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学園に入学してから三ヶ月。
私は前回の時とは比べ物にならないほど充実した学園生活を送っていた。
誰とも話そうとしなかったせいでひとりぼっちでクラスから浮いていた前回とは違い、今回は、ちゃんと話の中に入れているような気がしている。
私が関わりを持とうとしていることもあるだろうが、何よりも大きかったのはネモとアシステレの存在だ。ネモとアシステレは私が知らない話題でもさりげなく説明してくれたり話を振ってくれる。そのおかげでなんとか話についていけている。二人には感謝している。
ネモはとても社交的な性格をしていて、初めて会う人でも少し会話を重ねるだけでみんな心を開いていくのが見て取れる。それはネモが相手の欲しい言葉を的確に返しているためだと思う。ネモのおかげで私もクラスメイトだけではなく他クラスの人たちとも顔見知り程度にはなれた。
アシステレは活発でいるだけで周りが明るい雰囲気になる。それだけではなく、行動力が凄まじく気になることがあれば首を突っ込んでいってしまう。何度か巻き込まれたけれど、首を突っ込んだ先でなかなか面白い情報が手に入ることもある。
メトゥスも聞いた話によれば、従者同士のコミュニティを築くことができているようでクラスメイトの趣味や好きなものを聞いてきてくれるおかげで二人以外のクラスメイトとも良好な関係を築けていた。
ネモ、アシステレ、メトゥスのおかげで第一目標である「クラスメイトとの距離を縮める」ことは順調に達成しつつある。
そろそろ救済の魔女に手を出してみようかと思っているのだが、なかなかそれが難しかった。
「うわ、今日は来たんだ」
隣に座っていたネモが呆れた口調で、教室の入り口を見る。それに釣られて視線を向けると、そこにいたのは救済の魔女。その後ろにはムネラとエドワードが立っていた。
「みんなおはよう!」
場違いな明るい声が教室内に響きわたるが、それに反応したのは誰もいなかった。
別にこの状況に関して、私は何もしていない。
むしろ、救済の魔女の自業自得だと言ってもいいだろう。
救済の魔女は、入学してから三ヶ月。
まともに教室にいなかった。全くいないというわけではないが、授業が始まるとムネラとエドワードとともにどこかへ行ってしまう。いわゆる、サボりというものだろう。
魔法を学びにきているクラスメイトにはそんな姿が許せないものが多く、次第に救済の魔女を見る目が冷ややかになっていった。
それは救済の魔女だけではなく、ムネラも冷ややかな視線を送られている。
さらに、それは私にも飛び火している。
クラスメイトの中には「救済の魔女だからって人の婚約者と行動を共にするなんて!」と憤る令嬢や、「婚約者をそっちのけにして、他の令嬢といるなんてありえない!」と声を上げる令息もいる。
そんな令嬢、令息を慰めると私の株が上がった。
前回は、私の方が浮いていたというのに今回は救済の魔女とムネラの方が浮いていた。
この流れは私にとってかなり都合のいいものだけれど、これほど都合がいいといささか不気味に感じてくる。
もう少し様子見してから動いたほうがいいのだろうかとも思う。
「いいのかよ、ミセリア」
「何が?」
ネモの視線の先にはまだ救済の魔女がいる。
救済の魔女はムネラと話していて、何やら楽しそうな表情を浮かべている。周りに気が付かれないように耳に聴覚強化魔法を掛けて盗み聞きすれば、本当にしょうもない事を話していた。
「今日もサクラは可愛いよ」だとか「僕が守るから大丈夫だよ」とか。本当にしょうもない。恋をするとバカになるというけれど、ムネラってこんなにバカだったっけ?と思いながらもネモに微笑む。
「いいも、何も。救済の魔女様は世界の命運を握っているから王族のムネラと話すことはたくさんあるでしょう」
「ミセリアって結構お人好しだよね」
「そんなことないよ」
アシステレにそう言われて思わず笑ってしまった。
お人好しなんかじゃない。
私は、今から二人をはじめとするクラスメイトのみんなを利用するのだから。




