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第十一話(一) 今宵、宴を

「はじめに、これは夢だ」

「あ、はい」


 開口一番にそう言われて、留花は頷くことしかできなかった。

 堂々と目の前に座っている白い獣――霊狐姿の白宇が続ける。


「ややこしいと思うだろうが、これは夢の中の出来事ではあるがただの夢じゃない。そのことを理解してくれるかな?」

「あ、はい」


 こういう時は深く考えてはならない。留花もそれぐらいわかるようになってきた。ちゃんと理解しようとするのを諦めているといった方が正しいかもしれないが。


 ――突然、『これは夢だ』なんて言われた夢を見るのは初めてだなぁ。途中で「ああ、これは夢だな」って自覚する時はあるんだけど。


 そんなことを考えていると白宇が言う。


「因みに、夢だと自覚するのを明晰夢というんだぞ。夢の内容を自分でコントロールできることもあるそうだ」

「へぇー、そうなんですね。そういえば、これは夢だなと思って屋根から屋根へ跳んだり、空中から地面に着地したり、結構無茶なことをした夢を見たことがあります」

「なんだ、留花ちゃんも経験者か」


 夢の中で夢について語る。何とも奇妙な光景である。

 普通に話している留花だが、自分の夢の中に白宇が現れたことについては特に驚いていなかった。

 なんたって白宇は未来視ができる妖怪なのだ。白宇が何処までのことをできるのかは未だに定かではないが、他人の夢の中に現れるなんて彼にとっては朝飯前の出来事なのかもしれない。

 と、ここで白宇が話を区切った。


「留花ちゃんの夢について気になるところだが、他に訊きたいことがあってだな。留花ちゃんは今日は休日だが、夜に何か予定はあるか?」

「いえ、特にないです」

「では、十九時ぐらいに迎えに行くから、留花ちゃんは夜ご飯は食べないで自宅で待っていてくれ」

「えっと、お仕事関係ですか?」

「いや、仕事ではないぞ。まあ、ある意味仕事関係ではあるけどな」

「何があるんですか?」

「それは後でのお楽しみだ」


 ――『夜ご飯は食べないで』ってことは、何か奢ってもらえるのかな?


 なんて、少しばかり期待をしながら、留花は別のことを訊くことにした。


「因みに、こうしてわたしの夢の中に白宇くんが現れたのは、白宇くんの能力の一つなんですか?」

「そうだぞ」

「凄いですね……!」

「まあ、それほどでもあるかな」


 謙遜することのない白宇がゆっくりと四つ足で立ち上がった。


「さて、そろそろ行くとするかな。他の奴らにも声を掛けないといけないからな。それじゃあ、留花ちゃん。また後で」

「はい、また後で」


 ゆらりと白宇の尻尾が揺れる。視界がかすんでいく。

 徐に目が覚めた。微睡ながらも、留花は現実へと戻ってきた。

 机の上には片付けられていない食器がそのまま置かれていて。どうやら、昼食後の睡魔に勝てずに、机に突っ伏して眠ってしまっていたようだ。

 夢の中に白宇が現れたことははっきりと覚えているし、白宇が言っていたこともちゃんと覚えている。


「白宇くんは『自宅で待っていてくれ』って言っていたから、迎えが来るってことだよね?」


 たぶん、と自問自答する。

 時計を見遣れば、もう夕刻と言っていい程の時間帯だ。


「……取りあえず、片付けよう」


 白宇に告げられた時間までまだ時間はある。


 ――食器を片付けて、洗濯物を取り込んで、顔についた跡も消して、服も着替えて、化粧もして、それから、それから……。


 迎えが来る前にやることはいっぱいある。

 留花は慌てて立ち上がった。

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