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 用意も終わり、屋敷を後にする。

 馬車で移動するのが一般的だが、移動魔法を使ったほうが楽だし早い。メトゥスとともにフィオネア魔法学園の近くに移動する。


「……こんな人が多い場所、はじめてきました」


 目の前に映る人並みを見てメトゥスは驚いたように目をパチパチとしていた。

 確かに住んでいた屋敷は田舎にあるし、メトゥスが元々いた山奥の村も人は多くなかった。こんなに大勢の人間を目にする機会はなかったのだろう。

 私も前はそうだったな。と、メトゥスの反応を懐かしみながらフィオネア魔法学園の方へと歩き出す。


「あぁ、そうだ。学園内は人が多いからヘマしてバレないように」


 向かう道中、警告混じりに伝えればメトゥスは笑みを浮かべる。


「それはこっちのセリフです。お嬢様」

「本当に生意気になったわね」

「お嬢様の従者ですから。でも、本当に気をつけてください。学園に入れば俺はあなたの近くにいられない場面が多いと思いますから」

「意外に心配性だね」


 そう笑いながら歩いていれば、フィオネア魔法学園の前につく。


 フィオネア魔法学園は、さすが格式が高い学園なだけあって建物は荘厳だ。

 学園、というよりは城という言葉がぴったりだ。創立年数もかなり経っているはずなのに城壁は汚れひとつない。おそらく強固な保護魔法がかかっているのだろう。

 記憶にある学園と変わりない。


 少し感傷に浸りながらも学園の門を潜る。

 門をくぐっても校舎となる城まではそれなりに距離がある。学園内では移動魔法の類が使えないのめ大人しく歩いて行くしかない。

 メトゥスとともに歩いていれば、とある一箇所に人が集まっているのが見えた。


 少し気になりそちらに視線を送ってみれば、そこにいたのはムネラだった。

 ムネラは付き人とともに校舎まで向かっているようで、第一王子を一眼見ようと周りに人が集まっているという構図のようだ。


「お嬢様の婚約者は人気のようですね」

「……真実がどうであれ、彼はこの国唯一の王位継承者だからね。その栄光を授かろうとする人間は多いんだよ」

「そうですか」

「とりあえずここは素通りしよう。ここで注目を集めるのはあまり得策じゃないから」

「はい」


 メトゥスとともに素通りしようとした時。後ろから「ミセリア!」と名前を呼ばれる。

 どうやら見つかってしまったらしい。思わず眉間に皺がよるが、「お嬢様」とメトゥスに嗜められたことでため息をついて微笑みを浮かべて振り返る。

 この七年間、すっかり表情管理をスムーズに行えるようになった。


「ミセリア、入学おめでとう」

「殿下もおめでとうございます」


 ムネラと付き人はこちらに歩み寄ってくる。集まってくる人間から逃げるために利用されな。


「ミセリア様、ご入学おめでとうございます。このような騒ぎに巻き込んでしまって申し訳ありません」

「エドワード様もおめでとうございます。入学初日から大変でしたね」


 ムネラの付き人、エドワードに謝罪される。

 彼は、エドワード・ジェラ。ジェラ侯爵家の一人息子で、ジェラ侯爵家は代々王族に仕えている一族の生まれだ。この七年で正式にムネラに仕えるようになった。前の記憶でも存在していた。ムネラの付き人のくせに礼儀正しく、投獄された後にムネラとともに面会に来た際にはエドワードは侮蔑の表情を向けるわけでもなく、むしろ同情的だった。


「一緒に会場まで向かおうか」


 ムネラに手を差し伸べられる。

 それを拒否することもできず、その手をとり入学式の会場まで歩き出す。


「その従者を連れてきたんだね」


 ムネラは後ろにいるメトゥスに視線をおくりながら面白くなさそうに呟く。


「えぇ。彼は私が最も信頼する従者ですから」

「そうか」


 その表情はやはりどこか面白くなさそうだ。

 そんなムネラを不思議そうな顔をしたまま見遣りながら、内心ほくそ笑む。


 ムネラがメトゥスに対して嫉妬を抱いているとは思っていない。けれど、わざとメトゥスを心の底から信頼しているという態度をこの七年間見せてきた。


 メトゥスから「あの王子をうまく利用しよう」と提案された。その作戦というのは、私がメトゥスに対して全幅の信頼を寄せるところを見せるということだった。どこでそんな知識を得たのかは知らないが「自分の所有物だと思っていたものが他に気を引かれていたら面白くないだろ。だからあいつを煽って情報を手に入れよう」と言ってきたのだ。

 最初はムネラとの接触が増える可能性があるこの作戦は乗り気じゃないし、やりたくなかったが、復讐のためと言われてしまえば仕方なかった。


 結果、メトゥスが言っていた通りになった。

 ムネラを煽った結果、会いにくる頻度は上がった。そして会話の際も国の情報を漏らす時にはちゃんと話を聞いて、どうでもいい時にはそれほど反応を見せない。そんなことを不自然にならない程度に繰り返した。

 

 流石に王族の弱みなどは手に入れることができなかったが、普通では知り得ない情報は順調に集まっている。


「でも、距離感には気をつけた方がいいよ」

「距離感ですか?」

「ここは、使用人と君しかいない屋敷の中じゃないからあらぬ噂を立てられるかもしれない」

「噂ですか?」

「えぇ。歳の近い男女の距離感が近ければあらぬ噂が立てられるかもしれません。ただでさえ、ここは閉鎖された空間ですから」

「わかりました。ご忠告感謝します」


 確かに、ムネラを煽る目的でメトゥスとの距離感は近めにしていたがここではやりすぎると逆に私の変な噂が流れる。

 これからの流れを考えるとそれは避けたい。


「君は、僕の婚約者なんだからその自覚を忘れないでね」

「もちろんです」


 ムネラの言葉に鳥肌がたつも、我慢して微笑む。ムネラはその反応に満足したように笑みを浮かべる。


「そういえば、今日の入学式で驚くことが起きるよ」

「……驚くことですか?」


 ムネラがこのような言い方をするのは珍しい。

 きっとろくなことでもないことだ。そう思いながらもなんだか嫌な予感がする。


 それは、会場に着いた後でも拭えなかった。


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