7 スキル作成使いは忘れたい
清々しい気持ち。
俺はそう言う気持ちに取り憑かれたい。だか、それは叶わないのだろう。
そう、全てはアンドレアのせい。
俺の心には消えかかっても消えない存在がある。そう、アンドレアだ。
「くそっ……! まただ、またアイツのことを思い出してしまう」
俺は新しい生活に満足はしている。ただ、どうしてもアイツが頭から離れない。もうあの日から1ヶ月は経とうとしてるのに。
「こんなやつ、俺のスキルで消し去ってもいい。だが、出来ない」
何故なら、そう言う類の魔法は死のリスクを伴う。
容易に出来ない。
「こんな気持ち、どう落ち着かせたらいいんだ……」
そんな時だった。
後ろから手が伸びて何かに抱きつかれる。
いい香りがする。
「どうしたんですか? そんなに思い詰めて」
リナだ。
「……いいえ、何でもないですよ。気にしないで下さい」
嘘だ。何でもないはずがない。でも、俺は絶対にパーティーメンバーの前で弱音は吐きたくない。
「そうですか……でも、本当に何にかあったら、ちゃんと相談してくださいね」
と、リナは優しい声を耳元でそっと掛ける。
「は、はい……」
「リナ? ちょっと手伝ってくれないか?!」
「あ、はーい。じゃあ、またね」
そうして、リナは行ってしまった。
俺はこういったところで、よくリナに助けられている。
あと、かわいい。
明らかに、今の方が楽しい。
でも、何故だか前の記憶が頭に強く残る。期間が長かったからとかそう言う話ではない。
「やっぱり、スキルで消すべきか……?」
「削って、何をだい?」
「うわっ! ……全く、びっくりさせないでください、ジャン」
「あはは、悪気はないっす」
「そんな事は、分かってます」
「もしかしてさ、前のあれ。今もその事で悩んでるんすか?」
「……違いますよ」
「違わないっすよね」
「……」
前のあれと言うのは、学院試験の後にアンドレアに会ってまた、罵倒された。忘れようとしても、アイツが必ず何かしらで絡んでくる。
「あのー、本当のこと言って欲しいっす。何でそんなに思い詰めてるのか、そして、アンドレアさんとの詳しい関係」
「……俺が思い詰めてるのは、間違っていない、アンドレア達のことだ」
「やっぱり」
「俺は、アイツらのことを忘れたい。でも忘れようとするとむしろ出てくる。絶対に忘れられない。スキルで消そうとも考えた」
「そうっすか……」
ジャンは俺を否定するわけでもなく、肯定するわけでもない。相槌を打ちながら、理解しようとしてくれているのが分かる。
「でも、それは出来ない。死のリスクがあってまでする事じゃない」
「そうっすね」
「なあ、俺は一体どうしたらいいんだ?」
「簡単っすよ、楽しい思い出を作りましょうよ!」
「楽しい……思い出?」
「そうっす、アイツのことなんか、ぜーんぶ忘れるくらい楽しい思い出っすよ!」
「なるほど。楽しい、思い出か」
「そうっす、僕たちが沢山つくってやるっす! だから楽しみにっす!」
「ふ、あはは! そうですね! そうします! 楽しみに待ってます!」
「うーん。やっぱり敬語は嫌っすね。さっきの方が良かったっす」
「そ、そうですか? いや、そうか?」
「そうっす! そっちの方が距離感が近くで接しやすいっす!」
そうして、俺たちは楽しい思い出を沢山作りに行った。
ダンジョン攻略、商売、それに魔法師団に見学に行ったり。
沢山の思い出を作っていった。
「今日も楽しかったっすね〜」
「本当だな」
「うふふ、なんだかアランさん、ここ数ヶ月で変わりましたね」
「そ、そうかな?」
「ええ、だいぶ」
「なんか、丸くなったと言うか、思い詰めなくなったっすよね」
「そ、そうだね……」
「そうだな! そうだな!」
「あはは……まあ、これも全部、ジャンのおかげだけどな?」
「そう言われるとなんだか照れるっす」
なんだか、もう俺は楽しくて仕方がない。
明日の楽しみを探す自分が楽しくて仕方がない。
「明日は、何するっすか?」
そんな会話すら、心地よいと感じていた。
ずっとこんなのが続けばいいのに。
でも、そう言うものは、突然に終わりを告げるもの。
『速報、速報。学院の皆さんは、直ちに第一闘技場に集まりなさい。この街に魔物レベルSSが現れました』