第四話(三)
ババ抜きをしている最中、留花はいろんな意味で心臓に悪かった。
気づいた時には、留花が八からカードを引くという順番になっていて。
鬼の形相とはまさにこのことだ、と身をもって知った。
なんせ顔が八つもあるので、わかっていたもののいざ対面するとその圧は凄まじく、体が小さく震え上がった。
八の様子を窺うなんて余裕はない。相手の表情を見てカードを引くなんて高度な心理戦など到底できなかった。
ババを持っているのか否か、どれがババなのか等考えることもできなくて。
手を伸ばしてサッとカードを引くだけでもう一杯一杯だった。それでもペアが揃う時は揃うのだから不思議である。
――ほんと、こうしてゲームをするのも久しぶりだなぁ……。
何だかんだで留花は素直に楽しいと感じていた。
途中で別の客――見た目は年配の女性だが、留花には人間か妖怪なのかわからなかった――が来た時は、授業中にノートに落書きをしていたのを先生に見つかった時のような、何とも気まずい気分になった。
それでも、司樹が焦ることなく堂々と「いらっしゃいませ」と言ったので、留花も「い、いらっしゃいませ」と何とか口を動かすことができた。
――もし、『仕事中に何遊んでいるの!』ってお客さんに怒鳴られたらどうしよう……。
留花は不安に苛まれたが、当の客の反応といえば、
「あらまあ、司樹ちゃん。また八さんに捕まっているの?そちらのお嬢さんも大変ねぇ」
と、寧ろ憐れんだかのようにこちらを見てきたので、留花は拍子抜けした。
「本当にもう大変なんですよー」
司樹が困ったように微笑しつつもその場に手札を置いて席を立った。「ほら、留花さんも」と促されて、留花は慌てて司樹と共にレジへと戻る。
「あら、そちらの子って……」
「この子、新人さんなんですよー」
「やっぱりそうなのね!最初はまた八さんに捕まったお客さんかと思ったわー。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
なんて、客とのんびりと会話をする。
接客をしつつも留花が八の様子を密かに見遣ると、それぞれの顔の視線がいろんな方向を眺めていた。
「八さんならああして店内を見て楽しんでいるから放っておいても大丈夫」
そう司樹にこっそりと教えてもらったので、留花は「今は目の前のお客さんに集中しないと!」と考えることができた。
二度目の会計も無事に終え、「ありがとうございました」と客を見送った後に八が待つ席へと戻る。
そうすると、待っていましたと言わんばかりに八の表情が生き生きと輝いた。そして、ババ抜きは再開され、勝負が終わった八は「また来るからその時はよろしく頼む!」と言って意気揚々と帰って行ったのだった。




