第6話 ─戦役─
前回のあらすじ
「才能保持者」のみ入学できる学校に入学したものの、
思ったように進まない学校生活に、抵抗するわけではなく、ただただ運命の歯車を整え続ける狛枝。
3度も壊された運命の歯車をめげずに整え続ける今日この頃だが、今回に限っては彼の手遊びによって破綻する。
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作品を開いていただきありがとうございます。iです。
前書きの前(?)に、私は前書きや後書きで無駄におしゃべりしてたりするので、前の話から見たほうがいいかもしれないです。
今回はようやく戦闘があります。
といっても─
…あんまりネタバレとかするのはよくないですね。
いろいろと話したいことはありますが、それはまた後がきで…
それではごゆっくりどうぞ…
はくにいきなり飛びつかれ、それと同時か直後に何かはわからない…
いや、それは私の都合の良い解釈だろう。
その音は、聞いたことはないが銃声だと考えられる。
飛びつかれたこと、聞こえた音を含め、情報量多さに頭が回らなくない…
その間にはくは何事もなかったかのように立ち上がり、銃声の聞こえた方向に歩き出す。
『ここに隠れててください。
絶対に顔は出さずに、手で耳をふさいで、目を開けないどいてください。』
『え?あ?うん…』
曖昧な回答しかできない私をおいて、はくは歩いていく。
…はくには「見るな」「聞くな」と言われた
が…
好奇心は猫をも殺す。やはり興味があるというものだ。
バレないように少しだけ顔を出す。
そこには私のみならず、少なくともはくと比べても明らかにガタイのいい男たちが3人…
先程の銃声も含め、明らかにはくが危ない状況だということはわかる。
愛した人の危機に立ち会ったにも関わらず、私の足は…
─動かない…
金縛りにでもあったかのように…恐怖で…足が動かない。
もう、怖いものなんて思っていた年齢なのだが、やはりそのは人間のエゴなのだろうか。
他人のためにはそう簡単に命は懸けられない。
軽く他の人に命を懸けられるなんて言う人の無責任さを思い出た。
そんな動かない足に変わって、私の頭とはくだけは動き続ける。
そうして、止まらないはくはやがてその男たちと話を始めるが、距離が遠くはっきりは聞こえない。
普段の執念を振り絞り、耳を澄ませる。
『あんたら、なんの用だ。
俺が帰らないことはよくわかってるだろ。』
普段のはくからは想像できないほどに…強気で、怒気を孕んだ声。
『んなたこたぁ、わかってるけどよ、こっちにも親の命令ってやつがあるんだ。
お前さんならよくわかることだろ?
─もとウチの最高戦力兼、裏社会最強のお前なら』
『んなことは過去の話だ。
俺はもう足だって洗って、お前らにはなんにも危害だって加えてねぇだろ。
それと同じで、お前らだって俺に何もしなけりゃぁ、それですべて解決だろ?』
最高戦力?裏社会?私にとっては馴染のない言葉が次々と飛び交う。
今はまだ友好的で話し合いができているが、それが長く続くことの保証はなく、先程の銃声が聞こえるときもそう遠くないのかもしれない。
『さっきと言っただろ。こっちも親からの命令なんだ。もう一回言おう。
狛枝、組に帰ってこい。欲しいものはなんでもある。
金、女、地位、名声─なんだってある。
あんなくだらない学校でほそぼそやるのか?
それよりもう1度、こっちでド派手に名を轟かせようじゃないか。』
『さっきも言っただろ。俺はもう足を洗ったんだ。
戻る気はないし、今の生活に満足してるんだ。
何より、名義上任侠集団のお前らが汚い手段で得た金だの女だの、名声だなんて疎か、そんな奴らの中
での地位なんて、豚も食わねぇな。』
『言葉ではそう言っててもよ?結局人間ってもんは自分の欲求に忠実に生きるもんだ。
口頭でのやり取りだなんて結局意味をなさないんだ。
別に今ここで答えを出せなんて言わないさ。
そういう気になったらいつでも言ったらいい。
ただ、これはあいにく減るもんだ。あまり待たせるとお前の命は保証できない。
どうだ?今なら好条件でウチの組に帰れる。』
『何度も言わせるな。俺はもう殺しなんてやらないんだ。
どんだけ条件を出したって俺は戻らねぇよ。
それに、お前とお前の兄貴だの、舎弟みてぇに心を腐らせたくはないんでね。』
『おまっ…!』
喋っている隣の男が声を張り上げる。
『…』
喋っていた男が静止する。
そのやり取りだけで彼らの上下関係と、その信頼性がわかる。
おそらく、誰かが手を出せば全員が襲ってくることも、容易に想像できる。
『お前…こっち側にいたんだからわかるだろ。
あんまり俺等の構成員のことを悪く言わないほうがいい。
いつ暴れるか分からねぇぞ。』
『別に暴れてもらって構わないさ。
その時は交渉の決裂を意味するがね。
君たちはあの12代目に言われてるんだろう?
なのに俺を殺してもいいのかい?
それとも、まさか俺を降参させたり、無力化できるとでも思っているのか?
笑えるな。
…お前らは私の脅威にすらなれないって気づいてるはずだ。
悪いが、そんな腐った信念を持った連中にやられるような、やわな人生は歩んではないのでね。』
『忠告を無視した挙げ句、構成員のみならず親父まで馬鹿にしたのは、ひとまず許そう。
だが、お前はこれまでにやりすぎた。
裏に誰もいない状況で、お前の行動を隠してくれるやつなんていないんだ。
何かをすればすぐに問題になる。
お前は今、他の人間、才能のない人間より高いところにいるから感覚が狂っちまってんだ。
そこにいるお前が、これまでのことがバレたらすべて終わるんだ。
こっちに来ればすべてのことが秘密として永遠に全員の記憶からさっぱり消えてなくなる。
それで、静かに過ごすだけでいいじゃねえか。』
『あいにくながら、俺はこの国からしたら優秀な人材らしいからな。
もし、社会にバレちまっても、国がなんとかするだろうな。
なにせ、お前らとは違って、国から求められていて、国家の信用にも関わるからな。』
『…』
『というかなんだ、ひとまず許すって。
メンツの生き物はそんな軽々しく自分の長を馬鹿にされたことを許すのか?
それともなんだ、お前らはそんな寛大な心でも持ってんのか?
こんなことしてるくせに?』
─相手が完全に黙る。
今の私には理解できない次元の話…ただわかることは…
─押せ押せのはくもかっこいいってこと…!
─う''う''ん…真面目な話をすると、会話の内容は理解できなくとも、危険が迫っていることはわかる。
『もう言いたいことはないのか?なら帰ってくれ。
こんなことろで、クソ野郎と話してるより、気の合うクズ同士で話してるほうが楽しいだろ?』
『…』
『兄貴…すみません、限界です。』
『いや、構わない。俺も限界だ。』
『結局暴れるんだな。
まだ引き返せるぞ?今ならなんと無傷で。』
『…あんたは暴れすぎた。だが、その体も随分壊れてきてるんじゃないか?』
『はてさて何のことだかね。
そういうブラフってんなら、だいぶ間に合ってるな。』
平然と返しているようだが、この会話中で初めてはくから余裕がなくなった…気がした…
─やがてそこは3つの殺意が空気を揺らす。
本能的に、その殺気はそこら辺のチンピラのものなどではなく、明らかに…その道を進んだ人間のそれだ。
…それをわかってもなお…やはり私の足は動かない。
自分に何かが起こるわけでもないのに、金縛りが…
冷や汗が…愛した人…はくが傷ついてしまう…死んでしまうことがこんなにも恐ろしいことだとは思わなかった。
長く一緒にいたからわかる。はくは何も持っていない。
しかし、彼の正面には3人の武器を持った男…
あまり、助かる道が見えない。
だからこそ、無理だとわかっていても動き、助けに行きたい。
もし死ぬのなら、彼と共に…
唯一、私の認めた、世界一の存在だから。
私は望む。彼が生き残ることを。彼が戦わないことを。私が動いて彼を助けることを。
しかし、これはアニメのように叶わない。
依然として、私の足は動かないし、戦いの火蓋は切って落とされる。
今後のことも含め、自分の無力さに心から…心から…
真面目な雰囲気を醸し出す男はそっと腰からドスを、ほか2人はチャカを取り出す。
『…それ抜いたんならある程度の絶望は覚悟しろよ』
はくが…冷徹に、彼らの殺気を押し返すほどの殺気を押し付ける。
『黙れ…兄貴と親父をばかにするんじゃねぇ…』
ドスを持った男は非常に素早く、はくに接近する。
一瞬で懐を侵略したかと思うと、心臓を狙った突きと同時に2人から鉛玉が飛ぶ。
『てめぇはもう衰えたんだろ?ならさっさと身を引いてくださいよ!大先輩!』
その凶弾は、はくの上半身…両肩をそれぞれ正確狙っている。
そしてドス持ちの男は、最速の突き。
一般的には詰みと言われる状態だが、はくはひらりと体を回転させ、手慣れたかのように弾丸を避ける。
『…丸わかりだな。』
避けた勢いに乗り、突きをしてきた男の腕を脇で掴む。
『…速さは十分だが、動きがわかりやすいな。』
伸びきった腕の肘をはくが覆うと、関節の逆側に力を込める。
それをカバーするかのように男二人が反動に耐え、チャカを構えなおす。
『お前らは邪魔。』
目にも留まらぬ速さで、相手の懐からチャカを奪い取る。
早すぎる抜き撃ちと、正確すぎる2発の弾丸により、男二人の肩が鉛玉で弾け飛ぶ。
奪われた一瞬の隙でドスを反対の手に持ち替えた男がはくを刺そうとするが、見えてるであろうはくは、刺される直前に膝で蹴り飛ばす。
『ッ…!』
これでドスを持った男の両腕は完全にひしゃげた。
✽
同種族、同生物間の争いってもんは大抵、対等な戦いになるよう世界はできてるもんだ。
同じような人間同士なら、努力などで多少差がつこうが、あくまで多少だ。
しかし、これは基本的な話でのことだ。
この世界には努力では追いつけない次元…才能という極限の差がある。
人はそれを無慈悲だの何だの言うこともあるが、俺は才能を見つけるためだって他人より努力をした。つもりだ。
何倍も、何倍も。
その結果、得られたのがこの格差だ。
両肘関節が完全にやられ、流れのまま膝関節まで折られたドス持ち。
うつ伏せになりながらも、ナイフだけをしっかりと持った男の前に立ちふさがる。
奥には肩と腕を撃たれ、傷を押さえながらも銃をしっかりと持ち、俺のことを睨みつけている。
俺はこいつらを知っている。
特に、戦闘面に関しては俺に勝るものはいないと自負できるほどに、こいつらのことはよくわかる。
『うそ…だろ…』
『いくら衰えたってお前らには負けられねぇな』
『…はぁ…結局才能持ちには勝てねぇんだな。』
『才能を言い訳にするんじゃねえよ。
あんな設備が揃ってんだ。人生捧げるくらい努力すりゃあ、俺くらいなら追いつけるだろ。
お前らは十分に努力してねぇのに才能才能だの…文句ばっか言うんじゃねぇよ。』
『ハッ…、引退しても説教かい?ありがたいねぇ…』
『まだそんなこと言えるんならもう一箇所くらい折っといたほうが良いかよ?』
『そんな隙さらしたら後ろのやつがお前を撃ち殺すだろうよ。』
別に撃たれたって避けれるってことくらいは、こいつらもわかっているだろう。
『まあ、今はお前らを返すことが目的なんでな。
歩けねぇなら外道のお友達に連れて帰ってもらいな。
これは捨てとくぞ。』
ナイフを蹴り飛ばし、銃を持った男たち側に歩いていく。
…まぁ、でと言っては何だが、おまけで利き手の関節も折っとく。
『んじゃ、この差がわかったならもう来んじゃね─』
…ナイフの男がチャカを持ってるのに気づく。
なんともう一丁あったとは…ちょっと予想外。
さっき利き手を折ったおかげか、まだ撃ててはなくともその照準はさっきまで俺らがいた道の曲がり角に向いている。
…まさかな。
想定してなかった訳では無いが、流石に逃げているものだと思っていた。
今のやつは、おそらく痛みを与えても止まらない。
危害を加えたとしても、おそらく奴は撃ち切るだろう。
…こういう面倒くさいことばかり受け継がれる…
あいつなら撃つ。おそらく奴を蹴飛ばしたとしても、古波蔵にはしっかりと当たる。
『ハッ!油断すんな馬鹿野郎!
息の根止めてない相手に背を向けるとはなぁ!
やっぱ、衰えたかぁ!?』
そこから導き出される行動は
✽
運命の歯車は壊され続けたが、戦場を整えることには異常に優れるようになってしまった狛枝。
意味深な会話もほどほどに、戦闘は終幕へと近づく。
戦いを見とどける古波蔵。劇はフィナーレを迎えるも、本来は傍観するだけだったはずの彼女に凶弾が襲いかかるという、求められていないエンディングが訪れる。
次回 第7話 ─往時─
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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
戦闘回とか言っておきながらほとんど珀くんが無双してるだけでしたねw
こーゆー展開って好き嫌い分かれると思うんですけど、皆さんはどうですかね?
ぜひご意見聞かせてもらいたいです。
そうそう、別の話ですが題名の「戦役」というのは何やら過去の戦争的な意味があるらしいですね。
題名にもちょっと深い意味があったり?
というか、小説ってこんなペースで投稿していいのだろうか…
ここまで読んでいただきありがとうございました。