15
「……私闘は禁止されているのは知っていたか?」
あのあと、すぐに私たちは生徒会室に連行された。
なんと駆け寄ってきた人たちは生徒会の人間だったらしい。私たちは金色の髪に緑色の瞳をした生徒会長に説教を受けていた。
周りには生徒会役員だと思われる人が五人ほど座りながらこちらに視線を向けていた。まるで取り調べのようで、居心地が悪い。
「すみません、あれ私闘じゃなくて訓練だったんです」
「訓練?」
アシステレが恥ずかしそうに笑って、申し出ると生徒会長は眉を顰めて聞き返す。
「今度、魔法実践試験があるんでミセリアの従者のメトゥスさんに訓練してもらっていただけなんです」
ネモが説明をすると、生徒会長は視線を私に移す。
「ミセリア……?ミセリア・マルムか?」
「はい、私です」
そう告げると、生徒会長は目を大きく見開いて私の顔を見てくる。
なんなのだろうとおもい、見つめ返した時。思わず「あ」と声が漏れた。
生徒会長が誰かに似ているとは思っていたが、私だ。
色素は全く変わらないけれど目や鼻のパーツが私に似ている。なんで私に似ているのだろうと思ったが、すぐに思い出した。
……多分、生徒会長は兄だ。
名前も知らない、顔も見たことない肉親。まさか同じ学園に通っているとは思っていなかったけれどよくよく考えれば公爵家の令息で魔法が使えれば同じ学園に通っていても無理はない。
前の記憶にも存在していなかったから、まさかこんなところで初対面を果たすなんて思ってもいなかった。
「……今回は、訓練だったとのことだからお咎めはなしだ。ただ、今後訓練をするようならもう少し騒ぎにならないようにやれ」
「「「はい」」」
私以外の三人が返事をして、踵を返す。
私も帰ろうと思い、振り向けば後ろから声をかけられた。
「ミセリア・マルム。そしてその従者だけは残るように」
「え?なんでミセリアとメトゥスさんが残されるんですか?」
アシステレがそう告げるが生徒会長は「個人的な用だ。別に叱るわけでも罰を与えるわけでもないから安心しろ」と告げて退室を促した。
少し心配そうな視線をアシステレとネモに向けながらも、大丈夫だからと告げるように笑うと生徒会室の扉は閉ざされた。
そして、生徒会長は他の生徒会役員にも「席を外してくれ」と告げる。
「……私は残るわよ」
そう告げたのは、生徒会長と瓜二つの女子生徒。生徒会長は頷いてそれを許可する。
多分、この人物は姉なのだろうな。
生徒会役員も皆、席を外す。
この部屋の中には私とメトゥスと生徒会長と一人の生徒会役員の四人だけになった。
ただ、この中でメトゥスだけが何が起きているのかわからないというようだった。巻き込んでしまって申し訳ないと思いながらも、生徒会長と生徒会役員に向き直る。けれど、誰も何も話そうとはしない。
……多分、私はこの二人には恨まれている。
私にはその記憶はないけれど、私は母親を殺したらしい。生まれてから隔離されていたのはそれが理由のようだし、前の記憶でもこの二人が私の前に姿を現さなかったのは恨んでいたからだろう。
まあ、恨まれていようが別にどうでもいい。
あったこともない肉親など、私の中ではすでに他人として昇華している。まあ、マルム公爵は公爵令嬢の地位と金は渡してくれているから一応の感謝くらいはしているけれど。
誰が最初に声を出すのかと思っていると、最初に声を上げたのは生徒会長だった。
「……俺は、ソル。ソル・マルム。こっちの女はセリーナ・マルム。俺たちは双子で、その、ミセリア。お前の兄弟だ」
生徒会長、もとい、ソルは言いづらそうに口を開いた。
「えぇ、なんとなく察していました。初めましてといえばいいでしょうか?ソル様、セリーナ様」
私たちの言葉に、メトゥスは驚いたように二人の顔を見た後。すぐに目を細めて二人のことを見ていた。
「……ごめんなさい。私たちは、あなたがどんな生活をしていたか知っていたのに何もできなくて」
セリーナが眉を下げて謝罪を告げる。
そんなのいらないというのに、律儀な人なのだろうか。
「いえ、謝罪はいりません。私がしたことを考えれば妥当な待遇だったと思いますから」
「……母のことは、残念だったけれど私はあなたとずっと会いたかったの」
「俺たちは、妹を守るって母と約束したんだ。それなのにずっと父に逆らえなくて会えなかった。本当に申し訳ない」
本当にどうでもいい。
ソルとセリーナは私よりも少し年上なだけで、何かができるような力はなかっただろう。むしろ、一人であの別邸にいたから好きに行動できているから気にしているとかない。
とりあえず、もうそれで受け入れて早くここからでたい。
そう思い、口を開こうとした時。
「……お嬢様が、どのような生活をしていたか本当に知っているんですか?」
声を上げたのはメトゥスだった。
まさか、メトゥスが口を開くと思っていなくて少し驚く。
「俺が従者になれるまで、お嬢様はずっと一人だった。使用人はお嬢様のことを遠ざけ、腫れ物を扱うように接していた。熱が出ようと、怪我をしようとずっと一人で部屋で寝ているだけしかできなかった。それを、本当に知っていて、それでも尚、放っておいたんですか?」
そう告げたメトゥスは少し怒っているようだった。
「ねぇ」
「お嬢様は、黙っていてください」
訂正。少しではなく、結構怒っているみたいだ。
メトゥスの言葉に、ソルとセリーナは驚いているようだった。
「そんなことも知らずに、会いたいだの、申し訳ないだの。あんたら、軽薄すぎるにも程が……」
「いいから。少し黙って」
流石にこれ以上はメトゥスの口調が崩壊する可能性があったから止めた。
メトゥスはもう一度口を開きかけたが、眉間に皺を寄せて押しだまる。
「ソル様、セリーナ様。私は別に気にしておりません。ですから、お二人も私のことはお気になさらないでください」
「でも、ミセリア……!」
「私には、頼もしい従者がいますから」
そういってメトゥスの背中に手をおいて笑う。
二人がそれについて何を思ったかはわからないけれど、もうこの話は終わりだ。「では失礼します」そう告げて私とメトゥスは生徒会室から立ち去った。
生徒会室から出ると、ネモとアシステレが待っていてくれた。
「大丈夫だったか?」
ネモに尋ねられて、頷く。
「うん。本当に個人的な話だったし、別に叱られたわけじゃないから」
「そうか、なら良かったけど」
「うん。じゃ、戻ろうか。待ってくれていてありがとう」
そう告げて、四人で寮に戻る。
「また明日」と告げて、メトゥスと寮に戻るとメトゥスは少し不貞腐れたようなそんな顔をしていた。
道中も全く喋らなかった。
「ねぇ、どうしたの?」
「お嬢様……ミセリアは悔しくなかったのか?あんな軽い言葉を並べられて。あいつらは悠々と生きてきたんだろ」
「んー別に。もうあの人たちは私にとって他人も同然だし、一人だったおかげで自由に動けたし」
「そういうものなのか?」
「私の中ではね。あぁ、そうだ。ありがとうね。私のために怒ってくれて」
そう告げると、メトゥスは照れているのか顔を赤くする。
「別に、お前のためじゃねぇよ」
「うん、それでもありがとう」
そう礼を告げれば、一層メトゥスは顔を赤くしていた。
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