13話 ファッションモンスター②
「水着も買おっか。かりんちゃん『夏は絶対海行こう!』って言ってたし」
かすみが次に目をつけたのは、水着売り場だった。ショッピングモールの一角に広がるそのスペースには、色とりどりの水着が所狭しと並んでいる。
「今持ってるのだいぶ前に買ったやつだし、たしかにそろそろ新しいの買ったほうがよさそうね」
シオンも周囲を見渡しながら頷く。ショッピングモールの中でここは一際『サマー!』といった感じの開放的な雰囲気が漂っており、少しテンションが上がる。
そんな中、かすみは迷いなく一着の水着を手に取る。
「シオンちゃん、こういうのはどう? シオンちゃんにピッタリだと思うんだ!」
差し出されたのは、鮮やかな赤色のビキニだった。やけに目立つその色に、シオンは一瞬言葉を失う。
「赤のビキニね……知的でクールな私にしては攻めすぎじゃない?」
指先で布地をつまみながら、半ば呆れたように言う。普段の自分の服装と比べても、方向性が違いすぎる。
「そっか……視認性が高いから、万が一水難事故に遭った時でも発見されやすいからいいと思ったんだけどなぁ……」
「そういう視点なの!?」
かすみは似合っているかどうかよりも安全性を重視しているようだ。
それはそれで大事なことではあるが、シオンとしては、やはり見た目にもこだわりたい。このままでは機能性重視の妙に実用的な水着ばかり勧められかねないと判断し、さりげなく話題を逸らすことにした。
「かすみはこれなんかどうかしら。パレオが付いててかわいいと思うの」
「おー、いいね! この色好き! あ、そうだ、シオンちゃんのもパレオついてたらいい感じじゃない? これとか視認性良くなりそう!」
「……くっ、ダメか」
というかさっきからやけに視認性にこだわる。
たしかにシオンは少し泳ぐのが苦手ではあるが、水難事故レベルではないはずだ。ないよね?
「シオンちゃん、だめ……かな?」
うるうるとした目で見上げられる。
そんな目で頼まれて断れるわけがない。
「……まあ、かすみが選んでくれたものだし、ちょっと試着してみようかしら」
「ほんと!?」
「でも、まずはかすみから着て。そしたら私も着るから」
「OK! じゃあシオンちゃんが選んでくれたこの水着着るね!」
ぱっと表情を明るくして、かすみは試着室へと入っていった。
カーテンの向こう側から衣擦れの音がする。
「……」
風俗店の待合室にいるような気分で待つこと数分、しゃっと音を立ててカーテンが開かれる。そこに立っていたのはシオンの選んだ水着を身につけたかすみだった。
水色を基調としたビキニに白いパレオが付いているタイプで、露出度とは裏腹に清楚な印象を与えている。殊更シオンの目を引いたのは胸に形成された谷間だった。惜しげもなく晒されたそれを見て、自分が犯罪を犯しているような気分になる。
「どう、かな」
うん、似合ってるわよ。
「エッッッッ」
「え?」
「え、あ、ええ、似合ってるわよ」
「えへへ、よかった!」
かすみは特に気にした様子もなく、嬉しそうに笑った。
シオンは小さくため息を吐いた。
胸に意識が行きすぎたあまりに、心の声と逆になってしまった。
とはいえ、なんとかかすみにはバレずに済み、シオンは胸をなで下ろした。
その後、シオンもかすみに押し切られる形で試着を済ませ、何枚も写真を撮られる羽目になった。そして結局、お互いに相手の選んだ水着を購入することになり、袋を手にしたかすみは上機嫌で足取りも軽い。
「水着も買ったし、そろそろ帰る?」
ショッピングに夢中になるあまり忘れていたが、本来の目的は運動だ。ショッピングモール内を縦横無尽に歩き回ったので、その目的は十分に果たしたと言えるだろう。
「ううん、最後に行っておきたいところがあるんだけど、いいかな?」
「あらそう? 服ならもう十分買ったと思うけど……」
「まだ買ってないものがあるでしょ」
買っていないもの? シオンは首をかしげるが、かすみは答えずに当然のように手を引いて歩き出す。疑問に思いつつもかすみに連れられ、一つの店に行き着いた。
店の前に着いた瞬間、反射的にくるりと方向転換した。病院に連れられてきた犬のように、来た道を戻ろうとする。
「おっと、逃がさないよ~」
「……ッ!」
だが、シオンの動きは先読みされていた。腕をがっちりと拘束され、逃亡を阻まれる。力を入れれば振りほどけそうだが、振りほどくことができなかった。なぜなら腕がかすみの胸に埋もれて気持ちいいからである。
この感触のせいで逃げようという意志が一気に消え失せてしまった。やなりこの胸は恐ろしい。
「あの、かすみさん? ここは?」
「見ての通り下着のお店だけど?」
そう、かすみに連れられた先は色とりどりの下着が並んでいる店だった。ヒラヒラのレースが付いたものや、花柄、水玉まで幅広いデザインのものを扱っている。この階自体が女性服エリアということもあってか、周囲に男性の姿は皆無である。まさに男性が近づくことが憚れる女子の花園といった様相を呈している。
「じゃあ、買おっか……シオンちゃんの初めてのブラジャー」
かすみの目が、何かを企んでいるように、楽しげに細められた。




