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多分魔界から来ました

作者: 九藤つくな

力持つ真黒の液体が空中で凝固する。

夢現に、その真黒の液体が「私」だと認識すると上昇気流に乗って浮いていた液体は均衡を欠いて落下し始める。

目覚めた私は私がバラけないように集中させるついでに周りに同じように浮いていた液体を取り込みなから赤茶けた大地に落下していく。

本来なら大地に叩きつけられ、弾け、飛沫として無数に飛び散る液体は私の意思に従い集合して、私の肉体を構成して、重力に逆らい、地表から拳一つ分程の高さに静止してから静かに着地した。

飛沫を補食するために集まっていた捕食者たちが気圧されたように、否、正しく気圧されて、私から距離を取る。

私は私の認識に従い、二本の足と二本の手を持つ、人間に似たシルエットを持つ生き物として肉体を構成したようだが、その肉体は人間とは似ても似つかない姿をしていた。

ぬめったような肉色の関節部分以外はチタンのような金属質な艶を帯びた外殻に覆われ、刺々とした腕の一部に反射して映った頭部には人であるならば目があるはずの場所にはなにもなく、額にカットした宝石のようなスモーキークオーツのような色の瞳が左右3個づつついていて、鼻も無く、鼻の下から顎にかけては殻に覆われてなく、かわりにイソギンチャクのように細かな触手に覆われている。

触手を避けて口を確認してみれば、電動鉛筆削りの鉛筆を入れる穴のような、入れたものを何でも削り砕けそうな頑丈な歯がギュルリと空回りした。


ハッピーバースデー、私。

どこに出しても恥ずかしくない立派な化け物ですよ!

……なんでこんな姿になっちゃったのかねえ?




本来なら飛沫から開始するはずの生は、たくさんの力ある液体を取り込んで落下してきたおかげでいきなりの食物連鎖の最上位個体からのスタートとなった。

真っ赤な空に浮かぶ黒い雲からは時折力ある液体が降り、大地にぶつかると飛沫になり、その飛沫から小さな生き物が生まれる。

力ある液体から生まれた生き物はより小さな生き物を喰らう事によって力を増し、育っていく。

なんとなく、この生き物の形は力ある液体が降る途中で宿る魂の前歴によって姿が変わるのだろうかと思う。

私は運良く人間という、知性の高めな前歴があったのだろう。

…………本当に人間だったのかについてはこの生活に馴染むに従って自信がなくなってきたが。

知性の低い個体は際限無く食べては際限無く大きくなり、重力に負けて動けなくなって中型の個体に集られて食べられている。

私はサイズはそのままに密度や硬度、しなやかさや宿る力を伸ばしていく。




赤茶けた大地で、黒い生き物を食べる以外に楽しみも娯楽もなく暮らしていると、ふと何かに喚ばれた。

彼方からの声。


いらせられませいらせられませいらせられませ

嗚呼、我等が神よ


神ではないんだけど、暇だし行ってみるかな。




床には血液を加工した魔力を帯びたインクで描かれた魔法陣。

中心に家畜の首。

真っ黒なローブを纏った複数の人物。

……どう見ても悪魔召喚です本当にありがとうございません。


「神よ!神よ!我等の願いを叶えられませ!」

「この生け贄を対価に、どうか!どうか!」


暇だからと軽い気持ちで応える物じゃなかったなー。

やせっぽちで薄汚れた小さな子供が差し出される。

うーーーーん、胸糞~~~!

体を調節して外殻の刺々した部分をつるりとさせて子供を抱き上げる。

怯えもせずぼんやりと中空を眺める子供。

大丈夫なのかな、この子。


「生け贄を受け取って頂けた!」

「これで我等の宿願が叶えられる!」


抱き上げただけなのに熱狂する真っ黒ローブの集団がうるさかったので、肩甲骨の下辺りの外殻の隙間から触手を伸ばして全員の口を塞いでやる。

生け贄とか求めてないし、何をして欲しいかも知らないけどほっとくとエスカレートして惨劇を起こしそうな集団だし、残りの人生何があろうとずっと幸せに過ごせるお薬、お出ししておきますねー。

さぁて、子供を育てるのに必要な物は……、多分、衣食住と保護者かな。

おとうさんがんばっちゃうぞー。(自分の性別も不明だけど)







艶やかな男だった。

2メートル近くの高身長。

均整のとれた肉体は黒いシャツに、飴色の革でできたベストとズボンで覆われ、腕と足、胸部と肩は黒光りする金属の甲冑で守られている。

異国の風を感じさせる肌の色は甘い色気のチョコレート。

甲冑に似た色の髪と煙水晶の瞳を持つ頭部は男性的な美しさ。

両耳には瞳に良く似た煙水晶のピアスが左右2つずつ、合計で4つ着けていてミステリアスな雰囲気に良く似合っている。

すれ違う女性達の視線を集める男は、だがその全てを欠片も気にする事なく、小さな子供を肩に乗せて街を出ていった。

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― 新着の感想 ―
お父さんモノというのがわかったところで続きが読みたくなりました。
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