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「あれ?メトゥス?」


 放課後、寮に戻るとメトゥスがいなかった。

 今までいないことなんてなかったのにと思いながらも、ソファに腰掛ける。

 メトゥスのことだから、何かに巻き込まれていることはないだろう。もし、巻き込まれていたとしても大丈夫だろう。


 ソファに座り、船を漕いでいるとドアが開く音がする。

 そこに立っていたのはメトゥスで、私が帰ってきていることを認識すると頭を下げてきた。


「申し訳ありません。ご帰宅に間に合わず」

「別にいいよ」

「少し話したいことがあります」

「うん。いいよ」

「その前にお茶を用意しますね」


 そう告げて、メトゥスはお茶を入れてきた。

 最初は色がついたお湯と言っても差し支えないほどひどいものだったけれど、今ではメトゥスが入れてくれる紅茶が一番美味しいと感じる。

 ちゃっかり自分の分も用意して、お茶菓子も用意する。話したいことというのは長話になるようだ。

 メトゥスもソファに座ると、大きくため息をついてから口を開いた。


「ミセリアから、救済の魔女が授業に出ないっていう話を聞いて、ここ数日独断で探ってた」

「そうだったの?」

「あぁ。授業に出ないなら、ミセリアよりも俺の方が探りやすいだろ」

「それは確かに。それで、授業に出ないで何をやってるかわかったの?」


 そう尋ねれば、メトゥスはもう一度ため息をつく。


「何もしてない」

「ん?」

「何もしないで、ただ二人で個室の中で話しているだけだ。あのエドワードっていう侍従を扉の前に待機させてるだけだった」

「それは、つまり本当にただのサボりで魔獣を探すわけでも魔王の存在を探すでもなく二人でイチャイチャしているだけだと?」

「ああ」


 なんだそれ。

 メトゥスが先ほどから大きなため息をついている理由がわかった。私も思わずため息が出る。

 

 ……ムネラってそんなにバカだっけ?今日の昼も同じこと思ったような気がする。

 

 前回のムネラも救済の魔女に恋慕を抱いているようだったけど、そこまであからさまではなかったはず。

 なんで今回はそんなバカになってしまったのだろうと考えて、一つ思い当たった。


 ……世界が平和だからだ。


 多分それが正解な気がする。

 前回は、救済の魔女が現れたとき。すでにメトゥスは魔王に成っていた。この学園にさしたる危機は訪れなかったけれど、世間は魔獣に襲われる事例や魔王が発する瘴気に犯される人がたくさんいたらしい。

 次期国王となるムネラはそれに頭を悩ませていたようだし、救済の魔女と恋愛をする余裕がなかったのだろう。


 けれど、今回はメトゥスが魔王になっていないから世界は平和そのもの。

 魔獣も異常発生していないし、瘴気も存在していない。心に余裕がある状態だから救済の魔女といちゃついている時間も余裕もあるのだろう。


 そして、それは救済の魔女も一緒。

 救済の魔女としての仕事がないから好き放題しているのかもしれない。


「なら、そろそろいいかもしれない」

「あぁ、あの計画か?」

「うん。私もクラスメイトに馴染めてきたし、ムネラと救済の魔女の仲に嫉妬していじめるっていう理由にするならちょうどいい時期だと思う」

「わかった。あと問題は、あれだな。俺の女装」

「ああ、そうだったね。でも制服着てくれるだけでいいよ」

「そうか?」

「うん。身長は誤魔化せないから座ってもらうことになるけど」


 別にそこまで本格的に顔を似せるつもりはない。

 遠目で私だと思ってくれればいいだけだから、髪を伸ばして制服を着せて本でも読んでいてくれればいい。

 

 この学園に銀髪の生徒は私しかいないだろうから、銀髪の女子生徒の制服を着た人物がいたら自然と私だと認識してくれるだろう。

 ネモとアシステレのおかげでクラスメイト以外にも私が銀髪であることは認識されている。


「メトゥスはとりあえず図書館で本でも読んでいてくれればいいよ。あ、でもクラスメイトに話しかけられるのは絶対に避けて。流石にバレる」

「わかった」

「じゃ、着てみようか」


 そう言った途端、メトゥスは嫌な顔をする。

 流石に女物の服を着るのには抵抗があるらしいが、私の身代わりができるのはメトゥスだけだ。着てもらうしかない。


「ミセリアの前では着たくない」

「なんで?」

「なんでもだ。安心しろよ。身代わりはもちろんちゃんとやるから」

「そう?ならいいけど」


 メトゥスのことだ。

 多分、私が思っている以上の完成度でやるだろう。見てみたい気持ちはあるけれど、無理矢理目の前で着せて拗ねられても困る。

 

「あとは、あれだね。救済の魔女が一人きりの時に接触できるか、かな。捕まえたとしても身代わりできてないとダメだし」

「それは、これを使おう」


 メトゥスが胸元から出したのは、小さなベルだった。

 なんの変哲もないベルにしか見えない。


「ミセリアのクラスメイトの従者に聞いた。主従のベルって名前の魔法道具らしくてこのベルに俺とミセリアの魔力を込めればどんなに遠くにいてもベルが鳴ったのがわかるものらしい。しかも音は本人達以外には聞こえないらしい」

「へぇ。高かったんじゃない?」


 魔法道具は、その名の通り魔法がかけらえた道具だ。

 基本的に魔法道具は便利なものが多い。一番有名なのは箒だ。箒に魔法をかけて空を飛ぶことができるもの。魔力の消費が少なく、馬車よりも早い。なぜ箒なのかはわからないけど。

 もちろん、それはただの箒ではダメで魔道具屋と言われる人たちが作ったものでないと空を飛べない。

 そうなると自然に値段も高くなる。


 だから、きっとこのベルも高かったのだろう。少しでも支払おうと思い、申し出たがメトゥスは首を振る。


「別にそこまで高くなかった」

「それでも、支払わせるわけには」

「いいよ。別に。これはお前だけの復讐じゃない。俺の復讐でもあるんだから」

「そう」


 これ以上言ってもきっと聞き入れられないと思い、引き下がる。


「俺の魔力はもう入れてあるから」

「わかった」


 メトゥスからベルを受け取って、魔力を込めると振ってもいないのに綺麗な音が鳴る。


「この音が聞こえてきたら、俺はミセリアに成り済ます」

「わかったそしたら、一度目はなりすます合図。二度目は撤退の合図にしよう」

「ああ」


 ようやく次に段階に進める。

 けれど、用心は必要だろう。救済の魔女の思い通りにする計画ではあるけれど、思い通りになるとはいえいじめられるのになんの対策もしていないとは考えられない。

 そのあたり、ちゃんと用心しなくてはいけないと思いながらも明日からのことを考えると自然と体に力が入っていた。


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