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「っ……!」


 思わず飛び上がり肩で息をする。

 徐々に息を整えて、目元に手のひらを当てると手のひらが濡れた感触がする。

 大きく一息ついてから、おかしいことに気が付く。


 私は、死んだはずだ。

 元婚約者の剣に突き刺されて死んだ。それなのに、なんで……。

 

 周りを見渡せば、そこは見覚えのある部屋だった。

 ただ広いだけで、カーテンは締め切っているせいで暗く、掃除が行き届かないから埃っぽい部屋。私がずっと住んでいたマルム公爵家の別邸だった。


「なんで……」


 なんでこんなところにいるのだろう。

 とりあえずベッドから降りようと布団を捲ると、何かがおかしい。なんていうか、記憶にある自分の手足よりも短いし、小さい。

 裸足のままベッドを降りて、ドレッサーについている鏡を覗き込めばそこに映ったのは、幼い頃の自分だった。


「なんなの、どういうこと……」


 混乱していると、扉がノックされる音が聞こえてくる。返事をすれば、入ってきたのはメイドだった。嫁入りしてやめたメイドがそこに立っていたのだ。


「なんで、あなたがいるの?」

「どうされましたかお嬢様。裸足でそんなところにいて。本日は、第一王子との面会でしょう」

「え?」

「昨日言ったでしょう。お嬢様は第一王子の婚約者となり、本日が初面会だと。さあ、準備しますよ」


 少し呆れたような声を出して、メイドは告げる。

 第一王子の婚約者になった?初面会?

 メイドにされるがまま身支度が整えられていく。幼い自分の姿を鏡で見ながら、徐々にだけれど私に起こったことをなんとなく察することができた。


 戻ったんだ。


 逆行魔法なんて聞いたことない。そんなもの存在しているかもわからない。けれど、現状を考えると戻ってきている以外のことは考えられなかった。


 ……あのまま、死にたかったのになぁ。


 メイドによって着飾られた姿を見て、ふと思う。

 あのまま、死にたかった。生きていてもいいとなんてなかった。もう一度、あの生き地獄を過ごさなきゃいけない?もう一度、メトゥスを殺さなきゃいけない?

 それならば、もうこの場で死んでしまおうか。


 そんなことが頭によぎる。

 けれど、それと同時に「幸せになれよ」というメトゥスの声が聞こえたような気がした。あれはきっと幻聴だった。けれど、それでもメトゥスの言葉かもしれないと思ってしまったせいで自ら命を絶つこともできない。


「お嬢様、準備が終わりました。行きましょう」


 メイドに促されて、そのままついていく。

 メイドが案内したのは応接間。記憶通り、この部屋だけは埃一つない。そしてそこに座っていたのはこの国の第一王子、ムネラ・アエテルニタスだった。

 陽の光のような金色の髪に、空と同じ青い瞳。国一番の美形と呼ばれるほどに整った容姿。それを見た瞬間、吐き気が込み上げる。


 醜く笑いながら私に奴隷印を焼き付けた時のことや、最後に下されたあの命令が頭の中にこびりついている。

 思わず、奴隷印が焼き付いていた胸骨に手を当てるけれどそこには印はなく傷のない素肌の感覚がした。


「初めまして。ミセリア嬢」


 最初にあった時と、変わらず優しい笑顔。

 けれどもう私は知っている。この笑顔は嘘で作り出されたものだと。

 心臓が嫌な音を立てながら跳ねているのがわかる。込み上げてくるものを飲み込み、笑顔を貼り付ける。


「お初に、お目にかかります。殿下」


 とりあえずこの場を切り抜けなければいけない。大丈夫、たった一時間。我慢できる。

 そうして、始まった面会は記憶にものと同じ会話と流れだった。


 けれど、一つ。違ったことがあった。いや、違いではない。私が気がついていなかったことが一つ分かった。

 前の時は、ずっと優しく微笑まれていたと思っていた。けれど、それは間違いだった。最初からムネラの目は一切笑っていない。

 どうして、あの時は気が付かなかったのだろう。

 

 込み上げる吐き気と、悪寒と、震えに耐えながら記憶と同じように振る舞って、ようやく一時間が経つ。


「では、また一ヶ月後」

「えぇ。お待ちしております」


 そんな言葉を返して、ムネラが去っていくのを見送る。

 前は、玄関まで送りに行ったけれどもうこれ以上ムネラと一緒にいたくなかった。そのまま部屋に戻って、ベッドに座って息をついていると外から何かが聞こえてきた。

 窓を開けてみると、そこにいたのはムネラとお付きの人間だった。


「冗談じゃない!あんな女、僕が愛するわけがないだろう!」


 聞こえてきたのは、ムネラの声だった。


「だいたい、あんな老婆のような髪に、気持ちの悪い目の色の女をなんで僕の婚約者にしたんだ!」


 そんな文句を聞きながら、ため息が出る。

 銀色の髪に、紫眼。それは確かに気味が悪いと思われても仕方ない。この国の人間はほとんどの人が金髪に青か緑の瞳をしている。私自身、前の記憶を合わせても銀髪の人物にも、紫眼の人物にもあったことはなかった。

 

「まあ、いいよ。あんなのでもいい虫除けになるだろう。魔力は高いみたいだしそのうち何かしら利用できるだろうからな」


 その言葉を聞いて、思わず笑みがこぼれた。

 薄々気がついていたけれど、最初から私は嫌われていたらしい。


「……私が死んだ後、あいつはどうなったんだろう」

 

 ふとそんなことが頭をよぎる。

 私が死んだ後、ムネラはどうしただろう。

 あんなことをするくらいだ。私の死を悲しむなんてことは絶対にない。いや、むしろ喜んだだろう。

 ……魔王も、嫌いな女も死んだんだ。きっと救済の魔女と結婚して幸せに過ごしたのだろう。容易に想像できる。もしかしたら世界を救った勇者とでも言われているのかもしれない。


 そう考えると、胸の辺りが苦しくなって息ができなくなる。そして、目には涙が浮かんだのがわかった。


「……許さない」


 それは、自然と漏れた言葉だった。


「なんであいつは、幸せになって、なんで……」


 自分でも驚くほど低い声が出る。

 けれど、それを止めることなどはきなかった。


「なんで……」


 頭に血が上るのがわかる。

 頭が真っ白になって、浮かび上がるのは一つの感情だった。


「絶対に許さない。あいつが幸せになるなんて。絶対に」


 窓の下でギャーギャーと叫ぶムネラのことを見下しながら誓う。


「あいつが幸せになるのは認めない。そんな未来、絶対にぶっ壊す」


 そうかたく、かたく誓ったのは二回目の八歳の冬だった。


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