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8話 問いかけ

セリフと地の文の間を2行空けてみました。

人によるとは思いますが、ちょっと読みやすくなってるかもです。


「どうして今まで手を抜いていたの?」


 

 シオンの問いは、静かだった。

 けれど逃げ場を完全に塞ぐような、鋭さがあった。

 数分前までの楽しい時間が嘘のように感じられる雰囲気だ。


 そして、先ほどまで、パンツを覗こうとしているかのように地べたに這いつくばっていたが、特にその行動についての説明はなかった。

 ……いや、パンツを見ようとするのは別に問題ない。むしろ見たいと思ってくれるのは嬉しいくらいだ。

 なのでこれに関しては別にいいだろう。

 いいのかよ。


 目の前にいるシオンは、さっきまでの少し緩んだ表情とは違っていた。

 背筋を伸ばし、腕を軽く組み、まっすぐこちらを見ている。


 

「あれ、もしかしてメイドお気に召さなかった? じゃあ、もっとご奉仕しないと……」



 わざと明るく、少し大げさにスカートの裾をつまんで軽く持ち上げ、いつもの調子で笑ってみせる。

 けれどその笑顔は、ほんの少しだけ引きつっていた。


 

「いや、メイドじゃなくて」


 

 ——くっ、ダメか。


 誤魔化そうとしたが逃してはくれなかった。どうやら本気らしい。

 かすみにはなんとなく、シオンが言いたいことの検討がついていた。


 

「勉強の話よ。今までもっといい点数を取れたはずなのにわざと間違えていたでしょ?」


 

 核心を、何の前置きもなく突いてくる。考える時間はくれないらしい。

 その態度に、かすみは自分の秘密を暴かれたことを悟る。

 

 

「……なんでそう思ったの?」


 

 声がわずかに硬くなる。平静を装ったつもりだったが、自分でもわかるくらい自然じゃなかった。

 様子から見ても、当てずっぽうではない。確信に至るだけの材料、根拠を、すでに揃えている。


 

「あなたの成績がわたしの想定よりも良かったことよ」

「……それだけで?」


 

 それだけであれば、主観的で根拠としては弱い。

 だが、かすみは油断しなかった。主観であろうとも、長年の付き合いがある相手であれば、それは確信に近い。根拠としては十分だ。

 そして、シオンの慎重な性格であれば、おそらく明確な証拠を得ているはずだ。逃げ道を塞ぎ、追い詰めることだろう。狩人に追い詰められた獲物のような気分になり、かすみは少し興奮した。興奮しちゃうのかよ。


 

「今までのかすみであれば、このテスト期間でわたしが勉強を教えて、家で勉強して、授業を真面目に受けたとしても、五十位以内にはいけなかったはずよ。なのに結果は38位。それと確信に至ったのは、これね」


 

 そう言ってシオンが差し出したのは、見覚えのある参考書とノートだった。今使っているものだけでなく、少し色褪せた中学時代のノートまで混ざっている。

 かすみはそれを見て諦めたような顔になる。


 

「申し訳ないけれど中身を見させてもらったわ。私のいない時にちゃんと勉強していたようね。私の知っているかすみの学力では解けないような問題まで解いていた。途中式もちゃんと書かれていたわ」



 シオンはノートの中身を開いて見せてくる。

 丁寧に使われていた痕跡。何度も書き直した跡。

 そして、誰にも見せていなかった本当の勉強量。

 それらすべてを、突きつけられた。


 視線を落としたまま、わずかに肩の力が抜ける。

 メイド服のフリルがかすかに揺れた。

 隠し通せる余地はどこにも残っていない。


 

「……いつも、もっといい点数を取れたのに、わざと間違えていたとしか思えない」



 その声音は責めるでも怒るでもなく、ただ淡々と事実のみを伝えていた。


 

「……疑い始めたのはいつかな?」


 

 シオンを欺くためにやっていたことだ。詭弁を弄して逃げたとしても、他ならぬシオンが黒と断定し続けるなら、もうゲームオーバーだ。


 観念したように問いかけると、シオンは一瞬だけ視線を細めた。


 

「リリとかりんが……アレしてた日よ」

「あ〜、やっぱり?」

 

 

 苦笑が漏れる。そうだろうなとは思っていた。あの時は焦るあまりに、かすみらしからぬ冷静な対応をしてしまった。そこで疑われたのだろう。


 

「でも、怒るつもりはないわよ」



 シオンの声は、先ほどまでの鋭さが少しだけ和らいでいた。視線も、どこか柔らかいものに変わっている。



「むしろ今回本気でテストを受けてくれて嬉しいと思っている。わたしと同じ大学に行きたいっていうのが、本当だってわかったから」

「ご主人様……」


 

 その言葉に、かすみの胸がぎゅっと締め付けられる。

 責められると思っていた。呆れられるかもしれないとも思っていた。なのに返ってきたのは、責任でも否定でもなく、安心させる言葉だった。

 そう、かすみは今回本気を出した。一緒の大学に行きたいという思いを誤魔化したくはなかったから。だから、シオンの優しい言葉に涙が出そうになった。

 


「怒らないから、理由を教えてくれる? どうしてこんなことをしたの?」


 

 かすみは口をつぐんだ。この質問がシオンの本命であることを理解した。


 ——シオンちゃんのことが好きだから。


 そう言いたかった。だが、今言ってもいいのだろうか。

 シオン的には騙された形になる。怒らないとは言ったが、やはり飲み込めないものもあるだろう。

 だから、かすみは核心には踏み切らなかった。

 


「ご主人様に、かまって欲しかったから……」

「そう、なのね……」



 嘘ではないが、本当の全てでもない。

 シオンは口元に手を当て、小さく息を漏らす。少し驚いたような、でもどこか納得したような表情。


 

「まあ、別にいいわ。今日からはもうこういうことはしないでね」


 

 きっぱりと、でもどこか柔らかく言い切る。

 納得はしていないだろう。だが、かすみに気を遣って、これ以上は踏み込まないでくれた。本気でテストを受けてくれた礼でもあるのだろう。


 

「はい、ご主人様」



 長く続けてきた小さな嘘。ばれないように調整して、気づかれないように振る舞ってきた日々。それがこんなにもあっさりと見抜かれて、終わってしまった。けれど不思議と後悔はなかった。むしろ胸の奥にあった重たいものが、少し軽くなった気がする。

 

 いずれバレることだと、頭の奥で理解していたからだろう。


 だが、まだ終わりではない。まだ真実の全てを差し出したわけじゃない。

 





 そう、むしろこれは始まりだった。

 

 これをきっかけに、二人の甘く切ない青春百合ラブコメ(※性的変態百合描写あり)が加速することを二人はまだ知らない。知りたくなかった。てかご主人様呼びやめろ。



 

今期アニメは呪術廻戦の日車戦が1番好きです。

グノーシアも良かった。

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