第7話 ─往時─
前回のあらすじ
運命の歯車は壊され続けたが、戦場を整えることには異常に優れるようになってしまった狛枝。
意味深な会話もほどほどに、戦闘は終幕へと近づく。
戦いを見とどける古明地。劇はフィナーレを迎えるも、本来は傍観するだけだったはずの彼女に凶弾が襲いかかるという、求められていないエンディングが訪れる。
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作品を開いていただきありがとうございます。iです。
前書きの前(?)に、私は前書きや後書きで無駄におしゃべりしてたりするので、前の話から見たほうがいいかもしれないです。
今回はあんまり話すことのない内容なんですよねぇー…
ただ、今回次回で伏線をいくつか入れているのでよければ探してみてください。
違和感はあるかもしれないですけど、おそらく考察して当てるのは無理だと思います。
それではごゆっくりどうぞ…
私はどんなのだろう。
名家に生まれた美少女。
才能を持って生まれたエリート。
今後世界で活躍すると言われた人材。
そんな大きいだけの肩書なんて何も意味がないと、身を持って実感した。
結局、私がどれだけエリートでも、私にどんな才能があっても、絶え間なく訪れる暫時を生き延びれなければ、なんら意味はない。
かと言って、生き延びるためだけの力を手にすれば、やがて周りからは脅威とみなされる。
人は皆自己中心的で、自身を主役として演じる。
これは、私と彼の物語。
地位や名声、財産などではなく、命をかける物語。
彼の命はもう尽きてしまうのかもしれない。
─
私に飛んできた凶弾は、私に当たらずに、止まる。
私は、いつまでも動けなかった。
目の前の状況を見ても、愛する人を失いかけてもなお、私の体は動かなかった。
実際、弾丸なら避けれたと思う。
うつ伏せになってこちらを見つめている間に、塀に体を隠すくらいのことはできたと思う。
いや…これ以上彼に付きまとい、足手まといになるくないら…死んだほうがいいと思ってしまったのかもしれない。
彼は…そんな私の意思すらも曲げてみせた。
私の体を青い風が吹き抜ける。
私に飛んできた凶弾は、私に当たらず…はくの体によって止まった。
…もう言葉も出てこなかった。
彼は自分の身を、命を呈して守った。
鬱陶しく纏わりついた人を、一方的に愛を押しつけた人を。
『─女に体張るとか、あんたも変わっちまったんだな。』
やつは不敵に、清々しく、しかしどこか淋しげに言葉を投げかける。
返答はない。
背中から腹部に、腹部から地面に血が流れていく。
唯々と、事実だけがその場を支配する。
『流石っす兄貴!まさかあの最強を殺るだなんて!
あと、あの女どうします?』
『…好きにしろ…俺は先に帰る。』
『うっす!お疲れ様です!』
勝利に慶ぶ彼らは、一人を除いてこちらに迫ってくる。
下っ端ってやつは、上のやつを褒め伸ばしてから自分の欲望を出す。…何度も見てきた。
強気は思考とは裏腹に実際は恐怖で声も出ない。
『ってことでお嬢ちゃん?俺等と楽しいことしようぜぇ
ーもちろん君に拒否権はないけどねぇー』
撃ちぬかれたはずの肩の痛みさえも、この状況の脳内麻薬には及ばない。
『い…いや…あ…や…』
奴らは嘲笑いながら私をどこかに連れて行こうとする。
『あんまり見えなかったけど可愛いじゃーん?
いやー、今から元気になってきたなぁ』
そう言い私の体に触れる。今はまだ友好的な態度だが、抵抗すればその限りでもない。
しかし、どこか理解していた。
私は、大丈夫。
根拠のない安心が私を包み込む。
何かを信仰してるわけではないが、何かをずっと、一途に待ち続けている。
こんな状況でもしっかりと見ていた。奴らを。
いや、奴らの後ろを。じっと、確認するように。
─そして来た。
『お前ら…生きる価値もねぇな…』
『…!?』
そこには…血まみれとなり、暗闇のなか街灯に照らされた
先ほどとは比べ物にならない、尋常ではない殺意を振りまく…
はく、を。
先程までヘラヘラしていた奴らの顔に突然、狼狽とこの状況を知見した様子が貼り付けられる。
『何もをせずにそのまま帰れば、見逃そうと思ったが…お前らの組はどこまで堕ちるんだ。』
先ほどの戦いを見れば素人目だろうと、いくらなんでも力の差がありすぎてしまうことがわかる。
『こ…狛枝…わ、悪かった、女も返そう。
他には何が欲しい?金か?慰謝料か…?いくらでも払う…だから…頼む…』
『そ、そうです…それに俺等もちょっと調子に乗ってただけで…
なので命だけはどうか…』
『何甘いこと言ってんだ。
俺はどうするにせよ、渡世に生きてるんだ。』
『うっ…』
二人の震える頼み事もばっさりと切り捨てる。
『とはいえ、俺は今あんまり殺しをしたくねんだ。
そこでお前らに提案だ。
ただ一つだけ、組に戻ったら上の奴らにもう俺に手を出さないよう説得しろ。
もし、お前らが組に帰ってから、俺に刺客が来なければ生かしてやる。
できなかったらお前らを殺す。
この提案を飲まなくても殺す。
選べ。』
『っ…帰る…帰る!説得もする!だから許してくれ!』
『そうか…ならよかった──
が、俺も手ぶらで帰るわけにはいかないんだな。
ということで──』
─
『膝と腕はもらってくぞ』
『グァ…!』
『あと、そのまま帰すわけには行かないんでな。
ついでに意識ももらっていくぞ。』
『…!──』
初めは見ても理解できなかったが、しばらく考えたうえで理解する。
恐ろしく速い手刀で男二人は倒れる…!なんてことはなく、しっかりと両手で首をありえない方向に曲げていた。
私がのんきに考えてる間で、はくは倒れた男たちを先に立ち去った男たちに渡している。
『おい!似鳥にとり!こいつら連れて行け。どうせ近くに車あるんだろ?』
『…?
…』
似鳥と呼ばれた男は何も言わずに男二人を抱えて暗闇に消えていく。
はくはしばらく男を見送ったあと、こちらにゆっくりと歩いてくる。
私は今でも腰が抜けて動かない。
ゆっくりと歩いてくる。
暗闇で顔は見えない。
私だけを照らすスポットライトのような光の中、はくがその光に入ってきて顔を上げて初めて顔が見える。
……
先程の言動からは想像できないほどに…穏やかで…静かな声…
それでも。瞳の奥に昏く揺れている、黒い炎のような虚無感だけは…何も変わっていない。
『大丈夫ですか?
一応私は出るなって言ったんですけどね…
まあ、仕方ないとはいえ、流石に勘弁してください。』
…いつもよりか元気に朗らかに…
『……!』
その声を聞いて限りないほどに、茫々たるほどに私を完全な安心が包んだ。
それでも…声は───出ない。
『動けそうで…はないですね。
わかりました。あなたの家の方を教えてください。
近くまで送りますんで。』
─
声の出ない私は必死に首を振り、否定する様子を伝える。
『…』
はくは少し驚いたような、呆れたようなため息をつく。
『あれを見た上で付いてくるって言った人は、あなたが初めてですよ…』
そう言いながらはくはゆっくりと私に近づき、膝を曲げて座り込んでいる私の腰と足に手を回す。
『ほら、そこまで言うんだったら好きにしてください。
帰りますよ。』
『う…ん…』
そうして、はくは私を軽々と持ち上げ、私はお姫様抱っこの状態になり夜道を駆け抜けていく。
─
『ねぇ、はく?』
『…聞きたいことは色々とあると思いますけど、着くまでは待ってください。
こんまま話すとちょっと辛いんで。』
『敬語、やめてくれない?』
『少なくとも今の私はそうするべきじゃないと思いますけどね…』
『じゃあ、今日のこと学校とかSNSとかで言っちゃうよ?』
『…そんなこと言ったら、あなたも今からああなるかもしれないですよ。』
『できないでしょ?』
『…』
再びため息をつく。
『本当に面倒くさい人に絡まれたな…私は…』
それでもまだ不満そうな顔は変わらない。
『一人称…』
『…はいはい、俺は本当に面倒くさい人に絡まれたな!』
皮肉げにそう告げる。
─
少し寄り道をして私は…いや俺は自宅へと帰ってくる。
玄関のドアを開けた瞬間
『こんにちはー!はくくんの彼女でーす!』
さっきまで動けてすらなかった人とは思えないほどに、意気揚々とした様子で声を張り上げるこの少女──
どんな教育されてるんだろうな…
『何とんでもないこと言ってんだ。
それと親はいない。近所迷惑だから静かにしろ。』
『へー親御さん仕事?それとも出張?』
『いないよ。物心ついた頃にはいなかった。
顔も覚えてねぇ。』
『ふーん、にしてはおっきい家に住んでんだねー?』
まるで何度も聞いたかのように、親がいないことにも触れないこいつ…
『そこは親がいないことに触れて「あっ、ごめん…」ってシーンだろうがよ。』
『聞いてほしいの?聞いたって気まずくなるだけだから良いかなって。
ていうか、はくの部屋どこ?探索したい!』
『はぁ、2階に上がって右に曲がったところの一番近い部屋だよ…
見てもいいが、探したって何も見つからねぇよ?』
『ありがとー!』
そんな言葉を発する前に階段を駆け上がる古波蔵…
『はぁ…』
竜巻のような彼女にため息をつきながら、リビングにある医療箱を取り出す。
服を脱ぎ、先程撃たれた傷にさらに治療を加える。
無理に動いたせいか血はまだ止まっていない。
とはいえ、死ぬレベルでもないので、服を着替えて客人のために飲み物を用意する。
…私の耐久性が異常だという話ではない。
主に異常なのは、なぜだか私に手を貸しているこいつだ。
今後のことを少し考え、10分だった頃、ようやく古波蔵が1階に降りてくる。
使っていない他の部屋も探したのだろうか。
服には少しホコリがついていて、そのせいで目元も赤くなっている。
『はくの部屋とか他の部屋も隅々まで探したけど…何もなかった…』
『そりゃぁねぇ、なにもないもんはないからな。』
『薄い本とか高校生なら持っときなさいよ…
あ、最近はそーゆーのも電子化してるのかな?』
『はぁ…あんた意外とそういうこと言うんだな?』
『いや?そんなことはないけどね?
はくだから特別的な…?』
『…そんな上目遣いしても俺は動じねぇぞ?』
『とか言ってー、好きって言われてまんざらでもないくせにー!』
『この家から放り出すぞ。』
『ごめんてー!でも私たち付き合ってるんだよー?』
喋りながらも古波蔵はずっと動き回り、口が話まり続けている。
このまま無限に会話が続くと思えるほど流暢にずっと喋り続けている。
『…とりあえず座れ。まともに話すらできない。
それと、少なくとも俺はんなこと認めてないからな。』
『はいはーい、ツンデレ狛枝君ねー
で?なんの話だっけ?』
『いや、別に俺から話があるわけじゃないけどな?
あんたなんで家にわざわざ来たんだ…』
『あー、何しに来たんだっけ?
あんな事あったから忘れちゃったー
付き合う合意を取りに来た?んだっけなー?』
『……
─
はぁぁー?あんた本当に何しに来たんだよ!?』
『いやー半分くらいは冗談だよ?
あとは遊びたいってだけだったんだけど…
何やら別の用事までできちゃったみたいでねー』
『…』
『そうだね〜聞きたいことって言っても色々ありすぎて何から聞けばいいのかって感じー?』
『…まあ基本なんでも答えるさ。
残念ながら時間はあんたがわざわざ来たせいで、時間だけはあるんでね…』
『あれ?やたら素直だね!』
『実質的にあんたに脅されてるんでね。
こうして、機嫌をとって他に何もさせないようにしてるんだよ。
あと、別に隠してるわけじゃねぇ。聞かれたら答えるさ。』
『それをわざわざ言っちゃっていいの?
まあ、それはそうとだ、まずねーなんでそんな強いの?
さっきの人たち、体格差とかだけで言ったら絶対勝てなかっただろうしさ。
あの人たちと知り合いぽかったのも気になるかな?』
『まず─』
『あと、何で銃持ってたの?
どうやって銃弾に追いついたの?』
『だから─』
『そうそう、そもそもここってどういう立地になってるの?すごい複雑だったけど。』
『……質問は1つづつしろよ…』
何から聞けばいいのかとか言っておきながら、質問がペラペラと申し合わせたように吐き出させる。
なんでだろうな。そういう気分なのか、感じる気味の悪さのせいか。
運命の歯車は整えられなくとも、戦場は整えられるらしく、負傷しながらも整えられた戦場は無事勝ち越す事となる。
流れの赴くまま狛枝の家へと着いた一行。
明かされることとなる狛枝の過去は…
彼の運命の歯車は依然変わらずに、順調には周らないなしい。
次回 第8話 ─故事─
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
決着はつきましたけど、正直…予想できる展開で面白みがないなと、書いてて思いましたね…
これからは多少は予想できないような面白い展開と伏線の回収を考えてありますので…これからも何卒よろしくお願いします。
あ、ちなみに次の話は珀くんの過去とかの話なので正直つまらないかも?
まあ…それでも重要な事いっぱい入ってるんで…よろしくお願いします。
ここまで読んでいただきありがとうございました。