敵の領土で密談中
マーシャは話し始めるなり、侯爵であるカール・アン・シュタインがこの出来事の犯人だと言い出した。セレナはにわかに信じがたく思っていたが、コルンバ家に力を貸してもらう以上、彼女の協力もしなければならなかったらしく、仕方なくついていくことにした。
その影で、カールはベル・シュナイダーという得体のしれない戦力を確保しているのだった。
私達はカールの屋敷のある街の、小さな喫茶店にそれぞれの従者を連れて来ていた。マーシャはパンケーキとラテを凄く美味しそうに食べていた。本人よりも協力者である私のほうが危機感があるんじゃないだろうか。
「あんな領主なのに、こんないい店構えてるなんてねぇ!ワクワクしちゃうじゃない!」
彼女はウキウキしていた。
まぁ欲張りな領主にどうにか認めてもらうよう、味を極めた結果、強豪店ばかりになることも多々ある。ここもそのうちの一つだろう。まぁ、私とマーシャの屈強な従者たちが居るせいでカフェの静かな雰囲気が私なりに楽しめてないんだけど。
「あの...どうするんですか?侯爵について。」
マーシャはやっと食べていたものを机に乗せ、膝に手を置いて話し始めた。
「ここへ私達が直接来た理由としては、あの侯爵が私らを少なからず見失うということ。そしていま連れてきている従者たちに指示を出しやすいこと。あなた、国王になるんでしょ?それならそもそもあいつの矛盾した社会主義の思想は貴方のの敵となる。今のうちに潰しても構わないなら、直接的な抗争もありってことです。」
私には見えていないとこまで見えている。私の「いち早く」、「どんな手段でも」という考えを見越してなら文句の付け所がない。
考えはまとまった。
「グラオベア!」
彼は私のアルマンド家にかなり昔から仕える老執事だ。彼はプロだ。老いを知らず、日に日に少しずつ優秀になっていく。
「剣の達人で、昔を兵役をやっていたお前に折り入って話がある。」
「ッ.....なんなりと。」
「潜伏して欲しい。カールの執事の一人として」
少し考え込んでいた。彼なりのプライドもあるだろう。だがそれ以上に私はグラオベアにかなりの信頼を置いている。
覚悟を決めたようにして、口を開いた。
「御意ッ!」
しかしそれを心配してか、メイドの一人であるサファイアが手を挙げた。
「あの...私いけます...」
彼女は「白のメイド」一番ランクの低い従者だ。その者が名乗り出るなんて初めてだった。感心している私を横に、グラオベアは言葉を振り切った。
「心配いりません。任されたからには、必ず。」
彼は腰を90度曲げて礼をしてから店を出ていった。
お金を全部払ってくれてもいた。
グラオベアはアルマンド家にセレナの母が子供の頃から仕えている。熱い男であり、作中でかなり無愛想に振る舞うこともあるが、前述の話でセレナに指名されたことをかなり嬉しく思っている。
彼はこう心でつぶやいた。
「この私にも、まだ役割を与えてくれるとは、、、いいでしょう。この老い先短い人生、捧げます。セレナ・ド・アルマンド様!」