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「お嬢様、起きてください」
そんな声が聞こえてきて、目を開ける。
視界に入ってきたのはメトゥスで、呆れたような表情を浮かべていた。
「おはよう……」
体を起こして大きな欠伸をすると「はしたない」と、苦言を呈される。
メトゥスと共犯関係になってから、七年の歳月が流れた。
私は十五歳に、メトゥスは十七歳になった。
屋敷に来た頃の警戒心や遠慮を剥き出しにしていたメトゥスも今ではすっかり生意気な従者になった。仕事は完璧だが、小言をよく言いながらも私の身の回りの世話をしている。
今の所、メトゥスは魔王になる素振りはない。
基本的に人間のことは嫌いのようで、たまに闇堕ちしそうな目をすることもある。だがメトゥス曰く「嫌いの中にも好ましいものがあるからそう易々と魔王になるつもりはない」とのことだ。
「ほら、いつまでもダラダラしていないで用意してください」
「うん」
メトゥスに促されて、ベッドから降りる。
渡されたのは、いつもの部屋着用のドレスではなくフィオネア魔法学園の指定制服。
今日、フィオネア魔法学園に入学する。
フィオネア魔法学園といえば、この国の中で一番格式の高い魔法学園だ。
貴族で魔法が使えるものが数多く通い、子女の自立性を促すために全寮制を採用している。とはいっても従者の連れ込みが可能であるため、今回はメトゥスとともに学園に通うことになっている。
制服に袖を通しながら、思わずため息をつく。
フィオリア魔法学園に関しては碌な記憶がない。
入学当初から、第一王子の婚約者ということや髪と目の色も相まって遠巻きに見られていた。さらに、救済の魔女が召喚されてきてムネラが救済の魔女につきっきりになった。
そのことで同情や嘲笑を向けられて、さらにムネラから色々押し付けられた。盲目までにムネラのことを信じていた私もバカだった。
そんなことが重なった上に、ムネラの本音を聞いてストレスが爆発して暴走。投獄されて奴隷となった。
言うなれば、フィオリア魔法学園人生の転換期だった。
もちろん、今回はそんなヘマを踏むつもりはない。
すでに魔王として覚醒しているはずのメトゥスは人間のまま。つまり、救済の魔女が現れる可能性は低い。
その上、前回もそうだったたが閉鎖された学園の中は、色々と噂が飛び交う。醜聞を晒すのも、手に入れるのも容易い場所。うまく利用できれば、ムネラを潰すために色々と布石が打てる。
着替え終わり、メトゥスに髪を整えてもらう。
「ねえ」
「なんですか?」
「……色々と頑張ろうね」
「もちろんです」
そう笑ったメトゥスの目は暗く光っていた。
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