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12話 ファッションモンスター

『続いては今日の天気のコーナーです。本日の気温は、危険な暑さです。明日以降も厳しい暑さが続く見込みです。外出の際は熱中症に十分ご注意ください』


 夏休みが始まって数日後。

 かすみは昼間からソファに寝転がり、ニュース番組を眺めていた。


「シオンちゃーん、今日もめちゃくちゃ暑いみたいだから家でゆっくりしよ〜」


 キッチンで食器を洗っているシオンに向かって、気の抜けた声を投げる。

 女子高生の夏休みの過ごし方としては落第だが、かすみにとっては夏らしいイベントよりも、シオンと一緒にいることの方が大事だ。シオンと一緒なら何も夏らしいことをする必要などない。

 それはシオンにとっても同じだった。かすみと一緒にいられるなら他には何もいらない。


「外が暑いのはわかるけど、ちょっとだらけすぎじゃないかしら?」


 とはいえ、夏休みが始まってから買い物などの用事以外で外に出ないかすみに思うところがないわけではなかった。

 

「えー、そうかなぁ?」

「かすみって本当はしっかり者でしょ? もっとおでかけしたり、夏休みの宿題進めたほうがいいんじゃない?」

「うーん、そうだけどさぁ」


 かすみは寝返りを打つ。

 本来ならシオンの言う通り、アクティブに活動しているはずだった。だがこれまでシオンに甘えてきた結果、ダラダラする癖がついてしまったのだ。

 さらに今年は、というか今年も、それに加えて外に出たくなくなる理由があった。


「でも外暑すぎるよ」

「それはそうね」


 ここ最近は連日猛暑日である。数歩外を出歩くだけでじんわりと汗がにじむほどの、命に関わるレベルだ。ニュースでも繰り返し注意喚起されるほどで、なんならあんまり外出しないようにとも言われている。

 必然、家でごろごろしてしまうわけである。


「それにちゃんと勉強はしてるよー。夏休みの宿題もほぼ終わらせたし」

「え? すごいわね。いつもなら夏休みの最終日に泣きついてくるのに……」


 かすみが今まで猫をかぶっていたことを改めて実感する。それと同時に自分の力はもう必要ないのかと寂しくなる。


——何ショック受けてるのよ私。かすみが真面目になるのはいいことじゃない。


 遊園地で投げかけた言葉は嘘じゃない。

 しっかりしているかすみも、間違いなくかすみだ。

 かすみが真面目になるのはいいことだ。寂しがるよりもむしろ喜ぶべきことだろう。


「勉強するのは偉いけど、運動もしないとダメでしょ。かすみがだらけるようになったのは私のせいでもあるんだし……」

「え、なんでそうなるのさ!? シオンちゃんは悪くないよ!?」


 かすみはガバッと起き上がった。

 

「私がいたから手を抜くことを覚えたんでしょ? 私のせいだわ」

「絶対そんなことないって! 私がこうなったのは私のせいだよ!」


 言い切ると同時に、かすみは勢いよく立ち上がる。


「よーしわかった外出しよう!」


 そのままバタバタと階段を駆け上がっていく

 どうやら着替えるつもりらしい。


「……なるほど、これがかすみの操作方法ね」


 残されたシオンは、その背中を見送りながら小さく呟いた。



 外出することになった二人がやってきたのはショッピングモールだった。屋内で空調が効いているため熱中症の心配はなく、ついでに服も見て回れる。一石二鳥どころか三鳥くらいはある優秀な選択肢である。

 

 市で一番大きいこのショッピングモールは服屋だけでなく百貨店やレストラン、最上階には映画館まで揃っている。買い物、食事、暇つぶし。何をするにしても、とりあえずここに来ればどうにかなる。無人島に何か一つ持っていけるのなら、このショッピングモールを持っていけば向こう三年は快適に過ごせることだろう。


「シオンちゃん、この服とか似合うんじゃないかな?」

「えー、どうかしら……」

「うん、すごく可愛いよシオンちゃん!」


 ショッピングモールに来てから1時間が経過した。その間、かすみは目についた服屋に片っ端から突撃しては楽しそうにシオンへ服をあてがっていた。

 おでかけ自体には何の問題もなく、シオンもショッピングを楽しんでいたが、ここにきて違和感に気づく。


「さっきから……なんというか、女の子っぽい服ばかり勧めてきてない?」

「えー、そうかなぁ?」


 最初はいつもシオンが着ているようなシンプルな服を勧めてきた。徐々に勧める服に女の子っぽさが増していた。


 シオンの頭にある単語が浮かぶ。


 『ボイルドフロッグ現象』


 カエルを熱湯に放り込めばすぐに逃げてしまうが、ぬるま湯から徐々に熱していけば、危険に気付かずに茹で上がってしまう現象のことだ。

 それと同じように、最初から女の子っぽい服を勧めると拒否されるから、徐々に女の子っぽい服を勧めてきたような意図を感じる。


——考えすぎだと思うけど……


「でも、シオンちゃんあんまりこういう服着ないよね? 似合うと思うんだけどなあ、もったいない」

「ヒラヒラしたのって動きづらくて苦手なのよね。それに知的でクールな私にはかっこいい服の方が似合うと思うの」

「クールな人は自分のことクールって言わないと思うけど、たしかにシオンちゃんの服ってかっこよくて素敵だよね。でもたまにはガーリーな服着てるところも見てみたいなぁ。試着だけでいいからさ」

「しょうがないわね……」


 そこまで懇願されては拒否するわけにもいかない。シオンは渋々といった様子で服を受け取り、試着室へと入った。慣れない仕様の服に難儀しつつもなんとか着替え終え、カーテンを開けた。


「ど、どうかしら。変じゃないかしら」


 ぱしゃ。


 尋ねると、かすみは無言でスマホを向けてシャッターを切ってきた。

 幼馴染の突然の行動に、思わずカーテンで隠れてしまう。


「な、何撮ってるの!?」

「あ、ごめん。可愛いくてつい……でもその服すごく似合ってるよ! 買いなよ!」

「うーん、そう?」

「うん! 拝観料払いたいくらいだよ! うう、シオンちゃんが私が選んだ服着てる〜、嬉しい〜!」

「大袈裟ね」


 両手で顔を覆いながら悶えるかすみ。実際のところ、かすみの喜びはこんなものではない。脳内ではヘビメタのライブばりに首を振り回している。


 ——本当に、似合ってるのかしら……


 鏡に映る自分をちらりと見る。見慣れないはずの格好なのにどこか悪くない気もする。


「しょ、しょうがないわね……かすみがそこまで言うんだったら……」


 かすみの熱量に押される形でシオンはその服を購入した。かすみの喜びようを見ると、買わないわけにはいかなかった。

 1番の理由はかすみが選んだ服を着ている事実に興奮を覚えている自分に気づいたからだが。


 最後に変態要素出すな。


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