表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

想い手紙を貴方へ

作者: なづき

興味を持ってくれた方ありがとうございます。

ゆっくり読んで貰えると嬉しいです。

穏やかな風が吹き込みカーテンを揺らす。


眩しい陽射しに照らされ


爽やかな印象の茶髪を揺らす男性が1人。


その顔は真剣で、手元にある数枚の手紙を読んでいた。


凛としたその表情は恐ろしい程に整っていてハーフなのか瞳の色が薄い気がする。


彼は最近よく来る客でいつも同じ窓際の奥で1人席に座り真剣に手紙を読んでいた。



ここは俺が親戚の叔父さんから継いだ店で海の見える小さな喫茶店だ。


彼が来るまでは閑古鳥が鳴く程客のこない店だったのに今では彼目当てで来る女性客が大抵だ。


お陰で叔父の時からの常連が喧しくてかなわないと足が遠のいてしまった。


それでも時々は叔父の頃からのよしみで寄ってはくれるのだが....少々、困っていた。



所がだ、ある時彼が手紙を持ってくるようになってからは女性客が減った。


(まぁ、それでもゼロではないけどな)


お陰で、彼以外今は客が居ない。


彼が手紙を持ってきたのはここ何回か前からで


それまでは本を読んでいたが...


その手紙はいつも同じものだと思う。


何故か、何度も何度も読み返しているようだ。


その様子はまるで難しい暗号を読みといているかの様だ。


そうやって、全ての手紙を読むといつも海を眺めだし気がすめば帰っていく。


この不思議な男は決まって月曜日に来ていた。


俺はその不思議な彼にその手紙が何なのかと聞きたくて堪らなかった。


今日は彼以外客もいないし

暇なので話しかけるなら今だと思った。


するといつものように手紙が一通り読まれると

海を眺めだそうとしていた。


(うわ〜話しかけにくいなぁ。怒ったらどうしよ。怖そ〜)


さりげなく話しかけようと彼の元に水をもって行けば彼は近づく前にこちらを向いた。


誰も寄せ付けないような眼の強さだった。


『...何か?』低く響くような声で問いかけられ。


咄嗟に

「あ、いえ。いつも来てくださってますけどその....手紙の事がき、気になりまして〜」


(おい俺は不審者か。いやバカか、バカだったわ...)


自分の発言に自分でつっこんだ。


馬鹿すぎる。


水だけ置いて戻ろうかと思っていたら少し間を置いて顎に手を添えながら


『もしかしていつも長居していてお邪魔でした?

ここ、雰囲気が良くて……

あの壁にある絵がとても好みなんですよね』


と言ってきた。


「い、いやいや!そんなわけないじゃないですか!

通ってもらってありがとうございます。


お陰で繁盛してますし!ははは!


あ、あと壁の絵は俺が描いてて褒めて貰えて光栄っていうか!ありがとうございます。


それより、俺こそすみませんお客様に不躾に干渉するなんて....」


ペコペコ恐縮した様に頭を下げると彼は


『....ふふ。慌てすぎですよ。これ気になりますか?』


と封筒に入った手紙を撫でた。


それはそれは、大事そうに見つめて.....


そして、じっとこちらを見つめてくる。


これは、聞いたらアカンやつ....


そう思って去ろうとした時だった。


『....そうですね。長くなりますけどいいですか?』


彼は申し訳なさそうに言った。


俺はちょっと待ってください!とだけ言って


足早に看板を下げCLOSEに札を変えた。


ふふふ、自営業の特権だよな。


軽く閉店作業して新しいコーヒーを持って彼に差し出し椅子をゴトゴト言わせながら彼の前に座った。


どうぞ!と言わんばかりに話しを促すと


彼は可笑しそうに少し笑った。


『...ふっ。コーヒーまで...ありがとうございます』


口元に腕を持っていきながら堪え笑いをしている。


俺は あ、食いつき過ぎたかと頭をかいた。


まぁ、いいか。


彼はどこから話そうか…と顎に手を添えながら考えていた。


そして決めたようにコーヒーを1口のみ


カップを置くと手を組み背もたれに体を預けてリラックス状態で話し出す。


俺も吊られて体から力が抜けた。


『この手紙は僕の大切な人からの手紙なんです。


その人はとても強くて優しくて周りに人が集まるそんな人でした。


その人....ひなたは僕の幼なじみでね。...ふふ』

穏やかに微笑み...


『昔は本当に小さくてよく虐められてたんですよね僕。


お陰でいつも泣いてばかりで何かあれば


直ぐにひなたが飛んできていじめっ子達を負かしては


僕にしっかりしろと怒ってばかりでした。


初めは家が隣と言うだけで干渉されるのが嫌で


避けようとしていたのですがどうやっても


避けられなかったんですよね……


はは...ほんとにしつこかった....』


彼は項垂れてみせる。


また、顔を上げ...


『でも、それもだんだん...

嫌じゃなくなっていったんですよね』


大切なものを見るように手紙に目をやる...


『素っ気なくすればみんな離れていったのに...


ひなたは馬鹿みたいに構って守ってくれて。


僕は素直じゃなかったので嫌だと言いながら


やっぱり誰かと居れることに

心のどこかで安心していたんです。


そのままひなたとはずっと家族みたいにずっと一緒の時を過ごしてきました....』


そこで、話しが途切れる....


....穏やかだった顔が苦しげに変わった。


『そのまま、穏やかな日々を過ごして


時々くだらない喧嘩したりしてこの毎日が


一生続くんだと信じてたんです。


...もうすぐ、高校卒業だと言う時でした。


ひなたは突然、この手紙をよこしてきました。


最後の別れだと笑いながらね.....』


その時の事を思い出しているのか今まで大切そうに見ていた手紙を恨めしそうに見つめる。


『....なんの冗談かと思いましたよ。


最後って、どういう事だってね。


僕達はずっと幼なじみで親友で家族でずっと....ずっと傍にいた。


例え違う道を歩んだとしてもこの先も関係は変わらず居られるのだと思っていました....


でも、ひなたの中ではそこが区切りだったんです』


海を眺め出して....1呼吸おくとまたこちらに目を向けて話してくれる。


『....僕は、ひなたから離れる気は無いと言いました。


この先もずっと、この関係でいたいと。


でも、.....ひなたは僕にそれは出来ないと言ったんです。


このまま、ずっとこうしているつもりかって聞いてきたんです。


このままずっとろくに友達もつくらず、恋人もつくらずひなただけと居るのかと。


それに対して僕はそうだと、はっきり言いました。


けれど、ひなたはそれではダメだと首を振るばかりです。

どうしてかと聞けばもし、自分が死んでしまったら....僕を支えてくれる人がこの先いるのかって.....』


今度は溜息をつきながらひじをテーブルにつき組んだ手に頭をおく。


『何を、言っているのかと怒りました。


縁起でもない事を言うなと.....何か隠しているのかとか


病気なのか?とか一気にまくし立てて


...けれど、ひなたは何も答えてくれなかった。


結局、最悪の卒業式で終わりましたよ.....


そのまま、手紙を預けたまま。


ひなたは何処へ行ったのか分からなくなりました。


聞いていた大学も訪ねてみたけれど……


居なかったんです。』


今まで黙っていたけれど、えっと声が出てしまう。


『....驚きますよね。


これまでずっと隣に居たのに何も残さず


ただ、消えたんです。


あぁ、手紙は残りましたけど....


結局、その手紙もここ最近まで開けられなかったんです。


ただ、怖かったんですよ。


勝手にどこか行ったあいつに対して


怒っているんだとかしょうもない言い訳までして.....


僕がどう思われていたのか、本当はずっと


僕と離れたかったとか書かれていたらどうしようかと...


ただ、恐れていたんです。


そして、段々とひなたとの時間を忘れていく様にしてたんです。


初めはそんな事、できるわけがないと思っていましたが。


心に蓋をし、色んな人と出会って色んな関係を持って


人に...他人に目を向け始めればとても忙しくて....


ひなたが居なくても段々と....


苦しくなくなっていきました。』


複雑そうな表情で手紙を見つめる....


『.....そして、もう顔もよく思い出せないほどの時間が経った時でした。


日々の仕事に疲れいつもの様に倒れ込むように家に帰ってきた時でした。


珍しく高校時代からの友人から電話がありました。


ひなたが.....海外で行方不明になったって…………』


苦しそうに顔を歪め.....手を強く握り直していた。


僅かに震えている......


『....今すぐにでも、家を飛び出したい思いでした。


こんな夜中に....しかもどこの国かも分からないのに

どこに行こうとしていたのか。


ただ、今、見つけないともう二度と会えない気がしたんです。


.....だと言うのに。


この時、やっと思い出したんです。


ひなたの顔と手紙の存在を....


おかしなものであれだけ開けるのを恐れていたものを簡単に、開くことが出来たんです。


あれからもう7年もたっていたというのに.....


この時、初めて開きました』


そこで話しを止めて...彼は僕に手紙を渡して組んだ手に顎を置き俯く。


(読んでいいって事....かな)


そっと開きその想いを辿っていく.....




______________________________




透司へ

こんな形で渡すことになってごめんね。


でもまずは読んでくれてありがとう。


きっと、しばらくは読んでもらえないだろうから返事は期待してないよ。


まぁ、気が向いたら欲しいけど!


それと、ごめんねこの手紙読んでる頃にはもう日本にいないんだよね。


実はね、行きたいところが出来たんだ。


亡くなった祖父が遺してくれた別荘がねすごく素敵な所でねアトリエがあって自由に絵が描けるんだ。


とても美しいところだからいつか、いつか透司にも来て欲しいな。


それと、もうひとつ。


謝りたい事があるんだ、、、学校、嘘ついてごめんね。


きっと、透司の事だから心配して学校にも来てくれてそうだよね?


本当に、ごめんね。


卒業式の時もきっと怒らせるような言い方しちゃったんだろうな伝えるのが下手くそでごめんね。


いつも、全部を言わなくても透司は分かってくれるからぐちゃぐちゃな言葉になっちゃうんだよね。


大事なことはしっかり伝えないといけないって祖父にも言われたんだけどな、、、、


ねぇ、初めて会った時のこと覚えてる?


隣に引っ越してきて挨拶に来た時にずっとこっちを睨みながらおばさんの足にしがみついて離れなかった!


あの頃はちっちゃくて可愛かったなぁ〜。


その時から構いに行っては嫌がられててバレてないと思った?すっごいバレバレだったよ。


もう、そこからは揶揄うのも楽しくてついつい構っちゃったよ。


でもさ、いつもおじさんとおばさん仕事で遅くてその度にこっちに来てたよね。


もう、家族みたいだったよね。楽しかったなぁ〜


、、、両親が居なくなった時。


透司がいてくれてよかったって思ったよ。


そこからだよね、強くなったの。


本当に辛い時、悩んでる時、いつもそばに居てくれたのは透司だった。


一緒にいればずっと幸せだったし2人でいれば何も怖くないって思えたよ。


でもね、それじゃダメなんだって気づいちゃったんだ。


この世界には沢山の人がいてたくさんの素敵な出会いがあるんだよ。


祖父がね言ってたんだ、沢山の出会いがあればより良い人生になるし


本当に困った事があれば助け合うことができるって


それはいずれ大切な人を助けたり、守ったりも出来るんだよって。


それを聞いてね、そうだなって思ったんだ。


透司の事を大切に思ってるし助けたいし、守りたいよ。


でもね、透司は違うでしょ?


2人で居たらいいって思ってる。


それは嬉しい事だし、そうやって生きていけるのも理想だと思うよ。


だって、だってもし2人だけでいてどちらか片方を失ったら生きていける?


きっと、出来ない。


透司の事が好きな子なんていっぱい居たよ?

透司が知らないだけでね。


だから、透司の大事な出会いを奪っちゃってる気がしたんだ。


だからね、一度離れた方がいいと思うんだ。


別に一生、会えないわけじゃないよ。


会いに行くし、会いに来てね?待ってる。


きっと、納得出来ないよね。


これはね、我儘なんだ。


離れられないのは、離れたくないのはいつだって


こっちなんだよ。


でも、透司の為を思うなら離れなきゃ。


それで、それでもし、、、たくさんの人と出会ってそれでも


それでも2人がいいって思ったら。


お願い、、、迎えに来て。


離れたのは、本当は、、、、


本当はね?

もう、耐えられなかったのと逃げたかったから。


透司はたくさんの人に好かれてるんだ透司が知らないだけで。


それを見てるのも聞くのも本当は辛かった。


隣でいつも好きだとバレるのが怖かった。


上手く隠せてたかな?いつも、いつも言いたかった。


好きだって、愛してるって、、、、。


面倒くさくてごめんね。


意気地無しでごめんね。


傷つけて、、、、ごめんなさい。


全部スッキリして、この想いが昇華出来たらまた、また一緒に笑って過ごしたい。


愛してるよ!透司。


もし、逢いたいって思ってくれたら。


実家に行ってみて。


前に渡してある合鍵で入れるし、親戚には言ってあるよ。


部屋の場所覚えてるかな?机の上に住所を書いた紙を置いておくね。


次、会う時笑顔がいいから。


ちゃんと心の整理、してきてね!


泣いちゃダメなんだからね?泣き虫透司!


日向より





______________________________


手紙を全て読み終わり、最後の紙には住所が記されていた。


聞いたこともないような外国の場所、何処なのか検討もつかない。


....このふたりは互いを想いあっていた。


切ない程に、自分の話しではないと思っていても胸がザワつく。


なんだか、この痛みを俺は知っている気がする...なんて。


どうして2人はこうも拗らせてしまったのか?


....思い合えばこそ。


というやつなのだろうか?少し、ひなたさんが羨ましかった


....ところで。


ひなたさんは見つかったのか?聞いていいのかなぁ?


い、今更かな?覚悟を決めよう。


「....あ、あの。そのぉー...ひなた...さんって見つかったんです...か?」


読んでる間ずっと下を向いていた彼に声をかける。


彼は顔を上げこちらをじっと見てくる。


(...え、何。やっぱり聞いたらダメだった系?あ、やばい怒らせた?!)


焦っていると彼は俺から視線を離し海の方を見つめ出して話し出す。


『...その手紙を読んだ後、すぐに実家に行って住所を知りその場所へ向かいました。


結果、そこにひなたは居なかったんです。


綺麗な場所だと言っていましたが跡形もなく燃え、消えていました。


聞けば暴動が起こって火事が広がり森林火災、数軒の別荘が燃えました。


それにひなたも巻き込まれたそうでした。


それで、そこに住んでいた日本人を知らないかと聞けば病院に運ばれて行って


そこからどうなったのか分からないと言われました...


そこから色んな病院へ駆けずり回り聞いては追い返されを繰り返しました....』


そこで話しは止まりこちらを見つめてくる。


『...その後も、何度も、何度も探して


ひなたの親戚にも見つかったら連絡を貰えるように連絡をして必死になって探しました。


そして、漸く見つけた。


ひなたは、日本に戻されていました。


あっちで探して見つからないはずです。


どうやら、美術関係者が唯一連絡の取れた人だったらしく日本に返してくれていたそうです。


治療も落ち着いた時に親戚側に連絡がとれたらしくて。やっと、やっと会える。


そう思って見舞いに行けば。


目が覚めないと言われました。


手術は成功し特に問題もなく経過も良くなって行っているはずなのに意識が戻らない。


そう、言われました。


僕は、それから毎週通い続けています。


もう1年も経つのにまだ、目が覚めない。


もう、僕には会いたく無くなったんでしょうかね?』


(...なるほど、毎週月曜日なのは病院帰りに寄ってくれてたからか。)


「...いずれきっと目を覚ましてくれますよ。


こんなにも、こんなにも貴方を愛してくれてるんですから!」


自然と溢れてきた涙を流しながら封筒に戻した手紙をそっと彼に寄せた。


(この時代にこんなにも想いあっている人達がいたなんて...知らなかった。


なんて、切ない話しなんだ。


俺はそれをこんな簡単に聞いてしまって。


罪悪感と切なさで心臓が潰れそうだ!)


『....ありがとう。そうだ、聞いてなかったですね……


貴方の名前は?』


(はっ!そういえばそうだった。)


「忘れてましたよ、、、


ははは、こんな大事な話しを名前も名乗らずに聞くなんて全くつくづくダメダメですね!俺。


...俺はひ...」


そこで気づいた。あれ?なんか違和感。



そういえば、名前が......



『....日向さん。ですよね?』


真剣にこちらを射抜くように見つめられる。


そこで、気づく。


あ、れ?待って。


海外の、、、、じいちゃんのべっ、、、別荘。


そうだ、じいちゃん昔、言ってた。


そこで好きな絵が描けるから死んだらやるって冗談で....


あ、あれ?え、絵?


……そうだ、もう何年も書いてない。


なんで、なんでだっけ。


そうだ、かけなくなったんだ。


なんでだっけ、なんで?


お、思い出せない。


あ、頭痛い。 えっと、えっと?


この喫茶店だって、じいちゃんが昔よく言ってた沢山の人と出会いなさいって言葉からで!


それで継いで.....画家目指してたけど、かけなくなって...


かけ、なくて!



そう。 そうだ、怖くなってたから。


筆をもつと手が震えだしてダメで。


なんで怖いんだっけ?




なんで?あれ?あれ?




と、透司.....透司、透司、透司....


こ、子供、小さい子、大事だった子。


もう、ぼやけて顔すら思い出せなかった。


時々、夢に出てきた子。


だれ?誰だっけ。


何か、何か言わなきゃ、言わなきゃいけないはず!



な、に?なんだっけ????



こ、怖い。


頭、痛い。 怖い。



....怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い




椅子から崩れ落ちて頭を抱える。


痛い、涙が止まらない。



声が止まらない!助けて!誰か!誰か!




『....た!ひ、、ひなた!日向!日向!悪かった!日向!』


叫ぶ声がする。落ち着く声。懐かしい......


意識が遠のく。

白いモヤがかかる。

そう、そうだ、あの色素の薄い瞳。

間違いないあの子だ。....透司。




そうだ、思い出した。




______________________________






再び浮かび上がった意識の中、今も心配そうに名前を呼ぶ彼に伝える。


「...お、もい出したよ?.....透司!」


その瞬間、優しくも力強く抱きしめられた。


そう、そうだはっきり思い出した。


この温もりも、この優しい香りも全部!



「...ご、ごめんね!透司。


ずっと、ずっと、待っててくれたんだね。


俺、俺が!待ってるはずだったのに!


あの時、勝手に離れておいてこんな、心配かけて!


こんなに、傷つけて、ごめん!ごめんなさい!」


『...違う、違うんだ。


日向、お前の言ってたことは正しかったよ。


色んな人に出会って色んな経験もした!


この世界には沢山のものがあるって、沢山綺麗なものがある事に気づけたんだ!


そして日向、そのおかげでお前の存在がもっと大切な存在だって気づけたんだ!


もう、何があっても離れたくない!


お前の近くで、お前を守りたい!....愛してるんだ』


「ほんとはずっと会いたかったのに。


なのに意地張って!


泣き虫なんて言ってたけど俺の方が


もう、ずっと泣き虫の意気地無しだった!


あの時、本当は止めて欲しかった。


行かないでって言ってくれるんじゃないかって


どっかで思ってた!


でも、でも、それは透司の為にならないなんて


勝手なこと言ってただ、透司に大切な人ができた時


俺が耐えられなかっただけ!


ずっと、ずっと怯えてたのは俺なんだ!それなのに!それなのに。


透司はこんな勝手な俺の事、俺の事を!」


『...日向、日向……ごめん。

お前がずっと苦しんでたことに気づきもしないで。


お前の事ずっと見てきたつもりだった。


何もかも知ってるんだってわかった気になってた。


お前がいなくなるって思った時に好きだってちゃんと言えばよかったな。


僕は日向さえいればいいなんて言いながら


日向の気持ちなんか考えてなかったんだ。


ただ、傍に居てくれればいい。


ただ一緒にいたいと思っていただけだったんだ。


そんな事、それだけでいいはず無かったんだ。


だから、このままじゃダメだって言われた時


何も言い返せなかった。


何度もお前の手紙を読み返していてもお前の辛い気持ちに寄り添えていなかったんだって


現実を何度も突きつけられるばかりで.....』



「...透司、透司!ありがとう。


本当に、逢いに来てくれて思い出させてくれて……


ありがとう!」


『....まだ、こんなに一気に思い出させるつもりじゃなかった。


嫌なことも思い出してしまうし、無理に思い出させるのは危険だって医者に言われてたのに。


つい、話し掛けられて

思い出して欲しい気持ちが止まらなくて!


また、傷つけて、ごめん。』


首を振る。


さっきまで泣いていなかったのに、綺麗な瞳が溶けそうなほど涙に濡れていた。


一筋流れ出すと、もう止まらないのか綺麗にポロポロ流れ出した。


『...くっそ、泣くつもり無かったのに』


透司がボソッとこぼす。


ふはっと笑って涙を拭ってやる。


「...今、笑ってくれたら見なかったことにしてあげる」


その言葉に、透司はふふっと笑ってくれた。



....そのままそっとお互いの頬に触れ優しいキスをした。



何度も、何度も。





______________________________




気づけば外は真っ暗だったが


静まり返った店で2人は寄り添って今までの事を話しては笑いあっていた。


今まで離れていた間どんな経験をして


どんな出会いがあったのか、その時、何を思ったのか。


そんな事ばかり話していた。


真っ暗だった外が日が登り出そうとするまで話しは途切れなかった。


ふと、外を見た2人の前には太陽でキラキラと光る海に眩しそうに目を細めて見つめていた。


『....お前の絵、この海だろ?


とても綺麗でいつも見てたんだお前と同じ気持ちでいられる気がして。』


手紙を読み終わってずっと見てたのは....そういう事....


「...この世界は綺麗だよね…


絵、また描けそうな気がするんだ。


透司がいれば。...怖くない」


『...嬉しいよ。日向の絵も僕は好きなんだ』


お互いの顔を見てふふっと笑い合う。


再び海に目を向けた2人は大切そうに手を繋ぎながらもう、何も話さなかった。




ただ、じっと美しい海を2人で見つめ続けていた






END

最後まで読んでくれてありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ