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私は元王女

作者: 時雨

矛盾や誤字があるかもしれないですが、気軽な気持ちで読んでみて下さい!

それが、初恋であったのだろう__


兄の遊び相手として毎日登城してきていた彼は兄と歳の近かった私ともよく一緒にいてくれていた。


紫紺の髪と瞳をもつ本物の王子の兄よりも蜂蜜を長時間煮たような濃い金髪と青い瞳の彼の方が私にとってはよっぽど王子様みたいだった。


英雄を祖父にもつ彼の家は歴史のある公爵家で、過去に降嫁をうけた経験もあり、王女である私と嫡男である彼の間には巷で話題のロマンス小説のような障害(身分差)もなかった。


自惚れでなければ彼には好意を抱いてもらっていたと思う。少なくとも嫌われてはいなかった。だが、私の初恋は叶うことはなかった__




彼は私じゃない人と婚約をした。

それは王命だった。


相手は国の辺境に住む私と同い年の平民の女の子。ある日倒れていたのを村人に保護され、聖力を()()()()()()ことが発見されたのだ。聖術が使えるのではない、ただ聖力をまとっているだけの女の子。それでも父である国王が彼女を欲したのはわたしの腹違いの弟が彼女と似た状況下にあったからなのだろう。


彼女とは違いベットから起き上がることもできないほど病弱な血の繋がらない弟(正妃腹の弟)

その病弱さが体全体にまとう聖力の所為であるのかはわからないが少しでも弟の症状が改善するようにと私の父である国王は願い、原因追求の突破口となりうる彼女を王都にとどめておきたがった。


彼女は王家によって、辺境には戻らず王都にとどまる事となったが、王家の事情を知らぬ貴族たちが聖力をまとっているだけで聖女でもない彼女が王都にとどまることに納得するはずがない。


悪意渦巻く貴族社会から彼女の身を守るためには力を持った貴族の家が彼女の後見になる必要があった。


そこで選ばれたのが何代か前に降嫁を受け、王家の血が流れている彼の公爵家であった。


次期公爵であり、低いながらも王位継承権を持つ彼との婚約という形で_____






いっそ彼のことも彼女のことも嫌いになるか、興味をなくすことができたのなら楽になれたのだろう。


倒れていた前の記憶のない彼女は慣れない環境の中で腐ることもなく、ひたすらに努力をしていた。

事情を知らない他の貴族からの言いがかりでしかないことで肩身の狭い思いをしていた彼女を見て見ぬふりをしておくことなんてできなかった。

彼女は他でもない王家のためにしなくて良い苦労をしているのだから。



彼だって今まで通り私に接してくれていた。



それでも、少しずつ私の心はすり減っていった。


彼の彼女に対する壊れ物を扱うような丁寧な態度を見るたびに、今までは親愛の証だと思っていた私に対する少し雑な態度や意地悪なところが信じられなくなっていった。だから私は逃げた。

勉強に、魔術に_____


私は第二妃から生まれたが、以外にも正妃腹も含め兄弟仲は良好だ。

私の実母である第二妃は実子からも敬遠されている節があるが、正妃との関係はみんな良好だ。



血の繋がりを超えて仲のいい私たち兄弟だが、王太子(腹違いの兄)だけは違う。別に嫌われているわけでも嫌っているわけでもない。


ただ兄様(王太子)は特別だ、格が違うと無意識に感じてしまう。


_____王になる為に生まれてきた者だと_____



全体的に色素の薄い金髪碧眼の兄様(王太子)は、何かに優れているわけではない。

魔術や武術についてなら(実兄)には到底及ばないだろうし、魔術理論などの知識については私は絶対に負けない自信がある。

だが、兄様以上に王太子になれる素質を持つ兄弟はいないとも断言できる。


兄様(王太子)は全てを___相手の本質、能力___見透すことのできる眼を持つ。幼い兄を魔術や騎士の道へと導いたのは紛れもなく兄様(王太子)である。


特別何かに優れてはいない兄様だが、人を見極め導くことのできる兄様は王になるべくして生まれてきたと言える。全てに秀でる必要はない。王は一人で全ての責務を行わなければならない訳ではないからだ。それより王者だと、逆らう気を起こさせないほどの風格を持つことや、信頼することができ、国を任せられる者を見出すことの方が大切だ。

一人で国を守ることなどできやしないのだから。



私たちの兄である以前に1人の王族であることに、王太子であることに誇りを持つ兄様は悪意でも善意でもなく、ただ単純に国のために時に私たち兄弟を利用する。


私が年頃になれば国益となる相手に嫁がせようとするだろう。

私とて王族としての誇りや責任はある。

国のためになる事を成すことが他の者より豊かな暮らしをしてきた事の対価だと分かっている。


だが、私はどうしても彼以外と結婚をする将来を描くことができなかった。


結婚をしなくても私という存在が国に貢献できると、結婚をするまでもなく私自身に価値があると、むしろ結婚する事で私の価値が下がってしまうと兄様に思ってもらうために、彼や彼女から逃げるために私は勉強や魔術に没頭した。


彼や兄に2年遅れて入学した学校を飛び級制度をつかって彼や兄より早く卒業した。

普通は令嬢は通わない大学にも入学し、後継の令息でも滅多に進学しない院まで史上最年少で卒業し、新しい魔術や魔術理論も開発した。


今では城の国家魔術師団の研究部に所属しながら、たまに大学で教鞭をとっている。



ここまで突き詰めると男尊女卑の傾向が残るこの国で、私の結婚市場においての価値はとても低くなった。


女のくせに男をたてることの知らない知識だけの頭でっかちだと__


兄様は私を止めることはなかった。


こののままでは結婚相手がいなくなるとわかっていながらも、このままの方が国益になると思ったのだろう。


私自身の価値を認めてもらえたのだ。



兄様から生涯結婚を強いられる事はないだろう。

父や叔母は何が口出しをするかもしれないが、そのくらい私自身の力でどうにかできる。




彼以外と結婚する必要はなくなった。

目標を達成したというのに私の内に残ったのは虚しさと、変わらない彼への想いだけだった。



――――――――――――――――――――――――




彼と兄が学校を卒業し、青薔薇の騎士団に入って少し経った頃、聖女が発見された。


三神の1柱リリアナ様の力を持つ色素の薄い金髪と翡翠のような瞳の治癒の聖女。


聖女が現れても状況は何も変わらなかった。

まだ力を思うがままに操ることができないからなのか弟の病弱さは聖女の治癒を受けても変わらず、彼の婚約者はまだ彼女のままだった。


弟が健康になれば婚約は解消され、彼と結婚できると無意識に考えていた自分に気づき、自嘲した。

あまりの自分勝手な、彼女の人生を振り回すだけ降りまわしてポイっと捨てるような傲慢な考え方をしていたことが王族として、一人の人間としてとても恥ずかしかった。




何も考える余裕が無くなればいいと、一層私は仕事に打ち込むようになった。


――――――――――――――――――――――――



ある時、神国からの使者がやってきた。


この時から聖女を巡る運命は急激に動きだした___





これまでの聖女のほとんどが神国出身で、神国は世界で一番聖術について詳しいと言われている。因みにリリアナ様の本神殿も神国にある。



そんな神国では内乱が起こっていて、つい最近収束したらしい。

腐敗していた国のトップは変わり、今回使者としてやってきた者の大半は生まれながらの貴族ではないそうだ。


腐敗していた国を表すように酷く痩せていて不健康そうだった使者たちはこちらにきてからどんどん健康的になっていた。


自らを聖騎士だと名乗る一人を除いて。


癖のある焦げ茶の髪と長めの前髪に隠された深い青の瞳。背が高いのにとても痩せていて、白をこえて青白い肌がより一層不健康な印象を与える。


自らを聖騎士だと名乗るだけあり、聖術に詳しくない私でも彼の操る聖術の技術の高さは感じられた。

聖騎士は私の国の聖女とは違い、三神の一柱セレスティーラ様が司る守護の力を持つ。


飄々とした態度で兄にこき使われるその聖騎士はまるで同性のように話しやすく、人生の大半を部屋にこもって過ごし、人と話すことの苦手な私でも交流しやすかった。また、私の知らない聖術のことを聞く時間はとても有意義だった。


神国からやってきた使者の一人である騎士から聞いた話だと、聖騎士はセレスティーラ様の力を持つだけあり、結界や防御壁を展開するのが得意らしく、本来なら後衛や護衛などに向いている能力なはずなのに最前線で魔物をギッタンバッタンしているそうだ。

その闘い様は、聖騎士であるばすなのにまるで地獄の使者のようだという。


細身でひ弱そうな見た目とは反対の戦闘スタイルに何故か彼らしいと思ってしまう。




それから、兄と彼、そしてあの聖騎士が絡んでいるところをよく見るようになった。


兄や私などに対する少しぶっきらぼうな雑な対応を彼が聖騎士にもしていることに何故かもやっとしてしまう。


たまに聖騎士の愚痴を聞くようになった。ほとんどが兄についてだが、たまに出てくる彼の話に胸が躍る。

妹の私の目から見ても兄がこの飄々とした態度をとりながらも、仕事に対しては真面目で、女子供に対しては紳士的な、実力もある聖騎士のことを気に入っているのはあきらかだった。


ただ、兄は流石にこきつかいすぎだとおもったのでフォローはしとかなかった。

逃げられたらそれは兄の自業自得だ。



どちみち聖騎士という特別な立場の(聖騎士)は国際交流が終われば兄の部下ではなく神国唯一の聖騎士として神国に帰らなければならないのだから。



――――――――――――――――――――――――




研究に夢中になっていて、気づいたら辺りは暗かった。急いで資料などを片付け、扉に鍵をかけ、城にある自室に向かっていたら、嗅ぎ慣れない生臭い匂いがした。鉄のようなその匂いが血であることはすぐにわかった。目の前に倒れている聖騎士(発生源)があまりにも酷い怪我を負っていたからだ。



肉がえぐれて中身が見えかけている聖騎士の体を持ち上げると予想以上に軽かったが、痩せている割に背の高い聖騎士を運ぶことは流石に私一人では不可能だった。



そんな時やって来たのは彼女だった。

学校を卒業し、今では聖女付きの侍女となっている彼女は立派な淑女となっていて、それが嬉しい反面彼女の立つ場所は彼の隣と決定づけられたようで悲しく、複雑な気持ちになってしまう。


治癒の聖女付きの侍女として怪我人には見慣れているのか、驚きながらも彼女は私の目的地であった聖女のいる神殿へ連れていくのを手伝ってくれた。



力に目覚めた時よりも聖術を使うのが上手になった聖女はあまりの怪我の酷さに顔色を悪くしながらもすぐに治療に取り掛かってくれた。彼女も手慣れた様子で聖女の手伝いをしている。

軽い麻酔はしているものの痛みは完全には無くならないようで、聖騎士の額からは玉のような汗が絶え間なく流れていた。


治癒術も少しなら使えるという聖騎士自身の力もあってか、死にそうだった彼はなんとか一命を取り留めた。だが、問題が2つ残った。


一つ目は聖騎士を治してくれた聖女の存在がまだ公には知られていないということだ。

聖女が聖術をきちんと扱えるようになり、成人してから存在が発表されることになっていたため、聖女の存在をしっているのは私や兄、世話役などを含め数人しかいない。


神国の使者の中でも代わりのいない聖騎士の命がかかっていたため、今でもここに連れて来たことに後悔はない。



二つ目の問題は割と厄介だ。

聖騎士は、   彼は、彼じゃなかった。

治療の時に不可抗力で見てしまった聖騎士の体はどう見ても、貧相ではあるが女のものだった。

いつまで経っても太らない彼を、いや、彼女(聖騎士)を心配していたが、もともとゴツくなるわけがなかったのだ。女というよりも少女なのだから。それも私より年若い。


とはいえ、知ってしまったからには騎士団にはいさせられない。いくら下手な男より強く、自分の身は守れるといっても騎士団は女人禁止なのだから。

 

聖騎士のことを気にいっていた兄にどう切り出そうと悩んでいたが、思いつくよりも先に私の意識が途切れた。

そういえば私研究に夢中で二徹していた・・・




翌朝というより昼過ぎに見た聖騎士の顔は自分の秘密を私たちに知られたことを悟ったのか強張っていた。

誰にも言わないで欲しいと初めて見る真剣な表情で言われると彼女(聖騎士)の意思を尊重したい気持ちと彼女(聖騎士)自身を案ずる気持ちがぶつかり合って何も言葉がでなかった。



結局私は聖騎士の秘密を誰かに言うことはなかった。



兄様(王太子)だけは全てを知っているという彼女の言葉が決定打だった。

兄様のことだから何か考えがあるのだろうと。

何か起きるまでそれまでは傍観しておくことを決めた。つまり全ての責任を兄様に押し付けたのだ。


それでも聖騎士のことが心配なのには変わらなかったので、王女の権力を駆使して聖術との調和度が高いアメジストを用意して、彼女のためにブレスレットがたの聖具を治癒の聖女に作ってもらい、常に身につけておいてもらうことにした。

身につけておけば少しだけだが、自然治癒能力な高まるのだ。本当に気休めだが。





それからも聖騎士と会うことは度々あったが、秘密について話すことはなかった。




――――――――――――――――――――――――




聖騎士は突如神国に帰ることになった。

神国では突然新型の感染病が流行り出したらしく、浄化と少しの治癒術ができる聖騎士は神国に戻らなければならなかったのだ。




――――――――――――――――――――――――



恐れていたことが起こった。

神国で流行っていた新型の感染病が王国でも流行り出したのだ。


日々多くの人が亡くなることに治癒の聖女は耐えきれず、正式な発表を待たずに国民のために力を使い始めたが、一向に感染が収まる気配はない。

守られる立場であるはずの王族の兄も毎日街に降りて自分にできるせめてのことをしていた。私も専門ではないものの医官の手伝いをし、薬の開発に努めていた。


兄がついに感染し、倒れてしまったそんな時、やって来たのは神国からの聖女だった。

私は直接は見ていないが、直感的に彼女(聖騎士)だとわかった。


噂では聖騎士の時とは違い、艶やかな黒髪に海よりも深い濃い青色の目をしているというその神国の聖女は初めに兄を救ってから、多くの人を助けた。


ウイルスまでも防ぐデタラメな精度の結界を張り、浄化をこまめに行い、感染が広がらないようにした。


二人の聖女(王国と神国)の努力もあってか、少しづつ感染は弱まっていった。




感染が減り、しばらくたっても私は神国の聖女に会うことはできなかった。

それどころか兄や彼、彼女とも会うことができなかった。 


城の廊下で一度すれ違った時の彼らは子どもの頃のまま成長できない私と違い、私の知っていた彼らの眼差しとは違っていた。



自分1人だけが今の状況を理解していないことに不安を感じながらもどうすることもできなかった。



――――――――――――――――――――――――



気がつけば見知らぬ場所にいた。

そうとしか表現できない状況に私は陥っていた。

心なしか肌が感じる空気さえもいつもと違うように感じる。

足には鎖がついていて扉に近づくことができない。空気を入れ替えるための、人が通れないであろう小さな窓にまで鉄格子がついている。足枷がとれたとしても扉には鍵がかかっていて出ることはできないだろう。






この場所に来てからどれだけの時が経ったのだろう。

冷たい床に触れている足から段々と体全体が冷えていく。意識が霞んできて足音の幻聴まで聞こえてくる。


ガチャリと音がしてやっと足音が幻聴ではないと分かった。扉を開け、現れたのは成人した男性としては低い身長の黒髪黒目の異国風の顔つきをした男だった。


目の下にある深いくまややつれた頬が男を歳以上に老けて見せていた。


男は私をその瞳に一瞬捉えた後すぐに今来た道を戻り出した。私の身体は見えない力によって男の後へと引っ張られていった。抵抗する力は出なかった。


私がいた地下の牢に頑丈な壁、複雑な廊下に・・・舞踏会でも開くことのできそうな広間


ここはそう、まるで城のよう。

それも昔、戦場で使われてそうな頑丈で封鎖的な古城。


私はその広間の入り口で投げ出された。打ち付けた体の痛みに顔を歪めながら顔を上げると、そこにいたのはずっと会いたかった彼・・・

兄や聖騎士もいるのかと確認する前にもう一度私の意識は闇に落ちた。


最後に聞こえたのは


「おい!失敗作、(神のなり損ない)こいつを眠らせろ!」


              という男の声だった。




………………………………………………………………



神国から始まり王国まで広まった新型の感染症は人為的なものだ。逆にそうでないと説明がつかない。二つの国はそもそも()()()()()のだから。


感染症が広まったのはある男の野望のため。

世界の最も基本で強力な理を変えるという願い(野望)。その願いを叶えるためには聖女の力が必要だった。聖女三人と神のなり損ないの力が。


三神と民から呼ばれ崇め奉られる


光を反射してきらめく金髪とエメラルドグリーンの瞳をもつ治癒を司る女神・リリアナ


肥沃な大地を表す茶色の髪と太陽の赤と雨の青のオッドアイをらもつ実りを司る女神・フローリア


艶やかな黒髪と空の蒼より澄み、海の碧より深い青色の瞳をもつ守護を司る神・セレスティーラ

唯一性別をもたず、中性的な見た目をしている。



この三柱は主神であり創世主である創造神・オーディンから生まれた。

オーディンとその伴侶の女神・サクラから生まれた()()は神になる前、神国で人間と共に暮らしていた。

寿命を全うし、天界へとその魂が還るとき、その数は三つに減っていた。


天界へと還ることのできなかった魂。それこそが忘れ去られた最後(神になれなかった)の女神・アスタナシア

燃え盛る炎のように赤い髪と黒曜石のような黒い瞳をもつ女神になれなかったその者が司るのは書物。


過去や未来、人の記憶までも対価と引き換えに書き換えることのできるアスタナシアはある男によって天界へと還ることを阻まれた。

その瞬間からアスタナシアの絶望は始まった。


アスタナシアを地に縛り付ける男の願いを叶えるには時間を超えるアスタナシア、空間を超えるセレスティーラの力をもつ者、現在地を表すフローリアの力をもつ者、到着地を表すリリアナの力をもつ者が必要だ。



アスタナシアは三柱の神々の力と色を受け継いだ者、つまり聖女や聖人が同じ時代に生まれるその瞬間を悠久とも思えるような時間を過ごして待ち望んだ。


そして神々の力と色を受け継いだ者が生まれついた時、男はその者たちを一つの場所に集めるためやその者たちの力を強める目的で()()()()()()()に新型の感染症を広めた。



そう、この時代に生まれついた神々の力と色を受け継ぐ者は、


男に失敗作(神のなり損ない)と呼ばれる書物の女神・アナスタシア


王国の治癒の聖女・マリアナ


神国の自らを聖騎士だと名乗り、性別を偽っていた守護の聖女・セレフィーラ


そしてもう一人は___


眠りについた「私」が再び目を覚ましたとき最初に目に映った、


死んだように生気がないのに虚な瞳だけは開いているあまりにも幼い女の子。その者がセレフィーラの双子の妹であり、四歳の時に死んだはずの実りの聖女になる予定()()()女の子・フローラ


その女の子だけは金髪碧眼という、神々の色を受け継いでいなかった。



‥‥‥………………………………………………………



再び意識が覚醒したときまず目に入ったのは金髪碧眼の鎖に繋がれた女の子。

当たりを見渡すと私を中心として四方向に少女がいることに気づいた。先ほどの女の子(フローラ)治癒の聖女(マリアナ)、聖騎士___いや、神国の聖女(セレフィーラ)赤い髪の女(アスタナシア)


さらにその奥には彼や兄、男もいることにも気づいた。



男は女の子と治癒の聖女の間を通り、私の方へ近づいてきた。


「これでやっと()()()を蘇らせれる!光栄に思え!お前はサクラを蘇らせたときの器となるのだ!」


男の願い(野望)とは死人は蘇らないという理を崩し、サクラと呼ばれる者が生きることのできる世界を探すことだった。


そしてチラリと兄を見てから


「そのためにわざわざ我があの者から()()()のだから」


男の言葉に頭が追いつかなかった。



それからも男は話続けた。

私や兄に問いかけるように、


「お前らは疑問に思わなかったか?閉ざされた世界の金髪や茶髪が大半の国で、聖女や聖人でもないのに自分の一族だけ紫紺の髪や瞳をもつことを」


顔が強張る。


「お前らは魔人の血が入っている!だから巧みに魔術を使うことができ、だから長命で一つの命を二つに分けても並の人間ほどは生きることがてき、だからサクラを蘇らせれる術に耐えることのできる頑丈な体をもっている!」


男の口から語られたのは予想していたこと。周りの反応を見ることは怖かったが、本当に戦慄したのはその後の男の言葉だった。


「それに比べてお前らの弟(腹違いで病弱な)は素質はあるというのに体が耐えきれず聖人になることができない失敗作だな」


まだ男は話続ける。


「あの女も余計な手を出しよって。実りの聖女が生まれる運命をねじ曲げて、一つのものを二つに、実りと守護の聖女を生みやがって」


男は多分そう言ったのだろうが最後まで聞くことは出来なかった。神国の聖女(セレフィーラ)が男にとびかかったからだ。

それを機に兄や彼も男にとびかかる。

神国の聖女にとって妹や母親であろうあの女は、男に無意識にとびかかっていくほど大切な存在だったのだろう。


何がとんできて、私は繋がれていた機械から逃れることができた。


サクラを蘇らせるために必要な器が消えたことに気づいた男は怒り狂い、


「この際もう男でもいい!」



と叫びながら兄に殴りかかった。このような攻撃を受けるほど軟弱な兄ではない。だが、兄が避ければ鎖に繋がれ意識もなく、動くことのできない金髪碧眼の女の子に男の攻撃が当たってしまう。


兄は能力が攻撃に偏っている。治癒術も結界術も使えず、並外れた身体能力でその全てを補ってきた。もし使えたとしても魔術のそれらでは呪文が必要なため間に合わない。


守護の聖女も結界を展開しようとしていたが間に合わなかった。


兄の右肩から斜めにざっくりと線が走り、赤い液体がそこから溢れ出した。

彼と神国の聖女が男にとびかかり、治癒の聖女が急いで兄に駆け寄ってその傷を治そうとした。

私は長い呪文を唱え、気休めだが兄と治癒の聖女の周りに結界を張った。


張りはしたが、心臓にまで傷が走っている兄の命は絶望的だろう。ときに理を越え、奇跡を起こす聖女の力でも___

聖術は魔術と違い呪文を必要としない。そのため聖術は術者の精神状態に大きく左右される。

真っ青になり、泣きながら傷口に手をかざす今の治癒の聖女は余計に傷を治すのは不可能であろう。



大きな音がして、視線を向けると男を剣で貫いた神国の聖女の姿があった。胸の部分に突き刺さった剣をそのままに神国の聖女はこちらに向かってきた。


治癒の聖女の手に重ねるようにして神国の聖女も聖術を使い始める。


その努力を嘲笑うかのようにどんどん兄の体は冷たくなっていく


私も兄と同じで聖力を使うことができない。

能力は実戦より研究に偏っていて、私は何の役にもたつことが出来なかった。

 

「久しいな、セレフィーラ」


赤い髪の男の言葉に従っていた女がやって来た。

彼が少し身構えたが、すぐに必要ないと感じたのか兄の方に向き直した。


「魔女・・・」


「その者を助けたいか?まだ死んではいないから私なら助けることができる。汝が対価を払う覚悟があるのなら」


神国の聖女は大きくうなづく。


「我の名は書物を司る女神アスタナシア。過去や未来、人々の記憶まで操り、理をねじ曲げる者。男の症状を和らげる対価は、汝のこれから一生の聖力。妹の分の聖力までもその身にやどし、人の子以上の力に運命を振り回された汝はこれから一生聖力をその身に宿すことはない。」


赤髪の女がペンを手に持ち書きつけるような動作をした後、光が溢れ出した。

神国の聖女は突然倒れ、兄の傷は見た目こそあまり変わっていないものの、苦しそうな表情が少し和らいでいた。


「私が完全にその者の傷を癒すのには対価が大きすぎる。そこの治癒の聖女が落ち着いてもう一度術をかけ直したら死ぬことは絶対にない。ほっといたら死ぬがな」


涙を手で拭った治癒の聖女はもう一度術をかけ始めた。治癒の聖女の瞳のように温かな緑色の光が溢れ出し、兄が包まれる。




どれだけの時がたっただろう。死にそうだった兄は傷口が完全に塞がってはいないものの、容体は安定してきた。


意識の戻った神国の聖女はこの激動の中、鎖に繋がれまぶたひとつ動かさなかった金髪碧眼の女の子の手を握っていた。


私は神国の聖女のもとに寄り添った。


「妹は確かに四歳のときに死んだんだ。突然魔物に襲われて、私は守ることができなかった。この手で心臓が止まったのを確認したんだ。それなのに、心臓が止まってからもこの世に縛りつけて・・・」


肩を震わせ、絞り出すようにして喋る神国の聖女に私はかける言葉が見つからなかった。


「眠らせてあげましょう」


私は女の子の目に手を当てて、虚に開いていた瞳を閉じさせた。



どうか、これからは安らかに___




男の話から、聖女らが生まれたのさえも男の意思によって、赤髪の女が綴って決めた運命だったのかもしれない。私は男の願いのために兄から造られた存在なのかもしれない。


だがその運命も男のいうあの女という者の力や、私たち自身の力によって変わっていった。


聖女たちの力を使って願いを叶えようとしていた男は聖女らによってその願いを壊され、この世から消えていった。


赤い髪の女、書物を司る者(アナスタシア)の姿もいつのまにか消えていた。

今度こそ天界へと還っていったのだろう。


多くの民をまきこんで感染症を広めたり、聖女たちの運命を振り回した騒動はこうして幕を閉じた。


私が知らないことはまだたくさんあるだろう。失恋くらいでこの世の終わりのように感じていた自分が馬鹿馬鹿しくなった今、いつか彼女ら(神国の聖女)が自分から本当のこと話してくれるその時まで待てると思う。一生変わることのない彼への愛とともに___


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



それからいろいろなことがあった。


あの古城は神国にあり、昔神国の聖女が亡くなった母と妹と三人で暮らしていた場所らしい。


神国から王国に戻った私たちは兄を医療設備の整った場所に連れて行った。




治癒の聖女は聖術の腕を磨きながらも、聖術だけに頼ってはいけないと医学や薬学を習い始め、より一層王国の民から慕われるようになった。



『彼女』がまとっていた聖力は過去に神国の聖女が彼女を助け、守護を与えていたことがあったためだとわかり、平民に戻ることを望んだ彼女はまた辺境でひっそりと暮らし始めた。


彼女の運命を振り回した王族として彼女に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、別れを惜しむ治癒の聖女に会えてよかったと微笑む彼女に少し心が救われた。



病弱な弟がまとっている聖力は、あの男によって聖人にさせられそうになったためだとわかり、今はその聖力を取り除く方法を研究している。

聖力が取り除かれたら少なくとももう少しは元気になるだろう。



『彼』は婚約を解消したため、いろんな令嬢に追いかけまわされ、よく兄の病室に逃げ込んでいた。



神国の聖女はこれまでは食べて寝ることで回復していた聖力が対価として一生つくることができなくなった。必然的に聖女ではなくなり、その髪の色は薄まって銀髪になり、聖力を宿してることによって青色だった瞳は金色に変わった。


始めは聖力を失ったことや、二回目の妹の死に直面したこと、瞳の色が父と同じ色になったことに塞ぎ込んでいたが、少しずつ元に戻っていった。

兄様(王太子)によって同一人物なのに聖騎士の双子の妹とされた彼女は、兄を力と引き換えに救った聖女として英雄のように王国の民から絶大な人気を得た。


兄様(王太子)は神国の聖女と兄をくっつけようとし、私の叔母はそれを妨害しようとして神国の聖女に嫌がらせをしているが、彼女は兄様の仕業にちょと面倒くさそうしながらも嫌がらせについては楽しそうに避けている。


聖術を自由に操っていた頃のように振る舞うようになった神国の元聖女を、兄は嬉しい反面、毎日心配しながらやきもちしていることを私は知っている。


兄は驚異の回復をみせ、再び騎士として働き始めた。いつかは騎士団のトップに立つだろう。

そのときに隣に立つのはきっと・・・




私はどうなったかって?

それは一番最初(タイトル)にもう書いているわ。

感のよい人なら早々に気づいてたでしょうね。


ひとつ言うのなら私は今、


            とても幸せよ___




*ヴァイオレット

 王国の第二王女

 紫紺の髪にヴァイォレットモルガナイトのような瞳


*アベル・バークス

 王国の公爵家嫡男で騎士

 金髪碧眼で身長が高い


*セレフィーラ

 神国の聖女

 艶やかな黒髪に海より深くて濃い青色の瞳

 身長が女性にしては高く、痩せ気味


*ジルベルト

 王国の第三王子

 紫紺の髪にアメジストのような瞳

 騎士だが魔術のほうが得意とされている


*シーラ

 過去にセレフィーラに助けられた経験がある平民の少女

 甘栗色の髪と瞳

 元アベルの婚約者


*男

 サクラという者を蘇らせたがっている

 色々と不明


*マリアナ

 平民だった治癒の聖女

 淡い金髪に黄緑に近い緑眼


*フローラ

 セレフィーラの妹

 聖女だがなぜか金髪碧眼

 故人



_______________________


この話はセレフィーラが主人公として考えたもので、その裏側を中心人物からは少し離れている王女の目線で語ったお話です。

矛盾点やまだ明かされていないこともたくさんありますが、機会があればそれらも書いていきたいと思っています。


おつきあい頂きありがとうございました!


補足 『私』は『彼』以外と結婚する気はなく、一生王族でいるつもりだったので・・・


 

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