伯爵テスト
馬車の中でセレナはコルンバ家の話を少し聞いた。テレスの家はどうやら超実力主義らしい。だからこそ協力してもらうためにも自分をアピールしに行くというのだ。
そして屋敷に着くのだった。セレナは伯爵の部屋の前に立っても、不思議と緊張感はなかった。
部屋にテレスに次いで入ると、机にうつぶせている一人の大男がいた。部屋の中央にある机と、高そうな装飾品。何より肩についている多くの勲章を見るに、彼が伯爵なんだろう。
「旦那様!だらしないですよ、起きてください。」
テレスの母が背中をバシバシ叩く。
「うぅ、お前が書類の山を俺に丸投げするからだろう......あっ」
ようやくこちらに気がついたようだ。彼はすぐに姿勢を直し、机にあった紙の束を端に寄せ、何事もなかったかのように話し始めた。
「うむ。君がテレスの実の妹というセレナ・ド・アルマンドか...」
「はい。今は父母亡き空のアルマンド家を、代わりの領主として抑えています。子爵嬢のセレナ・ド・アルマンドです。」
相手は正面からは見ようとせず、何かを思索しながらこちらの動きをうかがっていた。私は思った。
「ナメられたものじゃない...」
私が彼らに少し一つ、講釈をたれ用ようとした時、伯爵が口を開いた。
「テストをしてもらう。話には聞いているぞ?テレスを含む君たちが私の協力を必要としていると。ならば自分のアピールをしろ。こんなことが得意だとか、こんな良さがあるとか。」
やはり来た。テレスの言ったことがそのまんまだ。そして平民上がり、それも叙任貴族の武士かぶれなだけあって不器用だ。そんな貴族らしくない振る舞いのある家だとしても、私は協力している側だ。彼らのルールに乗るのは当然であろう。
「喜んでやりましょう」
伯爵の表情が変わる。まぁここの返答次第ではすぐ追い出されることもあった。やって損はない。
ーーーー
そして面接形式でテストが始まった。
「算術には精通しているか?」
「はい。嗜む程度には」
伯爵は資料に目を通してから早速問題を飛ばしてきた。
「mという単位を知っているのを前提として、北の方角に 15m、東の方角に20mある長細い四角の田畑の面積を答えよ。」
私は何の迷いもなく答えられた。当然だ、国を変えるためには神のような全知全能でなくてはならない。すべての学問にあらかた目は通してある。
「はい、300㎡です。そして、知っていますか伯爵」
「ん?」
伯爵はよく食いついた
「この場合、その田畑の四角形の形は「長方形」というのです。他には四角形にはひし形や正四角形、平行四辺形などがあります。このような形のものや丸、三角、多角形などを使う算術を「図形数学」と言ったりします。」
伯爵は今の話をものすごく真剣に聞いていた。テスト中だということも忘れて。
「旦那様?」
テレスの母が怒り気味に言葉を発すると、伯爵は硬直して次に移った。
それからも、あまり難しくもない問題が次々と出されては、私は苦も無く答えていった。そして最後の質問に入った。
「最後の質問についてだが、これは正式な問題ではなく、答えがないんだ.....君の意見を聞かせてほしい」
「最近、私の民の食料が全く足りていないのだ。何度与えても食べ尽くすばかりで家の在庫も持たなくなるかもしれない。何か案はあると思うか?」
私は手を交差して深く考え込んだ。そして窓の外をふと眺めてから席に戻り、目を見つめて答えた。
「芋です...答えは「ジャガイモ」です。」
ジャックコルンバ伯爵は、平民上がりの貴族。モットーは「力があっても示さなければ意味がない」。しかも騎士団上がりの叙任貴族であり、近くにいる子爵や男爵にはあまり好かれていない。