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 初日の説明が終わり、解散となってから私は脇目も振らずに自分の寮へ戻りたかったのだがその前に声をかけられてしまった。


「ミセリアさん、少しいいですか?」

「……はい。もちろん」


 救済の魔女に声をかけられて、それも叶わなくなってしまった。

 一体、何の用なのか。


「私、ミセリアさんとお話ししたくて。もしよかったらどこかでお話ししませんか?」


 気乗りはしないが仕方ない。

 いや。むしろ、これを好機と思え。

 救済の魔女に自然と近づけるのだ。むしろ救済の魔女から何かしらの情報を引き出せるかもしれない。


「わかりました」


 救済の魔女についていくと、ついたのは談話室だった。

 入学式だったこともあり、人は私たち二人以外にはいない。


 ソファに腰をかけて、一体何を話そうかと思っていたのも束の間。

 救済の魔女は幼くて可愛らしい顔を歪めて、眉間に皺を寄せながら尋ねてきた。


「あなた、転生者でしょ」

「は?」


 なにそれ、と思わず首を傾げる。

 けれど、救済の魔女は私の様子など気にも留めていないようでペラペラと語り出した。


「知ってるんでしょ。キュウセカ。じゃなきゃムネラが悪役令嬢のミセリアを私のサポート役として紹介するなんておかしいもの」


 何を言っているのか、本当にわからない。


「あの、本当に何のことかわからないんですけど」

「はあ?とぼける気?どうせ全部知ってるんでしょ。あんたが私をいじめて婚約破棄されることも、その後に厄災の魔女として世界を壊そうとすることも!」


 なんで、それを知っている?

 救済の魔女も死に戻りなのかとも思ったけれど多分違う。転生という言葉を使っているし、私の記憶でも彼女をいじめたことはない。むしろほとんど関わりはなかった。

 救済の魔女が言っていることと私の記憶とは齟齬があるし、多分違う。


「すみません、救済の魔女さん。本当にあなたが何を言っているのか理解できないんですが」

「待って、本当に知らないの?」


 困り顔を作って、もう一度否定すればようやく救済の魔女は驚いたように私を責め立てるような言葉をやめた。


「日本とか、救済の魔女と世界の運命っていうゲームの名前って聞いたことない?」

「はい。申し訳ありませんが、本当に何をおっしゃっているのか理解できません」


 そう否定すれば、救済の魔女は「なんだ!バグかなんかか!」と楽しそうに笑って立ち上がる。


「ごめんね、変なこと言っちゃって!少し混乱してたみたいだから忘れてね!」


 そう告げると、私を置いてどこかに行ってしまった。

 まるで嵐に襲われたような気分になったが、とりあえず帰ることができる。けれど、今さっき救済の魔女が言っていたことにはほとんど意味がわからなかったけれど気になる要素が多かった。

 ため息をつきながら、メトゥスが待っている寮へと向かった。


「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ただいま。メトゥス、ちょっと色々話したいことあるから座って」

「わかりました」


 寮の中に備え付けられていたソファに腰をかけて、防音魔法を展開させる。

 メトゥスも私の正面に座って、整えられていた髪をかきあげてため息をつく。その様子からメトゥスも色々と考えていたことが見て取れる。

 ただの主人と従者の関係ならば、このような態度はあり得ないのだが、今のメトゥスと私は共犯者の関係。誰も見ていないからこのような態度でも問題はない。


「念の為、確認するけど魔王になってないよね?」

「ああ」

「だよね……」

「あの女が、俺を殺す存在だよな?」

「……殺す、というよりは魔王の魔法を無効化できるっていう方が正しい言い方」


 だって、私の記憶の中でメトゥスを殺したのは私だったから。

 

 救済の魔女さえいなければ、保護魔法が無効化されずに私はメトゥスを殺すことはなかった。そう思うと、あの命令を下したムネラ以上にそのきっかけを作った救済の魔女の方がはるかに憎い。

 救済の魔女は今回、現れないと思っていたからその憎悪を表に出すことはなかったけれど目の前に現れたことによって蓋をした気持ちが溢れてきているのを自覚していた。


「そうか。ならどうする?後々脅威になるなら始末してもいいが」

「……そうだね。始末するのはあり。だけど気になることがある」

「気になること?」

「さっき、救済の魔女に呼び出されたんだけど、その時に色々変なことを言ってた」


 メトゥスに先ほど救済の魔女に言われたことをかいつまんで話す。

 転生者やら、これから起こることを何となく知っているようだったとか。そう告げればメトゥスは何かを考えているようだった。


「……利用できるかもな」

「利用?」

「救済の魔女が言っていた展開に乗るんだ」

「展開に乗る?」

「ああ。ミセリアは救済の魔女をいじめて、あいつに婚約破棄させる」

「……それ私死なない?」


 前の記憶では救済の魔女を事故で傷つけた際に投獄されたのだ。それなのに故意にやるとなれば投獄、処刑コースになるだろう。


「いや。それが冤罪だったら?」


 メトゥスがニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 それで、メトゥスが何を考えているかわかった。


「ミセリアとあいつの本来の関係がどうであれ、未来の王妃を陥れようとしたとしてあの女は当然無傷では済まない」

「……なるほどね。しかもメトゥスが魔王として覚醒しなければ、救済の魔女の存在自体が疑問視される」

「ああ。救済の魔女として担ぎ上げたのは王族だ。このことを貴族や平民に面白おかしく脚色して広めれば王族は無傷じゃ済まないだろう」

「……そうだね。さらにムネラが救済の魔女に惚れたら容易に証拠とかは集まりそうね」


 事実、前の記憶ではムネラは学園内で救済の魔女と随分とイチャイチャとしていた。

 それを私以外の他の生徒に目撃させるのが都合いい。

 

 前の記憶でもあったように同情や嘲笑の視線を向けられるだろうが、逆にムネラに対しては侮蔑の目を向けることができる。

 そうすれば貴族子女の中ではムネラの評判は落ちる上に一緒に救済の魔女のイメージも下げることができる。


 となると今後、必要なことはクラスメイトをはじめとする学校の人間との良好的な関係。

 それが一番難関になりそうだ。


 あと、懸念点としては……。


「乗る価値は十分あるけど、冤罪ってどうするの?私が実際に救済の魔女をいじめても、その時間に私がいなかったら追い詰められるのはこっちになる」

「それは、俺がミセリアになって他の人間と接触すればいいだろう。催眠魔法か幻覚魔法でもなんでも使って」

「魔法ねぇ……」

「何か不服か?」

「そうね。もし計画がうまくいっても裏付けのために魔法の痕跡を調べられる可能性があるから、魔法は使わずに普通に変装する方がいいと思う」

「それは俺に女装しろと?」

「うん。顔は……化粧で何とかなるかな?髪はつけ毛でもしようか」

「……わかった」


 メトゥスが嫌な顔をするが、それでも拒否しないのは復讐のためと割り切っているからだろう。

 

 もちろんこの計画がうまくいったところで王族の威信が全て壊れるとは思っていないけれど、大きな打撃にはなる。


 とりあえず、これで今後の行動指針は決まった。


「まずは、クラスメイトとの距離を縮めるところから始めないといけないかな……。あとはあいつから本当に魔王が存在しているのか世界情勢を聞いた方がいいか」

「じゃあ俺はそのためにミセリアのクラスメイトの使用人と良好な関係を築くそれでいいか?」

「うん。よろしく」


 メトゥスが立ち上がって、髪を整えたことで会議は終わりを告げた。


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