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周回少女  作者: i
第2章 ─上演─ <体育祭編>
19/24

第18話 ─志士─

前回のあらすじ


練習、特別な異性からの告白、みな彼女にとって落ち着けるものではなかった。

みんなで一緒に仲良く青春、そんな漫画のような展開で終わるはずもなく、不安とはまた違った言い表せないような風がほほをすり抜ける。


逃げる風を無理に追いかける必要はない。むしろ、無駄に食いつくとろくなことにならない。


ただ、そんなことに首を突っ込まなければ、だれがその突風に無理やり噛みつかれた人を救えるといえるのだろうか。

─────────────────────────


作品を開いていただきありがとうございます。iです。


前書きの前(?)に、私は前書きや後書きで無駄におしゃべりしてたりするので、前の話から見たほうがいいかもしれないです。


無 事 復 活 

っていえるほど体調がいいわけではないんですけど、まあとりあえず帰ってきました。


別に待っているそこまでいるとか思ってないんですけど、一応…ね?


休んでる間は開いてすらなかったんですけど、見てみたら以外にも見てくれてる人がいてうれし…

承認欲求が満たされましたねぇ。


特に投稿日とか頻度とか決めるの嫌いなので、予定表みたいなものは今後もないんですけど、そこそこのペースで投稿していきたいと思ってるので…

今後ともよろしくお願いします。


それではごゆっくりどうぞ…

日が沈み、美しい夕焼けが映る空にはとても似つかわないその音は、俺の記憶が再び呼び起こされる。


見なくてもわかる。仁南のおびえる気配。


『何もするな、ここか店の中にいろ。』


貸しばかり作って申し訳ないが、今はこれでいい。



仁南が入ったことすらも確認せず、音の方へと走っていく。


その気配は留まったまま。耳が麻痺したか、動けていないのか。

どちらでも構わない。最悪の状況を避けるためには、優先順位をつけざるをえない。


まさかな、そうだ。ここは市街地のすぐ近く。

一般人もいる。あり得るわけがない。





遠くはなかった。店の路地を抜け、大通りに出る。


『は?』



凄惨、といえば簡単に片付くだろう。


本来人で賑わっていたであろうその道。


しかし今では渦巻く炎、血をしとど流し倒れる人々。


それらで埋め尽くされたこの道は、心の底から絶望が味わされる。

爆弾なんてこれまで死ぬほど見てきたが、このレベルの無差別攻撃。


周りを見渡しても、まるで戦争が起こったかのような地獄絵図。


言葉を綴っていれば、いつまでたっても終わりが見えない。動け。



ひとまず近くの人から。


『あ…あぁ…─』


近づくだけで、濃密な血の味を思い出す。


体には無数のガラス片が刺さっている。

傷口は流れすぎている血で見えない。

しかし脇腹に刺さるそれは、深すぎると理解させる。


ただのガラスと侮ることなかれ。

爆弾レベルの爆風で飛ぶガラスは、もはや兵器と言っていい。


『静かにしろ。今助けを呼ぶ。』


慣れない手つきで救急車を呼ぶ。


話しながらも手は止めない。血が流れすぎている。

内臓の損傷など以前に、到着までに失血死する。


伝え終わり、止血も済んだうえで再度周りを見渡す。


1人手当てするにも時間がかかりすぎる。

目の前には数百人の、血の縁をさまよう無実の人々。


『クソが…』


二発目の危険性もある。全員助けるのは不可能。


なら、助けられる命を絶対に助ける。



幸い、ここから店は近い。1人担いで運べるくらいの距離だ。



1人目を店の前に置く。わざわざ仲間で挿れる必要はないだろう。


あとは止血布がなくなるまで繰り返すだけ。



また戦場に戻る。…いくらなんでも多すぎる。

どうしようもない。


『大丈夫だ、喋るな。すぐに助けが来る。』


だが、救える命を見捨てるわけにはいかない。

罪滅ぼしのようなものだろうか。


きらびやかな制服が次々と赤黒く染まり、手についた血も乾いてきた頃。


店前には十数人。止血布もほぼない。


─ウー、ウー、ウー、ウー、


救急車と消防車…まだ間に合う。間に合わせる。


『大丈夫です!助かりますから!』


俺が運び、戻る頃にはもう救助活動が始まっていた。


一応、深い人や動脈が切れているであろう人から優先的に救助したつもりだ。


…だが、いくらなんでもだ。数には及ばない。

結果としては、死屍累々なことには依然変わりない。


─まだだ。救える命を見捨てるわけにはいかない。



救助隊とは違う方向に、オンボロな体で死力を尽くし探し始める。


まだ息のある女の子。足は深くまで刺さっているが、他には外傷は見られない。


『大丈夫だよ、救急車さんがもう来た。』


最大限安心させる。毎度のことだが、犯人への怒りで止血布をきつく締める。


彼女を運び出す。


『ママぁ…痛いよ…ママぁ…』


指さす彼女の先には、まだ息のある成人した女性。


この子を守るためだろう、庇うようにしてできた背中の傷は、あまりにも深い。


しかし逆に、地面からの跳ね返りはこの子によって、皮肉にも防がれたのだろう。


『ママぁ…ママぁ…』


しかし彼女を助けていれば、この子の命はまずない。

女性ほど深くないとは言え、小さな体には大きすぎる負荷。


『くそが…』


悩む暇はない。即座に判断し、抱えた子を救急車まで連れて行く。


『ママ!やだやだやだ!ママぁ、ママぁ!!』


『っ……!』


小さな意思を無視しなければならない。そう…これが最大限なのだ。


『まだ息があります。血は止めてます。』


『わかった!君も無理はしないでくれ!』


まだ…まだ助けられる─まだ…


─ウー、ウー、ウー、ウー


追加の救助隊。どうやら、俺が走り回る時間はここまでのようだ。


最後に見せ前の人たちを渡しても、俺がこっちでできることは…うん、もうない。


─戻ろう。


…どこを見ても、誰も彼も、止血したと思われた患部から血をしとどに流している。


のんびりしている暇はない。俺が助けた人たちを病院に届けなければならない。


2発目がどうとか言ったが、救護隊が来たなら大丈夫だろ。もう四の五の言ってられない。

あったとしても、運ばれた人らは爆死、ここの人らは失血死。考えるのは無駄だ、ひたすら運べ。


我ながら本当にここまでよくやったと思う。それのせいで自分の首が絞められてるのだが。


出血量と人数から思うに、1人づつ運んでいると後半に運ぶ人は死ぬ恐れがある。


思い立ったら行動だ。


とりあえず二人─うお…


『くっそ…最高にイラつくなこの状況…』


100kg程度のおもりを持ちながら、数100m歩くなんて、冷静に考えればバカバカしい。


自分が勝手に助けた命だ、最後まで守り切るのが義理というもの。


『おっ…しゃぁ…もうすぐ着くからぁ゙、な?

 もうちょい…んっ、頑張れ』


両肩にぶら下がる、聞こえてるかどうかも分からない

2人に声をかける。

─聞こえてないならなんで声をかけたんだ?


ところどころ、自身に負荷をかけながら改めて現場を見直す。



炎がなんだのと言ったが、結局炎は建物を強火で燃やすだけで、道路まで調理することにならなくて良かった、と今更思う。



被害が大きいのはガラス片の方だ。


耐震性に関しては、他の国々と比べ明らかにレベルの違うこの国。

それであるはずだが、ほぼすべてのガラスが割れていることから、爆発の威力及び悲惨さを物語っている。


普通の住宅街なら、ガラスに関する被害だけを見ればもう少し小さかったのだろう。(それ以外は見ない)


しかし、ここはでかい道路も通っている大通り。

そこに加えて、妙に発展してるせいで高らかに掲げられたビルなんざあるせいで、被害は拡大する一方で会ったのだろう。


───


『これで、っとぉ。私が処置したのは全員です。

 あとはお願いします。』


『あ、あぁ…君は本当に優秀だな…我々から見ても相当に腕がいい。

 何者だ、と聞くのは野暮かもしれないな、時間もないし。


 とにかく、協力感謝する。君も気をつけてくれ。』


上空から中継をするプロペラに紛れて、何かが聞こえた気がする。


重荷がなくなったはずの体は、依然として重い。

本来全身弾け飛ぶはずのところをここまでに抑えた。当然対価つきまとい、永久に私を苦しめる。


これまではなんとかなっていたが、ここまでの負荷がかかるとなると、裂傷した部位が痛む。



しかし、今は私を待つ人がいる。


変な意味でなく、ただ私を心配し、見返りを求めずに関わってくれる、そんな人が待っていてくれているのなら、自分の我儘で待たせるわけにはいかない。


『はぁぁぁー、明日は筋肉痛確定だな…』


くだらない独り言。そうでもしなければ、あまりにも過酷すぎる。

比喩などではなく、本当に足を引きずりながら歩く。



なんとか裏路地に着く。


見慣れた店が見える。


─仁南の姿は見えない。言うことを聞くいい子だ。


『は、はぁ…ぁぁ…』


呼吸が意思に背き途切れる。


視界がぼやける。


長々と思考できる余裕もなくなる。


店まであと10m。


最後だ…ドアノブを…回すだ、け─




子供の頃、私は探偵に憧れていた。

子供の頃、私は病弱で、外に出かけられなかった。


シャーロック・ホームズやら何やらの探偵物語にのめり込んでいた。


いつも様々な物事を探し出したがっていた。



ともかく、父は家の外に植木鉢を並べて、それがいつもひっくり返させる理由を突き止められなかった。


あれが探偵趣味に没頭していた時期のピークだったはずの私は、無我夢中でその事件に食らいついた。


馬鹿な子供だった。

実際には何一つ推理できず、最終的に安物のスパイカメラを買って一晩中録画した。


野良猫だった。父はとうとう蹴り殺してしまった。

あの人はきっとそうすると、私はわかっているべきだった。


好奇心は…まぁ、有名な(ことわざ)だ。


私が首を突っ込まなければ、誰も損せずに終わったはずだ。

父は別だろうが、あんな人はどうでもいい。





今まで生きてきてようやく悟った。私は探偵になんかなれるような人間ではない。


学校から"それ"を貰ったときに、諦めをつけたはずの

ただの才能保持者だ。


他人の物語に出演するだけだ。そして、人類全体が私と同じ立場にいる。


誰が犯人かも犯行手段も分かっているが…それらは明白だった。


誰もがそれを知っている。聞けば分かる。はじめから手渡された情報だ。


彼の話を聞いて泣いている自分が理解できなかった。

なぜなのかがわからない。結局私は、何一つ突き止められなかった。


どうして、こんなことが起きている?


どうして、彼はもう誰も殺さない?


どうして、こんなことが起きている?


どうして、学校は彼に"それ"を送った?


どうして、こんなことが起きている?


どうして、彼はこんなに優しくする?


どうして、こんなことが起きている?


どうして、彼を助けた私は後悔していない?


どうして、こんなことが起きている?


どうして、私は此処にいる?


どうして、私はこんなことをしている?


どうして…私は死のうとしている?理由はあるのか?


もし万が一これを読んでいる人がいるのなら、どうか

どうか頼む、探り出してくれ。


これを私に説明してくれ。誰か…誰でもいい。分からないんだ。私には分からない。



彼に手を伸ばす。手から伝わる患部の多さに驚きながら、躊躇せずに力を酷使する。


見たところ、というか感じたところ、いずれもただで既はない。手の着く足から治す。



治しながら再度全身を診る。見間違いはない。


…頭部、特にどこが、といったことは無いが全体的に瀕死だ。

額に伸ばした手から伝わる感覚は、まだ彼が行きていることを伝えると同時に、とても生きていられる状態ではないと克明に告げている。



この思考は私のものであって、私のものでない。


誰かに見られている。


行動から思考まで見透かされている。


…才能の使いすぎか、思考がぼやけ始める。


この短い考えには何もない。

でも…きっと大きすぎる意義がある。


あとはそれを信じて少しだ、け─眠って…みよ、う─







懐かしの店。


いつかはわからない。ここはいつもこんな感じだ。


『これは─』


独り言はどこまでも伝わるが、全く響かない。


『概ね…夢、ってところか。』


夢で夢だと認識するのは中々に変な気分だ。


夢ならいろいろ説明がつく。


体が動かない、店周りの風景がぼやけている、自分を認識できない、アニメのような視点、その他諸々。


『ふぅ…』


意思とは関係なく、こいつは呑気にも腰を下ろす。


できることも、することもないなら、何もしない。

たまには何も考えないのもいいだろう。



─数秒経過。


落ち着かない。やはり昔からの癖…というかトラウマって言い方が近いのかもしれない。


自分を誤魔化すように思考を綴る。


『ここは本当に…本当にいつまでも変わらないな。』


普段はありえない、思ったことが声に漏れる。


夢ってのは言わば、自分の世界の物語だ。

こういうことをしなければ、シナリオは進まない。


人は日々変わる。

場面や周りの環境に影響され、その場に応じて、自身に仮面をかぶせていくように。


周りが変わらなければ、人の変化は遅くなる。

─逆説的な思考は嫌いだ。


変わらないここに居る彼はずっと変わらない。


─キキィ


木の擦れる嫌な音がする。


開いたドア。豪華な光に包まれ現れる件の男。

噂をすれば何とやら、と言うやつだ。


その顔は、あの時見た時からずっと変わらない。

鬱屈とするほどの、いつまでも続く笑顔。


『─やめろ』


その朗らかな、人を安心させるためだけにあるようなその笑顔は、居場所があると錯覚…思い出させる。


『─やめろ…やめろやめろやめろ─


止まない笑顔。

忘れかけていた業を背負いし自分を、あんな場所にいる理由を、自分に課せられた罪の重さを。


『やめろ、やめろ!やめ─


視界がぐるぐると回る。


あの場所で、教官に怒られた時のことを思い出した。

戦場で、初めて弾丸を受けた時のことを思い出した。

先輩が、俺のために犬死した時のことを思い出した。

俺が間違っているのを知った時のことを思い出した。

この世界は、──だと知った時のことを思い出した。


それと、それと─


回りきった視界はやがて意識をも侵しょくし…、



──────



『……っあぁ…』


詰まった息を吐き出しながら、覚醒する意識を自分のものだと認識する。


朦朧(もうろう)としている。


痺れる手足に逆らいながら、上に乗る何かを押しのけ立ち上がる。



周りを知覚するのにそれなりの時間を要した。


『っうぅー……はぁー…』


ついさっきも見た、2度も見た懐かしの店。


『俺は…なにを、して…』



嫌な夢を見ていた。



思い出せない。だが、なぜかそんな気がする。

夢なんてそんなものだろう。深く考えるだけ無駄だ。


振り返ってようやく倒れ込む少女に目が行く。


『……!仁、南?仁南!』


声をかけても反応はない。生きてはいる。


そうだ。あぁ、そうだ。

思い出した。


なら、概ね力の使いすぎだろう。


『まぁ…今回は俺が悪いか。』


少しだけ反省しながら、現代の少女の行動力にも少しだけ驚く。


大人は…全員がそう、というわけではないが、そこらの人なんかよりは行動力がある。


陰ながらこういう事が出来る人は、行動すらもしない人はもちろんのこと、表立って行動する人よりかえって印象がいい。


『まったく、っしょぉ…今の高校生はそんな行動力が

 あるんすかねぇ〜』


嘆き交じりの質問は誰にも届かない。

サイレンで、叫び声で、感嘆の声で。


背中から感じる体温。それは指先で感じるのとは比にならないほどの生を実感する。


『今日は悪かったな、また埋め合わせをする』


顔も見ずにそう背中に声をかける。


褒められた態度ではないが、今だけは許してほしい。

今は、今だけは…はぁ…語り疲れた。やめだやめ。


背中を軽くゆすると、『うー、』と小さく唸るような声がした。



─数十分後



俺は、私はどうなのだろう。


私はもう最強でもないし、随分貧弱になったこの体で罪滅ぼしもロクにやりきれない、するために十分な力も使うことができない、無能な殺人者だ。


ここに居るのは、ただの高校生に扮した偽善者。


何もしなければ、伝えなければ何にもならない実体のある亡霊。そんな、空虚な存在。


誰にも求められなければよかった。

誰とも関わらなければよかった。

誰にも覚えてもらわなければよかった。


誰の記憶にも残らず、いつ消えても、誰にも傷を残さない、誰にも不利益を被らない。

そんな人で、そんな存在であるべきだった。


『そうあるべきだったんだがなぁ…』


ようやく人一人をおぶって家に着いた。

病院とかに行くべきのだろうが、場所は知らないし、入院すると言われても面倒だ。


『とはいえ…家につれてくのはマズかったかな…』


仁南に緩和してもらった思考と肉体のせい、と言えばまともそうだ。


聞こえはまともそうなのだが、実際は普通なら動けてすらいないほどの状態だ。

皮肉な話だ、しかし過去の自分に感謝している。


そんな思考、と主に疲れ切った体からすればいち早く家に帰って休みたい、そんな感じだ。


『っしょぉ…あー疲れた、ただいま。』


誰もいない部屋にっていうのも、もういい。


さすがに二階のベッドにまで運ぶ体力はない。

一旦ソファーに寝息を立てる少女を寝かしておく。


私はと言うと、限界を迎え離れた椅子に腰掛ける。


ふぅ…なんて、それっぽくため息をついてみたが、もう何もする体力もない。

疲れた。


ぁ゙ぁ゙ー…なんもしたくなーい。こんなこと言ったのはいつぶりだろう。

少年好きの変態ババアのところに行ったのが初めてだったかな、ニーズに合わせて対応を変えて、油断させて目的を─


肘掛けに腕を置き、頭の体重を預ける。



少しだけぼーっとし、違和感を感じて飛び上がるように立ち上がる。

私としたことが忘れてた。


死んでも文句は言えない、というか死んで文句なんて今更言わない。

が、こいつがいるのは話が違う。


軽く外の空気を吸って、吐いて、部屋に戻る。

守るべき対象を起こさないよう、そっと持ち上げる。二階の、私ので悪いがベッドに運ぶ。


身長の割に、というか同じくらいの身長のやつを古波蔵しか知らないからあれだが、まぁ軽く感じる。

こういう事を言うのはノンデリというやつなのだろうが、異常なほどに軽い。


少食、と言えばそうなのかもしれないのだが、少しばかり軽すぎる気がする。



…内臓を丸ごと抜かれた子供を抱えたことがある。


『まさかな、なぁ…?』


答えはわからない、やめよう。


最近、やけに昔を思い出すことが増えた気がする。

思い出していいことはない。


頭は痛むし、少しだけ…本当に少しだけだが、昔の頃に戻ったように思える。



んま、別に私が気にしてどうにかなることではない。

それに、そこまで気遣いのできない男ではない。




下に降りて空いたソファーに座る。

まだやるべきことがある。


─…


ニュースを見よう。


娯楽じゃない、状況把握だ。

そう、これは必要なことなのだ。決して疲れたから休もうとか思ってるわけではない。あぁ、そうとも。



「本日6時30分頃、ひばり町南部の商店街で大規模な、 

 無差別爆破が行われました。

 

 死傷者の正確な人数は分からぬまま、現在も救助活

 動と消火活動が続けられており」


上空からの中継の様子で、あらゆることで奇跡だったのだと分かる。


あの店に繋がる道以外は炎で塞がれていた。

幸い、周りの建物ばかりが燃えていたので、被害者には特に影響はなかった。


建物の中にいる人は…本当に不幸だったと思う。


爆破はおそらく、建物内かその間の路地とかだろう。

道もでかいことで、外を歩いている人には、直接爆破の影響はないようだ。


これまた幸いだったのは、人がいるところはほとんど爆破されていたせいで、誰かが通報できるなんて状況ではなかった。


そしてこれまた不幸だったのは、そこに居合わせたのが私だったということだ。



…私はこんな生い立ちであり、私はろくでもない人生を歩んできた。

だから私には、大層な生きる意義が必要なのだ。


本来、年頃の人にそんなことを求めることはない。

古波蔵にも、仁南にも、少なくとも私は彼女らに生きる理由を求めない。


逆に言えば、歳を重ね罪を背負う人間には、罪を償う必要がある。

そうでなくとも、それ相応の許される理由がなければ、存在することが認められない。


その承認には、遺族の恨みだとか被害者への謝罪だとか、そういうものを客観的に決めるのが司法だ。


人生は良くも悪くも、気が遠くなるほど長い。

これから見つければ良い人も、見つけなければならない人もいる。



もっと簡単に言えば、こんな私が存在するには、存在を許されるためには、それ相応の大層な生きる理由が必要なのだ。



私は、これまでのことも含め、ありとあらゆる方法でそれらを避け続け、罪を重ねてきた。



私は、それを勝手に自分で償っているつもりになっていた。偽善者でいい。

この力を正しい使い方を知った以上、自身の罪を知った以上、何もせずには居られなかった。



…私は、罪を償おうとした。

多くの人を殺めたこの力であれば、逆もまたしかり。それ相応に人を救うことができると思っていた。



私は、あらゆる意味で力を失った。

こんな貧弱で衰退しきった体では、ろくに酷使できない力では、こんな世界では、ろくなこともできない。



私は…この世界に生きる理由を失った。

私は…この世界に許される理由を失った。

私は…この世界に─



『─やめろ…


 はぁ…なんでこんなことを。』


最近は昔を思い出して、気が弱っていたのだろう。

やめだやめ、って言っても、生きる理由を早めに探さなければ気が持たない。



…ひとまず事件についてだ。


思うに、というかほぼ、極左の人間どもだろう。

そして、おそらく何らかの方法で武装もしている。

じゃなきゃこんな派手に起こさない。


ただ、心配なのは武器の方ではない。

いや、正確には武器なのだが、銃器だとかそういうものではない。


私の予想は、ライフルの無差別発砲だとかも十分ありえるのだが、やはり恐ろしいのは、化学兵器だろう。


銃火器に比べればさぞ作りやすいものであり、一般人への無差別攻撃であるのなら、よっぽど効果的だ。


某真理教が話題になった事件も、化学兵器による無差別攻撃だ。


当然高い技術やその他諸々を必要とするが…まぁ、ある程度頭が良くなったり、学歴を手にすると、そういうものに染まりやすくもなる。


バカバカしく思う。そういう人を否定するわけでも無くせるものでもないとも、思わない。


彼ら彼女らがのめり込む理由は簡単だ、4文字。


"プライド"


バカバカしと思う。否定するわけでもないが、本当にくだらないし、善悪の判断くらいはできるようになってもらいたいものだ。


きっと冷静であればできるのだろう。

だが…本当に恐ろしい。無駄に高いプライドは身を滅ぼす。正しい判断もできなくなる。



はぁ…できることをするだけだ。

とりあえず、それっぽい組織を洗い出そう。


普通に見えて、実はそういうことをしてるなんていう組織は良く見分けられる。昔から─


…まぁいい。聞き流しているテレビを消してから、2階へと向かおう。


「速報です。

 先ほど起こった爆破事件の犯人とされる組織から声

 明が発表されました。」


『…はぁ?』


こういう事を言うのは本当に嫌いだがあえて言おう。ぶっきらぼうな声が出る。


「本日6時30分頃に起こった、ひばり町南部の商店街

 で起こった爆破事件。

 

 現在、7時に犯人と思われる組織から、犯行声明が

 公開されました。


 内容は以下のとおりです。」


加工音声が流れる。



要するに…いや、とてもまとめられるのもじゃない。


理解を諦め、単語を単語として聞くことにする。


「最近の日本の企業は、グローバル化などという言葉を掲げ海外進出を図っている。

 

 しかし実態は海外への侵略行為であり、第二次世界大戦時代時同様の植民地化を進めている。

 我々は、その愚かな企業を実力行使で阻止しただけにすぎない。

 そんな状況であるにも関わらず、何も行動を起こさない政府も同様だ。

 

 そして現在、世界中では才能保持者が、日本ではそれらと極わずかな富裕層のみが私腹を肥やし、

 才能も何もない人々は、幸せになることすら許されない。

 

 ならば、我々は変えなければならない。

 そして何か変革をもたらすには犠牲はつきものだ。


 今回の爆破は革命の鏑矢(かぶらや)に過ぎない。

 我々は今後国家転覆に向け、本格的な革命を開始する。


 制裁など好きに計画してもらって構わないが、それ相応の報復を覚悟していただきたい。」


…正直、ここまで意味不明な日本語を聞いたのはあの世界にいてもこれが初めてだ。

とも一概に言えない。

視点を変えれば、常識だなんて簡単にひっくり返る。

こういうことは実際の行動はともかく、思想は案外理屈が通っているように見える。


まさに正義というのは顕著な例だ。

社会に否定されようとも、社会は行動しない。

思想家は否定されようとも、思想家は行動する。


だから彼らは止まらない。否定されようとも、なにもされないことに特殊な自身のようなものが意図せずとも発生する。


行動してこなかった人間だからこそ、行動する人間に惹かれてしまう。


この話はいつまでしても結論は出ない。

最終的にはなのもならぬまま自分を見失ってしまう。


…わかっていても定期的に戻って施行をし、その時分によっている時点でこんなことを語る資格はないのかもしれない。


           次回 第19話 ─思点─


─────────────────────────

第18話 ─志士─


意味は『大望を抱き、国や社会へ貢献する人』。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


ここでは、前書きみたいな独り言や、ちょっとした裏話だとか、そんな感じのことを適当に書いています。

興味がなければ読んでいただなくても結構です。


休み明けということでちょっと長めになってしまいました、申し訳ない。

もっとこう…ふらっと読めるようなのを目指していたんですけど、いつからこうなってしまったんですかね…


本編の裏話とかをするのであれば、やはり序盤中盤の描写ですよね。

今読んでも「いやその描写はおかしいだろ」みたいなところが数多あるんですけど、いかんせんどう直せばよいものかわからなくてですね…


こういう身体に関する細かい描写というのは難しいですね。


今後もこんな描写を続けるって考えると恐ろしいですね…

これを書いているときは、次の話なんて考えてないので、同じくらい次回の題名と後書きに苦労します。

はたして作業はどれだけ長くなるやら。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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