表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
周回少女  作者: i
第2章 ─上演─ <体育祭編>
20/24

第19話 ─思点─

前回のあらすじ


彼は自覚がないだろうし、周りもこれと言って覚えてないだろうが、彼の才能は「幸運」である。


爆破されるというのは、想像以外の被害をもたらした。

爆破だけだはない。というか、爆破の被害において人間への被害だけを考えるなら、爆破なんかよりそれによって破壊されるガラスやそれによって発生する火災のほうが被害が大きい。


世のものは大抵そうだ。それ自体の効果が小さくとも、それによって誘発される物事に多大なる価値や被害をもたらす。


何も災害だの犯行に限ったことではない。

もしかしたら、十分すぎるほどの被害が出ているとしても、次にそれ以上の被害が出ることもあるのかもしれない。


世のものとは異世界モノのような特殊能力もそうあるべきだろうし、少なくとも私の考えうる世界の摂理の一つはそれである。


…そんなものがない世界なんて、ただの創作物でしかない。

─────────────────────────


作品を開いていただきありがとうございます。iです。


前書きの前(?)に、私は前書きや後書きで無駄におしゃべりしてたりするので、前の話から見たほうがいいかもしれないです。


前話のわざわざ休みます報告をしたときレベルで遅くなってしまって申し訳ないです。学業やら青春やら恋やらに力を注いじゃってましたね…


それとは関係なしに、前にも何回か嘆いていた構成についてようやくしっかりと考えてたせいもありますね…wこの章の構成すらまだ考えきれてないんですよね…最後の展開は想像ついてるのに…


ですが、今ではそれもだいぶ落ち着いたので、今後は前くらいのペースで投稿できたらなと思ってます。


…まあ、そんな待ってくれてる人がいるとは思えないですけど、そういう人ができてくれるよう頑張ります。…今これを読んでるあなたでもいいんですよ?


それと少しだけ追記。Nolaって方でも投稿させてもらってます。

こっちと特に変わったことはないんですが、そっちでは私がもう一度目を通していますので、ミスだとかが少なめになって、より読みやすいかもしれないです。


それと、向こうの前後書きも基本は変わらないんですけど、こっちに比べてネタバレってわけじゃないですけど、後書きでこういう伏線を作ってるつもりでしたーみたいなことを話しています。(予定)


どっちでもいいですけど、好きなほうで読んでいただいて…


長くなりましたが、それではごゆっくりどうぞ…


『…んあー…うー…』






…眠い…


『眠い…』


…んー、どこだろここ。


『朝かな…夕方…?』


んー温かいお布団…いい匂い…


─スー


『んー…ここ…狛枝、いや珀君は、どこだろ。』


体痛いな…私の家じゃない、だけど…


─バッ



いや…まさかね…?


『いやいや…彼ならやりかねない…』


まさかね…うわ…二階建て。忘れかけてたのに。


小気味いい、ずっと繰り返させられる機械音が聞こえる。


ほんとに家にまで連れてこられてるのかなぁ、だといいんだけど。

もしかして珀君は…そういうこと…⁉


『ん?あぁ、おはよう。別にもうちょい寝てていいんだぞ?』


『流石に介抱までしてもらったのに、これ以上お世話になるのはね…

 それに、寮帰らなくちゃいけないし。』


『別に構わんよ。

 それにこっから学校までそこそこ遠いぞ。体きついだろ、ゆっくりしてけよ。

 

 あ、そうそう。机の飯、食べていいぞ。』


『それこそ申し訳ないよ…まぁ、体は痛いからちょっとお世話になろうかな。』


やっぱ珀君は私のことが…?んふふー…!愛妻弁当?みたいな…夫だけど。


『あいついなくて余ってんだよ。なんなら食ってほしいくらいだ。

 俺と食べ物のためにも頼む。』


はぁ…そうだ珀君には彼女がいる。


成績優秀、最高級の顔の可愛さ、唯一難ありだった性格も狛枝君と関わる中でだいぶ、というかかなり良くなった。結果としては、これまで以上に人を引き付ける存在となった。


彼には…古波蔵がいる。


『そこまで言うならまぁ…

 

 …ていうか何してるの。』


『何って裁縫に決まってんだろ。ミシン裁縫以外で使わんだろ。』


『そりゃわかるけど…なんで裁縫してるの。』


『んあ?あぁ、お前には話していいんだっけか。

 

 ほらあれだ、最近は服が破れるようないベントが多いからな。

 そのたび発注してたら学校側に怪しまれんだろ、自分である程度は直してるんだよ。』


『意外と女子力高いんだね…料理もできて。』


こんなお人好しで、優しくて、怖いところもあるけど果てしなく頼れる、かっこいい彼だからこそ、そんな彼女ともつり合い、惹かれているのだ。


私なんかとは釣り合うものじゃない。


『まぁな、俺のいたところじゃあ、何でも自分でできなきゃ死ぬんだよ。

 人間、死ぬ気になりゃあ、案外何でもできるんだわ。』


『そんなもんなのかなぁ…


 んー…!おいしい…!』


『ならよかった、食材も本望だろうな。』


見向きもされない私は…こいしちゃんに何一つ勝てない私は…


『ねぇ、狛枝君。家族の人は?お世話になったし、挨拶くらいはしたいんだけど…』


『なんだ?てか苗字呼びに戻ったんだな。

 珀のほうが言いやすいだろ、短いし。


 それと、家族はいない。物心ついたころには例の組織にいたからな。

 顔も名も知らん。』


『え、あぁ…ごめんね。無神経だったね…いやほんとごめんね、わざわざあの話までしてくれたのに…』


『別に構わねぇよ、慣れた、というか古波蔵にも最近聞かれたからな。

 あいつ…遠慮することもなく、聞いた後も謝りもしなかったけどな。』


『それは…まぁ、狛枝君をまた傷つけた私が言うのもあれだけど、だいぶひどいね…』


『ほんとそうだよな、そういう常識のある所は、お前は自信もっていいと思うんだがな。

 でもちと謝りすぎだ、って言っただろ?堅苦しいのはなしだ。

 

 それと呼び方結局変わらんのな。』


『そこはいいでしょ…私は狛枝君のほうが語呂的に言いやすいからさ。


 って、じゃなくて…そのまぁ、ごめんね。

 その…どうせなら吹っ切れて聞くんだけどさ、いや嫌なら答えなくていいんだけどさ。

 

 …なんでこいしちゃんと付き合ってるの?』


『こいしは下の名前でちゃんなのな、いいけど。

 

 まぁ、あれだ。お前に教えたやつを、こいしには意図せずバレたって感じだ。

 それを脅しの材料に、って感じだ。』


『…予想はできてたけど、そんな感じなんだね…

 

 ってことはさ、狛枝君はその脅しのために付き合ってるの?

 そこに狛枝君の愛はあるの?こいしちゃんのこと好きなの?』


『はは、広告みたいな文言で痛いところ突いてくるな…

 

 …正直なところな、今の俺もわかんねぇ。ってか、今探してるって感じだ。

 ま、こんなくそ野郎だから、なんであいつが惹かれてんのかもわかんねぇんだ。

 それも同時に探ししてるって感じだ。


 知ってのとおり、お前の思うほどできた人間じゃない。

 悪いが、そういうことはほんとわかんねんだ。とことんそぎ落とされてきたからな。』


『そ、そっか…なんかごめんね。』


『別にいい。俺から言い始めたことだし、もう慣れた。

 

 ってか、お前風呂はどうする?入っても構わんぞ、服はこっちのでよければあるからな。

 安心しろ、俺が着てないやつだ。』


『そこは何でもいいんだけど、ここから学校ってどのくらい?』


『だいたい4,5キロくらいだ。歩いたらだいたい一時間くらい。

 電車は一応あるが使うと遅くなるし、バスもタクシーもない。

 申し訳ないとは思うが、こういうやつに拾われたってことで、好きに恨んでくれ。』


『あなたそんな距離毎日歩いてるの⁉ばっかじゃないの⁉』


『まぁ…そこは鍛えてたしな。今はもう意味はない、って思ってたんだがな…

 意外なことに、この身柄でも面倒ごとに巻き込まれるんだな、これが。

 

 はぁ、そういう星に生まれたんかねぇ…』


『た、大変そうだね…』


なんだか、この世界は残酷だ。

彼女だって私だって、元の状況は何ら変わりないはずなのに、どうして彼女はあらゆるものを手に入れ、私はそのすべてを失い絶望しなければならないのだ。


わかっている。それが人生というもので、運命というもので、運なのだ。


わかってる。知っている。見ている。体験している。けれど…納得したくない。この世界を。

まるでだけかのためだけに作られてあような、日陰者に光の当たらないこの世界を。


…どうして?あの日心に誓っただろう。私は物語を作るのだと。

私ではない誰かのために、知らず知らずのうちに利用されて終わるのだ。

なら…そんな悲観的なことを考えずに、知らぬものは知らぬもののまま終わったほうがましではないか。


変な思考はしない、しかし考え続ける。思い出には残らない、しかし存在する。

そんなのでよかった。私は、普通になりたかった。

とってつけたような個性なんていらなかった。


周りと同じでありたかった。少し個性の強い仲間と、そうでない人で集まり、楽しく話せるだけでよかった。特別扱いをされ、変に持ち上げられてはその土俵で比べられる。


うんざりだ。


誰がここにいることを望んだ?誰だってここにいることを望まない。


そういう世界だ。


『なーに考え事してんだよ、ぶつぶつうるせぇ。』


『え、あぁ…ごめんね。気づかなくて…』


『別にいいけどよ、言いたきゃ言えよ。話くらいなら聞いてやる。

 仮にも相方なんだからな、陰で勝手に病まれても困る。』


嬉しい言葉と違って、背中を向けたまま手作業。

いつも彼は何を考えてるかわからない。


『んぁ…あ、ありがとうね。』


何を考えているかわからない彼になぜ私は惚れたのだろうか。

私は彼からの情報だけで彼を知った気になっている。私から知るべきだろう、少なくとも私は知りたい。

彼はどうかなんて、どうでもいい。この段階で、彼が嫌でなければどうだっていい。


『…あのさ、愚痴じゃないんだけどさ、ずっと思っててさ。

 

 …いや、なんでもない。やっぱごめんね。先お風呂入らせてもらっていいかな。』


『あぁ…別にいい。服はお前の寝てた部屋の隣にある部屋からなら何を取ってくれても構わない。

 できればそれ以外の部屋は見ないでおいてくれ。』


きっと彼は何かを察しているのだろう、気を使わせてしまう。

それが恥ずかしくて、言い出せない自分が情けなくて…大好きな彼にそっけない態度を…


『はぁ…今のJKってのは全員隠し事したがるのかねぇ…

 別に言わなくてもいいけどよ、言い時を間違えんなよ。

 誰だって、いつまでいるかなんてわかんねんだ。』


『…そうだね、よく知ってるよ。それじゃ、行ってくるね。』


何私は気遣っていたのだろう。遠慮なんかする必要はない。どうぜ…

…どうせ彼には何もかも見破られてしまっている。


なら…これまでの私でいよう。そうだ、こんな乗っ取られたような思考なんて、私どころか人間にあったものではない。


思考なんてもともと見たもの聞いたものを整理するだけなのだ。私が無駄に頑張って考えたって仕方ない。そう、思考は元来─


違う違う、今は服を取りに行くんだ。



針の向こうにはまだいくつも広がる穴穴穴。


だいぶん頑張ったつもり、というか普段なら終わってるくらいにはやっていたが…

まぁ死にかけた攻撃は伊達じゃないってことだな。


『我ながらほんとよく生きてるよな。』


軽く体をさすりながらそれっぽく呟く。


─半分くらい死んでるんだけどな。


仁南も行ったことだし、休憩がてら調べ物にいこう。いつの時代も情報は強い。

相手を知るとは戦で勝つなんたらこうたら、とも言うわけだし。


悲鳴を上げる腰を無視しつつ、裏口から外へと出る。

人気のない道、世話になり世話をする施設を超え、少し歩いただけなのに広がるは路地裏。


普通に見えるここは、今の私でも想像できないほどに複雑。同じ景色はおろか、気づけば屋上にいるなんてことはざらにある。しかしなぜだか目的地には必ず着く。

心の赴くままに進み、曲がり、時には落ちればすぐだ。

こういう科学で解明されていないことを、霊的ななにかというのだろうが知ったことではない。


情報と格闘の中で戦うものからしてみればこれ以上ないほどに有意義な場所だが、一つ面白い話がある。


こんな場所があれば、インフルエンサーだのなんだのが来ると思われがちだが、そんなことはこれまでに一度もない。


もちろん裏路地でお話するような奴はSNSなんてもんに手は出さないうえ、この場所のことを誰かに伝えれば、そいつと伝えられた奴は次に路地裏に来た時には帰れないらしい。


意味不明だが、おそらくなにかから「目的地のない人間」と判断されるのだろう。


ここは俺らのような頭の悪い人間にとって最高の場所であり、頭の悪い人間にとって最悪の場所だ。



…こういうことでも考えてないと、今の俺はすべてを見失ってしまう気がする。





着いた。


目印もナビも何もあるわけではないが、この道はなぜか理解させる。

曲がり角の先に、いると。


『久しぶりに会うだけでこんなにかける言葉が見つからないものなのだな。


 お前さんから今になって連絡が来るなんて驚いたが…ひとまずは数年ぶりの再会を喜んでおこう。』


角から音とともに、黒コートの男が出てくる。

まさに、the 裏社会の人間といったその風貌とは裏腹に、髪は何とも綺麗な白髪。

しかし実際はそうではない。それ何に金はあるにもかかわらず、上着の下は装飾品もない、なんとも貧相な男。

手に持つ葉巻がなんともな雰囲気を作る。


『んまぁ…そうですね。

 

 できればもう会いたくはなかったですが、おかげさまで生きてます。』


『俺らはいつでもお前を歓迎してるんだがな?…って体は、まぁ案の定って感じか。

 こっちもいろいろやってんだがな、やっぱどっかからか広まるもんなんだなと。』


『頼んでないのにほんと申し訳ない。あと少しで終わるはずなので…頼みます。』


『別にいいけどよ、お前あの名門校に入ったんだろ?もう俺に聞くことなんてないんじゃねぇの。

 昔話したいなら別にいいけどよ。』


『聞きたいことは連絡してある通りです。

 正直なところ、少し油断してました。私がいたころなんてそんなに彼らにヘイトがあるわけじゃなかったですし、それこそまさか無差別テロを起こすような奴らなんて、皆目見当もつかなかったもので。』


『それに関してだがな、お前が気負う必要はないんだが、やはりお前の影響も少なからずある。

 もともと彼らの憧れであり象徴であったお前がこんなエリート街道に乗ったんだ、しかたねぇ。』


『それは…あなた方にも申し訳ないと思っています。協力したいとも思っています。

 ですけど、今の私は一学生なんです。私にかかる火の粉だけで勘弁していただきたい。』


『こっちから言おうとしてたことそんままだ。そもそも若いお前に重荷を背負わせすぎた。

 そういう責任を取るのは大人の役目だ、任せてとは言えないが少しは安心してもら居たい。


 ひとまず本題だ。あの爆破事件は、犯行声明と同じく、K&Dという極左組織によるものだ。


 トップはクラウンと名乗るやつで、本名も経歴も不明。年齢は正確ではないが、お前と同じくらい。

 だが昔からこっちの世界にいる。覚えたマジックで才能力が発現。内容はわからん。

 最近は、若きながらもすぐに名をあげた、まぁ天才って言われてるやつだ。

 

 そして案の定予想通りで、そいつらは無差別テロを計画し実行したうえ、今後の計画もある。

 お前がいなくなってから組織化したところを片っ端から制圧していったせいで、人員も土地もある。

 武器の密輸だって、爆弾を作るための場所もバレねぇための工作だって、なんだってできる。

 

 今ではそこそこの幹部も集まって、ただのガキの集まりではなくなった。

 それと、まぁ…お前は聞きたかないだろうが、一応最強とは言われてる。』


『了解しました。その爆弾作ってる場所とか、幹部の情報とかありますか?』


『もぉちろんだぜぇ?久々の旦那の指名だ。気合も入るってもんだ。

 ほら、さっき話したことも含めてこれに書いてある。

 やっぱ、これくらは言葉で言いたくてな。情報屋の性ってやつだ。』


薄い教科書レベルのあつい報告書のような書類。

本当にこの人は…


『ありがとうございます。』


ぺらぺらと軽くめくってみても、中途半端に思い出すだけだ。


『若い才能力保持者から、ベテランの剣豪なんかまで集まった、なんともな組織だ。

 幹部の層はそこまで厚いわけじゃないが、結構きついらしいぞ。』


『今のところはやりあう気はないんですけど。


 それとこれも送った通りなんですけど、N.T.G.について。』


『あぁ、そうだな。そっちにもちょくちょく書いてあるが…

 簡単に言えばここら辺の利権をK&Dと取り合ってる組織だ。


 K&Dはまぁ、一応無差別がモットーだがな、こっちは才能保持者が対象だ。』


『なぜです?って聞くのはさすがにやめておきます。

 さすがに離れてたってそれくらはわかります。

 やっぱり格差、ですよね。』


『いいねぇ…初めての指名で全部カンで情報を言い当てられた時を思い出したよ。


 とまあ、そのとおりでな。昔のお前も、今のお前のことも知ってる。

 善悪は置いておくとして、大量殺人気が社会で見本にされるような存在になるなんて…

 命かけてる側からすれば許せんよなぁ…』


『…本当に迷惑をかけたと思ってます…』


『別に責める気はなかったんだがな。


 って言ってもなかなかややこしくてだな、N.T.G.のトップは別に裏社会出身でねぇんだ。

 最近参入してきたやつで、才能力もあるらしいが、そもそも戦うことをよしとしてないらしくてな。

 戦闘で使えるようなもんじゃないって可能性はあるが、ようわからん。


 入ってくる前はまっとうな人生を歩んでる。

 才能保持者となんかあったのかもしれねぇが、昔のことで情報もあんまないし…

 もとはといえばただの一般人だ、情報なんて見つかるもんじゃない。』


『あなたがそう言うなら信用せざるを得ないでしょう。

 

 で、そんなトップでとても私が勝てないような組織とやりあえるとは思えないんですが。』


『全部言われちまうな、そっちのほうが話しやすくて助かるんだが。


 んで、そのカラクリだが、なにやら人望が厚いらしい。』


『…そんなことでやりあえるような世界じゃないと思うんですけど。

 私が居たころよりマシになったんですか、こっちの世界は。』


少しだけ気になってしまった。私が居たころは聞いたこともなかったから。


『別に今も昔も強えやつがいて、いつも大波乱が起きることには変わりねぇなぁ


 ただまぁ…お前がいなくなったことで、ある程度上限が下がりはしたな。

 強すぎた、というか一人だけ格上過ぎたんだよ。

 

 前まで若い才能力保持者にベテランとかがどう戦うかみたいな環境だったのによ…

 今では才能力保持者の中でも上下ができるなんて…俺みたいな持ってないやつはこうなるんだよ。』


『あなたを悪く言ったわけじゃない。

 そういった立場も必要だと思いますよ、現に今私はとても助かっています。』


『そうなんかねぇ…


 とまぁ、ここまでいろいろ言ってきたが、どうだ?』


『十分すぎるくらいです。改めて、あなたに依頼してよかったです。

 懐かしいですね、あそこに送っときます。』


『…本来ならなこれで解散なんだが、まぁ昔のよしみだ。ちょっと話してこうぜ。

 どうせ暇だろ?』


『別にいいですけど、いい話ができるとは思いません。』


『はは、その通りだ。


 お前は良くも悪くもこっちのアイドル的存在だった。

 憧れの対象であり、誰もが目標として掲げ、死ぬ覚悟を持ってまで挑戦するやつがいるくらいだ。

 んまぁ、そこはお前が外道以外は殺さないなんて生易しいこと言ってるからなんだろうけど…

 

 ただ同じ外れた道の大先輩ってことで憧れてるやつもいるが、全員がそうなわけじゃない。

 もとからお前のkとをいいように思ってないやつもいる。


 そしてさらに、今回お前がこんな公然に出たことを、いいように思うやつはいない。

 良くも悪くもダークヒーロー的存在だったお前の損失は想像以上の損失と破壊を招いている。

 

 最強がいなくなれば当然、その空いた席をめぐって争う者もいる。

 

 憧れを失い、いるはずもないのに裏社会中を探し回る者もいる。


 

 誰でもよかったわけじゃない。

 圧倒的で、誰から見ても恰好がよくて…

 異色の経歴を持ちながらも人格者であったお前でないとこうはならないかった。』


『迷惑をかけているのは…ほんとにそうです。申し訳ない。』


わかってる。求められてる回答なんかじゃない。

ただ、それでも、もう子供ではいられないのだ。


『…何度も言ってるが、責任を負ってほしいわけじゃない。

 ただ、お前に理解してもらいたい。


 誰ももとから強くなんてないんだ。それはお前もそうだってみんな知ってる。

 だから、皆と同じ環境で育ち最強になったお前に憧れるんだ。


 どんな悪名高いやつからでも、どんな卑怯な奴からでも挑戦を受け入れて、その全部に勝って、

 そのくせ殺しなんかせず、ただ正しい道へと矯正しようとするお前に。

 本当に悪いやつらしか殺さないなんていう、こっちでは夢物語だったことを実現させたお前に。

 弱いやつにも変わらず接して、みんな平等に生きるべきだ何とか言って戦い方を教えるお前に。

 

 みんな憧れてたんだよ。


 こっちのみんなは、そう簡単に足を洗えないんだ。

 一度犯した罪は社会では裁かれるまで、心では一生背負うんだ。

 誰よりも重い業を背負って、だからこそ、それを次の世界へと更生させてつなぐために誰よりも

 努力してたお前に、気づかず声に出してないだけで。

 

 みんな憧れてたんだよ。


 

 今話してて分かった。お前はもう人間的にも俺より出来上がってる。

 

 だから、お前を失った損害はその憧れくらいには大きい。

 こっちの人間を簡単に無気力にできるくらいには。


 …つまり俺が言いたいのはな、もうこんなところ来るな。

 いつだれが襲ってくるかなんてわかったもんじゃない。


 ほかのやつらは知らねぇけどよ、少なくとも俺はお前に生きててほしい。

 いいやつが死んでいいことなんてない。』


『…ほんとお人好しですね。私は簡単には死にませんし、死ぬってわかったら一矢報いますし。

 こんな体でも精神は昔のままです。』


『はぁ…そういうことじゃなくてな─


手に持たれたたばこの火が消し飛んだ。


反応した私は躱した低姿勢のまま手を伸ばす。


後ろ。


振り向きざまに適当な瓦礫をつかみ投げる。


目視しながら一歩踏み出す。瓦礫はすべて外されたが、本命は近接。

長引くと体が危ない。一瞬で決める。


『…!?』


踏み出した左足に力が入らない。

ただの木の棒のように不安定なそれは、体重をそのまま重力に乗せる。


グラっと傾いたまま見た景色には長ドスを持った男。

しっかり見えているようで倒れる俺の体のどてっぱらに見事当たる軌道。


避けれない。反撃もできない。ずらすことさえ…


そのまま─


二度目のたばこの火が消し飛ぶ音。


相手がはじけ飛んだ。


私はそのまま手をつき、四つん這いになる。


『っつはぁ…噂をすればなんとやらだな…』


『…ほんと…面目ない…』


それっぽく手を握って、広げて。


『おま…実はかなりやばいだろ。

 体重かけるだけでダメとか…死にかけもいいところだぞ…ほんと…

 

 あー…緊張したぜクソったれ…』


『人格者としても…戦闘者としても…もう完全に負けてしまってますね…』


『あんな話してすぐに死ぬとか笑えないからな…まったく…』


『いや…ほんと…かたじけない…』


『バリュエーションがありゃいいわけじゃないんだぞ…まったく…

 

 そんなんて情報手に入れてどうすんだよ、無理するなんてもんじゃないぞ。

 お前に言うなんて信じられないが、戦いにすらならん。』


『いや…もう少しだけ…時間を下さい。あと少し…少し…』


『それ数年前にも聞いたぞ。

 あと、どうせお前のことだから、あいつに頼んで薬とか頼むんだろ。

 どうせ止まんねぇから長々言わねぇけどよ…いや、意味ないのに言う必要なんてあるのか?』


『は、はは…やっぱ時々落ち着くというか、思い出しますよね。

 ついでにあの人のも。』


『まぁそうだなぁ…

 やっぱ、こっちでも俺らみたいのしかまともに死ねねぇのかなって。

 いい人バッカ理不尽だよな。』


あの人。

私の母の次に命を与え、私の母より母であるあの人。


言葉にして羅列すると、入学式の祝辞くらいには長くなるほど、人としてできすぎた人だったあの人。

夢の中で私を心の底から惑わし、私をおとうさんと呼んだあの人。

真実を求めただけの私を、少しの自由を求めた私を、奇しくもこの世界の縛り付けたあの人。


別に恨んではない。ただ思い出しもしない。

…本人はそうではないのかもしれない。


ただ…


『まさにその人なんですけど、前に寝てる時にあったんですよ。夢の中ですけど。』


『寝てるってか…昏睡状態だろ、それ。』


『そこでなんというか…過去と未来の狭間みたいなところにいたんですよ。

 そこは、暗くて…どこかへ行きたくなるような場所でした。


 前には明るい楽しいあの場所、後ろには暗くて、暗くて何も見えない場所。

 それに、後ろは見るだけで苦しくて、まるで空間に行くことを阻まれているような気分でした。』


『で、どうせ話のオチはどうせ、なんやかんやで未来に進みましたーって話だろ?

 そんなわかりきった話してどうすんだよ。』


『あなた…失礼ですけど、話聞くのだけは下手ですよね。

 まぁ、その通りなんですけど…

 

 あの人、ずっと私を引き止めるように呼んできたんですよ。「おとーさーん」って。

 そのせいで最後の最後まで悩みに悩んでここにいるんですけど。


 私が未来を選んで進もうとしても、ずっと呼び止めてきたんですよ。

 あの人がずっと言ってたみたいに、忘れられて死ぬのが嫌だったんでしょうね。

 でも最後、私が一歩踏み出せないでいると、あの人が少し後押ししてくれた気がするんですよ。


 答えなんてないってわかってるんですけど、あの人は…何て言いたかったんですかね。』


『お前に限って本当に答えのないこと言うんだな。


 んまぁ…わかんねぇけどよ、俺が思うに別に深く考えてないと思うぞ。

 お前が勝手に忘れようとして、思い出して…ってやってるだけだろ。

 あの人、言っちゃ悪いが相当馬鹿なお人好しだろ?自覚がないところも含めてだが。


 だからやっぱり、困ってたお前を深い意味なしに助けたくらいなんでねぇの?』


『やっぱそんなもんですよね。

 やっぱ…』


違う気がする。


単に勘違いなのかもしれないが、あの人は…きっと頭がいい…と思いたい。

あの人は…確証みじんもないが、あの人を少しだけそうだと信じたい。


なんでこんなことを聞いたのかはわからない。

別に意見が欲しかったわけじゃない。答えも同様にだ。


ただ…ほかの人に共有したかっただけ…?この私が…?


『んまぁ…それだって強いて言うならってだけだからな?実際はわからん。


 やっぱ一番でけぇのはお前がずっと変に抱えてるだけだろ。』


『やっぱそんなものですよね。

 すみません、変な話して。』


変に心地いいような、何も解決していない中にある、果てしない疑問への好奇心が少しだけくすぐられる。


『あとはまぁ…そうだな。』


てっきり解散だと思っていた。


『お前は「おとうさん」だもんな?』


にやにやした顔でまた言われた。


なんだか…少しだけ思い出してきた。前言われた時は確か街中で…


『町の人がみんな知る、立派おとーさんだもんなぁ?』


…恨んでないとは言ったが、公衆の面前の前で私のことをおとうさんと呼び、少ない町の人々の多くに私が手を出したかのように言いふらし、勘違いさせたことは…少しだけ恨んでいる。

情報はいつの時代も強力な兵器である。


普通のものであれば、価値というものは希少性で決まる。どんなものでも数が少なければ価値が上がる。

何か莫大な欠点がない限りは。


しかし、情報はそんなことはないと思う。

皆が知っている常識も、まるで別の視点からの話をするだけで人を魅了し、心理学だのなんだのと謳い文句を言わないだけでそれっぽく聞こえることは多々ある。


皆頭の中ではわかっていて、それを言語化できていないだけである。

それを誰かに指摘してもらい、掘り起こすようにされるから、へぇとなった気持ちになるだけ。


それ以外で希少性の高い情報といえば、誰か、何か、どこかの秘密程度である。

そんなことを知ったとて自分では何もできずに終わるのが関の山だ。


そんなもんで、情報の希少性による価値はほぼないといえる。


ならもし、君が情報を知りたがる好奇心があったりだとか、情報を知って何かを変える力があるとすれば、大抵は何かしらの条件、概ね大金が必要だ。


誰も豆知識なんかに金は出さない。


もし大金をはたいて情報を手に入れたとして、君はどうする?


少ない情報の希少性による価値を自らなくすような愚行は議題にもしないとして、君はどうする?

何かを変えたとて、その証明には価値をなくすしかない。


そもそも情報元はどうだろう?


大金はたいたから、信頼できるから、人工知能だから、そんなことでは正しいことを証明できない。

間違っていることもだ。情報の真偽は、実際に見ることできない、悪魔の証明。


はぁ…私のよくないところは長々と話すことと、よく陰口を叩くところだ。


情報は何もかもを惑わす。

どうやって入手したとしても間違ってた場合、その入手の過程にあるすべては崩壊する。

金も、友情も。


それを広めたりしてみろ。ろくなことにならない。


…だから情報は嫌いなんだ。


           次回 第20話 ─昏迷─


─────────────────────────

第19話 ─思点─


意味は『思想や考えの根本の視点や状況のこと』。(造語です)


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


ここでは、前書きみたいな独り言や、ちょっとした裏話だとか、そんな感じのことを適当に書いています。

興味がなければ読んでいただなくても結構です。


いやまぁ…前書きでも書いたんですけど、ほんと久しぶりすぎて…何を書けばいいんだか…

って思って過去のやつ見返したら、ろくなこと書いてませんでしたねw


いいわけじゃないんですけど、こんな長く休んでたのは、新しい生活がやっぱり忙しくてですねぇ…

大層な脳を持ってるわけじゃないのでほんと不器用に頑張るしかないので、時間がないんですわ…

…いいわけですねw


ともかく!待ってる人がいたらすみません!

って待ってる人なんていないんだから、謝らなくてもいいんじゃない…?なんて思ってみたり。


それと、これまた前書きに書いてあるんですけど、Nolaって方で出すやつは、一回書いたやつを私がもう一回目を通して、直したりだとかちょこっと変更したりだとかしたやつなんですけども…


ちょっとひどすぎません?昔の私…

だいぶ気を付けてるつもりだったんですけどね、やっぱ絶望的に誤字が多い…


修正だけなんでそこまで時間がかかるわけじゃないですし、休みの間にこの章の酵素くらいは固められたので、今後はすいすい投稿できちゃったりして…⁉


…わかんないです。できるだけ頑張ります。


というか!もともとこれって私が趣味で書きたいときに書くってだけなんでそこまで頑張らなくてもいいのでは…?


ここまで読んでいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ