マオはテイマーからではなく他人から頼られることをうれしく思った
「そ、そうか、マオの名を呼ばれるよりそっちのほうがいいかもな、うん
好きに呼ぶといいぞ」
「はい!お姉さま!」
遠くから壁を壊した音を聞きつけた人たちがたくさん駆けつけてくる
「おい!ここで何をしている!」
「壁を壊している?なんでこんな力が半獣人なんかに」
「おいモモナ、お前は私の背中に掴まっていろ」
「は、はい!」
マオの背中にモモナを背負い戦う
このほうが守ることもできて移動も早くできる
モモナはなんて軽いんだ……
はやくあいつらに金を貰ってご飯を食わせないとな!
「ふふふ、お前らは運がいいぞ、私はいま気分がいいからな
苦しまずに殺してやる」
「咬喰」
レベルが上がり同時に3つまで対象になった
一瞬で看守たちは息絶えた
「すごい、あんなに強い人たちを一瞬で!」
「ふ、モモナがまだ弱いだけだ、こんなやつらが敵うわけがない」
モモナには見えていないがドヤ顔をしている
「よし、ほかの奴隷を助けるぞ、離すんじゃないぞ」
「はい!」
牢屋のエリアを駆け回る
充満する匂いの微かな人の匂いを頼りに進んでいく
目の前に現れる邪魔は一瞬で切り裂かれる
「お姉さまはすごいです、こんなに早く動いてるのは初めてです!」
「外では今よりも早く駆けていたぞ」
「ここか」
匂いのたどり着いた先には大量の獣人、半獣人、鬼、エルフなど様々な種族がいた
「あ、あんた誰だ?さっきからたくさんの血の匂いがするんだ」
獣人の男が何が起きているのかを牢屋の外にいるマオに問う
「私はお前たちの開放に来たんだ、今出してやる」
「こんなに人が閉じ込められていたなんて知らなかったです」
「お前は奥の牢屋にいたからな、呪いのせいで捨てられないから邪魔者扱いだったんだろう、そのおかげで出会えたがな」
モモナは頬を赤らめてにっこりと笑う
鉄の柵を捻じ曲げ通れるスペースを空ける
奴隷たちからは歓喜の声が上がる
「あなたは救世主様です、ありがとうございます」
「本当に助かりました!」
「そんな礼を言ってる場合じゃない、さっさとここを出るぞ」
出口は思ったより近い
モモナの牢が遠いところにあり普通の牢屋はここにまとめられていた
「もうそろそろ外だ、楽しみにしていた外だぞ、今は夜で町は暗いがな」
「それでも……すごく楽しみです」
階段を駆け上がり奴隷市場を駆け抜ける
奴隷市場で目立つのは危険
立ち止まらずに走り抜けるのが一番の最善策だ
「絶対に立ち止るなよ!いつ捕まるかわからないからな!」
マオは後ろで走る奴隷たちを気にしながら戦うしかない
奴隷市場で奴隷が逃げているという状況はあまりにもほかのエリアの業者からは好都合、無料で奴隷が手に入る最高の状況だ
「おい!奴隷が逃げているぞ!」
「捕まえるのは俺たちだ!」
流石に市場だと邪魔が多いな
「空中爪撃」「咬喰」
一瞬で目の前の敵を排除する姿は後ろにいる奴隷たちに安心感を持たせていた
「この階段を上れば出口だ」
目の前の扉
外では警備員が待機しているはずだ
そんなのをお構いなしで扉を蹴破る
「なんだお前たちは!」
即座に兵士は槍を構える
見た目的には国の闇を守る王国の兵士だろう
「見なかったことにしろ」
警備員も即座に空中爪撃で切り裂く
「どうだモモナ、外の世界は」
モモナはマオの背中で上を見上げる
地下では感じない柔らかな風にあたり木々の香りが鼻を通る
その瞳には無数の星の輝きが映っていた
「綺麗です、天井のキラキラ、また見れました……」
「天井ではなく空だ、そしてキラキラは星だ」
「あの丸は何ですか?」
「あれは月だ、今日は運よく満月だな」
「知らないことがいっぱいあって、胸が……ドキドキします!」
口が半開きになり色んな所を見渡す
大きな情報量を処理しきれないようだ
嬉しそうなモモナをみてマオも嬉しくなる
だがまだ油断はできない
「全員でたな!このまま私についてこい!」
負傷者もいないのは全てマオが完璧に襲ってくる者たちを処理していたからだ
嗅覚の良いマオは近づくものがわかるからこそできたことだ
追手はこない、きっとたくさんの人が死んだからだろう
下民街の入り口ではなく奥へと進む
そこには抜け道がありジウの仲間のヨウとホドが待機している
「見えた、お前ら!あの馬車に乗りこめ!」
ヨウが手を振り合図しているのわかる
「お前がツカサの仲間のマオって半獣人か、こんなに大勢を連れてきたのは流石だな」
「当然だ、私を誰だと思っている」
「知ってるぜ、ツカサにテイムされた半獣人だろ?」
「そういうことを言いたいのではないんだが……」
マオの言いたいことはヨウには伝わることはないだろう
全員乗り込んでホドが出発の合図を出す
「……まだ中にいるやつらはどうする」
「カヤナ達を信じるしかないな、ジウさんは頑丈だから心配はいらないと思うけど」
「……それもそうだな、そしてマオ、背中の鬼はなんだ」
「こいつはモモナ、私と同じ牢にいてな、家来として助けてやったんだ」
背中からモモナを下ろし紹介をする
「すごいボロボロじゃないか!ホド!ポーションを!」
モモナにポーションを飲ませるが何も起こらない
「こんなおいしいお水初めて飲んだ……」
新鮮な水を飲んだことのないモモナにとってポーションは美味しかった
「おいしいか?まぁ飢餓状態ってのもあるけどフラフラだ、ポーションが効かないならカヤナに聞いたほうがいいかもな」
「こいつは呪われている、ポーションが効かないのも力がないのもそのせいだろう」
「呪いだって?よく生きているな君は……」
「……とりあえず全員がそろうのをまとういつでも逃げる準備は出来ている」
――もうそろそろ夜が明ける
馬車に乗り込んだ奴隷もモモナも眠っている
馬は夜の活動の為に昼間にスリープの呪文で眠らせているから寝なくても元気だ
どんな状況にも対処できるようにマオ、ヨウ、ホドは起きて待っている
静けさの中無口なホドが口を開く
「……来たみたいだぞ」
「おぉ!ほんとだ!おーい、早く!こっちだ」
手を振る先にはツカサ、カヤナ、ホドがいる
ホドの腕には凍り付いたレイの姿がある
「ごめんみんな、結構長引いちゃった!」
「氷をずっと持つと痛くなっちまうぜ!」
「カヤナ、お疲れ、それとジウさんなら平気でしょ」
ジウとヨウが笑い合う
「ただいま、マオ、頑張ったな」
「当然だ、私が失敗するわけないだろう?」
「それもそうだな、マオだもんな」
ツカサとマオが微笑み合う
「マオちゃん本当にありがとうね、あとでたくさんご飯食べよ!」
カヤナがマオに抱き着きマオは前ほど険しい表情をしない
「ちゃんと旨いもので頼むぞ」
「なんかお前大人になったか?」
「……すぐにでるぞ、馬車の中でも話はできる」
「それもそうだな、よし、行こう!」
全員無事に目的を果たす
この国にはもう訪れることはないだろう
あとは先を目指して進むだけだ
奴隷を乗せた馬車は追手の来ない遠い町へと向かった




