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 どうして、こうなってしまったのだろう。

 

 真っ赤な水たまりの中で座りながら私、ミセリア・マルムは物思いに耽っていた。

 私の周りには、元婚約者や世界を救うとされている救済の魔女や見たこともない顔の整った男たちが私に向けて攻撃魔法を放っていた。

 けれど、体から溢れ出す魔力が勝手にそれを阻害して、私の元へ届く気配はない。


 そして、この真っ赤な水たまりを生み出しているのは、この世でたった一人。私のことを愛してくれた人で、私が愛した人。

 もう息の根は止まっていたけれど、まだ体は暖かかった。

 

 体はちぎれるくらいに熱いのに、頭は冷えていた。

 どこで間違ったのだろう。なんて、自嘲気味に思うけれど、答えなんてわかっていた。


 生まれた時から間違っていたのだ。


 私は、生まれてすぐに母親を殺した。

 身に余るほどの魔力と共に生まれた私は、生まれたと同時に魔力暴走を引き起こして母親を殺した。

 母を愛していた父や、兄、姉は私のことを恨んだ。

 乳児の時から数人の使用人と共に別邸に押しやられた。母親を殺した子供なんて、誰も気味悪がって近づかない。腫れ物扱いをされていた。


 そして八歳の頃、政略の駒として第一王子の婚約者になった。

 初めて人に優しく微笑まれて、この人の役に立ちたいと思った。それはきっと恋ではなかったけれど、王妃として隣に立つのに恥ずかしくないように勉強も、魔法も誰よりも上手く扱えるようになった。


 十五歳の時に、魔王が覚醒した。それと同時に「救済の魔女」が現れた。

 婚約者は救済の魔女につきっきりになった。けれど、それは仕方ないと思っていた。第一王子である婚約者は世界を救うために救済の魔女と協力しなければならなかったから。

 けれど次第に、婚約者と救済の魔女が付き合っていると言う噂が学園に蔓延した。信じたくはなかったけれど本当だった。

 今まで頑張ってきたことは無意味だったと思った。そして、その時初めて婚約者に心の底から嫌われていたことを知った。

 そんなストレスが溜まって、私は生まれた時以来。魔力暴走を起こした。

 

 最悪だったのは、その場に救済の魔女がいたこと。

 私の暴走で救済の魔女は怪我を負った。それから私は救済の魔女を傷つけた犯罪者になった。

 そのことが原因で、家からは勘当。婚約は破棄。そして投獄された。


 けれど私の魔法の力を使わないのは勿体無いと、第一王子にとある印をつけられた。奴隷印と呼ばれるそれは、言うことを強制的に聞かせるものだった。


 それをつけられて、私は私の意思とは関係なくたくさん殺した。

 魔獣も、人間も。何人も、何人も、何人も、何人も、何人も。

 人々は私のことを「厄災の魔女」と呼ぶようになり、心が疲弊して、いつしか死を望むようになった。それを叶えてくれそうな人が目の前に現れた。


 魔王と呼ばれるその人は、なんの気まぐれか。私を拾った。奴隷印を無効化できる保護魔法をかけてくれた。

 ご飯も、寝るところも、何も困らないようにしてくれた。

 ここにいたいと願えば、それを許してくれた。

 寂しいと喚けば、ずっと手を握って一緒にいてくれた。

 唐突に変な趣味の飾り物を持ってきてくれた。

 私が笑えば、一緒に笑ってくれた。

 愛を告げてくれた。


 初めてだった。

 こんなに満たされた時間も。誰かに愛されたことも。そして、誰かを心の底から愛したことも。

 ずっと、こんな時間が続けばいいと思っていた。


 けれどそれは数刻前、崩された。

 救済の魔女と元婚約者が目の前に現れたのだ。


 救済の魔女の魔法によって、彼がかけてくれた保護魔法が解けた。

 そして第一王子に命令された。

「魔王を殺せ」と。


 そこからは、もう思い出したくない。けれど、確実に言えることは一つ。


 私は、愛した人をこの手にかけた。


 ……多分、もうそろそろ私の魔力は尽きる。尽きたら、私は死ぬ。殺される。

 でももうそれでよかった。こんな世界生きていたくない。死にたい。


「大好きだよ。メトゥス」


 そう告げたと同時に、胸に剣が突き刺さる。

 痛みが広がり、胸からはとめどなく血が溢れ出し、体温が下がっていくのが感じる。


 薄れゆく意識の中で「幸せになれよ」と、聞こえるはずのない声が聞こえたような気がした。



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