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第十話 過去と現在(一)

 祖母に連れられて、留花はとあるタワーパークへとやって来た。

 街のシンボルであるタワー付近には花畑や樹冠回廊、自然体験施設やサイクリングロードなどがあって、休日には人が集まる場所だ。

 特にその日は広場でフリーマーケットが開催されていて、より多くの人で賑わっていた。

 手作りの小物、生花やドライフラワー、調度品や骨董品等といった商品を売る数多の店が並んでいる。

 幼い留花の目に沢山のモノが映る。見たことがないモノにとてもわくわくした。

 それらに目を奪われていたせいだろう。気付いた時には留花は一人になっていた。

 辺りを見回しても祖母はいない。

 広場は結構な広さで人も多い。「おばあちゃん!」と呼んで探しても全然祖母は見つからなくて。


 ――おばあちゃん何処にいるんだろう……もしかしたら案内所に行っているかもしれないし……いや、今まで歩いて来た場所を探しているかもしれない。


 留花は幾つもの『もしも』を考えながら、祖母を探し歩き回った。祖母が自分を見つけてくれるまで動かずにその場にとどまるという選択肢もあったが、とどまりたくない訳があった。

 先程から視界に何やら奇怪なモノたちが見えるのだ。


 ――何あれ何あれ何あれ!?


 留花の内心は荒れ狂っていた。

 人とは明らかに違うモノたち。一つ目だったり、頭に角がはえていたり、お面を被っていたり……兎に角奇怪な見た目のモノだちだ。

 仮装にしては周りの反応が全くといって良い程ない。まるであれらの存在が見えていないかのようだ。

 あの奇怪なモノたちとは目を合わさない方が良いと本能が告げている。

 迷子に加えて、何やら自分にしか見えない奇怪なモノが見えるこの状況で、留花は顔を俯きがちに歩き続けた。


 ――あれはきっと不安な気持ちが見せる自分の空想だ。うん、そうだ、そうに違いない。大丈夫。おばあちゃんもきっと直ぐに見つかる。


 何度も自分に言い聞かせたが、留花の心の中は不安でいっぱいだった。

 我慢していたけれど、次第に涙が目に溜まっていく。

 気づけば周りに人の気配がない。まるで世界でひとりぼっちになったかのようで、遂には泣き出しそうになった。

 と、その時。


「そこのお嬢さん、もしかして迷子ではないか?」


 自分に声を掛けてきたモノがいた。

 留花がそちらを振り返る。ぱちりと瞬いた留花の瞳から涙が零れ落ちた。

 目の前にいたのは獣だった。

 汚れなど一つもない純白の体毛。三角の耳に、黄昏色の透き通った瞳。

 留花がきょろきょろと辺りを見回しても人の姿はなくて。


「君に声を掛けたのはおれだそ」

「い、犬が喋った……!?」

「残念。犬じゃなくて狐です」


 留花にとって重要なのは獣が喋ったことだったが、獣にとって重要なのはそこではなかったらしい。

 何にせよ相手を不快な気持ちにさせてしまったと思った留花は直ぐに謝った。


「……えっと、間違えちゃってごめんなさい」

「ふむ、君は素直に謝れて良い子だな。あいつに君の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぐらいだ」


 ぶつぶつと独り言を述べる獣――狐が尻尾をゆらゆらと揺らす。


 ――ふさふさな尻尾……触ってみたい……。


 思わずそんなことを考えてうずうずしている留花の耳に、再び知らない声が届いた。

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