3ページ:ノートと2本の鉛筆
登場人物
更野 音美(ノート美)
馬場 久臣(王子様)
馬場 二三八(幼なじみ)
下地 公子(親友)
文土 喜代(ファンクラブの一人)
「はい、フミヤからも告白されました。」
「後はよく覚えていません。」
「とりあえず、ちょっと待ってと言いました。」
「図書館の本は、今日にでも返却するつもりです。」
2日連続になるピアノ練習室での尋問が終わった。
公子が私を見て、しみじみと言った。
「音美にモテ期来たね~。」
「来たかな。」
私が(BLで)知ってるモテ期は、もっと楽しそうだった。
私に降ってきたモテ期は急展開過ぎるのだ。
学部の王子様とマッチョの幼なじみから、ほぼ同時に告白。
しかも彼らは親友同士。
「まさか、音美が三角関係に悩む日がくるとはね。」
「ホント。世界中の神様全部が驚いてるよ。」
フミヤが告白してきたのは、きっとヒサオミ君の告白に慌てたからだろう。
フミヤはメンタル弱すぎる。
「で、音美はそれぞれをどう思ってるわけ?」
「ヒサオミ君はアイドルって感じ。」
アイドルって手が届かないから憧れる。けど、いざ恋人にってなったら、どうしていいかわからない。
「フミヤはただの幼なじみ。」
幼なじみは、それ以上でも以下でもない。
公子が食い気味に聞いてくる。
「じゃあさ、十年前の告白には何て答えたの?」
何だったかな。
小学生の記憶を手繰り寄せる。
学校からの帰り道。
『ごめんね。私はもっと強くておっきい人が好きなの。』
ああ、そんな事言ってたっけ。
フミヤは頭をポリポリと掻いていた。
あの頃のフミヤはどちらかと言うと華奢な感じで…
あれ?
今フミヤは強くて大きくなってる。
本当に私のこと、ずっと思ってくれてた!?
「ちよいちょい、音美。また思い出し赤面してる。」
自分の耳まで熱くなってるのが分かる。
「だって、だって!」
言い訳できない。
私は、フミヤを意識してしまった。
「で、どっちの鉛筆を選ぶのよ。」
「鉛筆?」
「ほら、王子様のイニシャルはHBだよ。HBと2Bの2本の鉛筆。」
こういう発想力は、公子のすごいところだ。
「線は細く硬いけど、みんなに人気のHB。太くて濃いけど折れやすい、懐かしの2B。」
うまい!
座布団何枚でも持ってきて!
本当に、2人の特徴をよく捉えている。
「まっさらなノートに、それぞれはどんな物語を書こうとしているのかしら?」
思わず笑ってしまった。
公子も一緒に笑う。
「やっぱり、すぐ折れない、硬い方が良いと思うんだ!」
「ありがとう公子。相談に乗ってくれて。」
「爆発してしまえ!この幸せ者!」
また2人で笑った。
*** ***
午後イチの心理学の講義は、みんな同じ授業だ。
フミヤとヒサオミ君の2人は、前の方の席に並んで座っていた。
私と公子は後ろの方の席に着く。ここからは2人の様子がよく見える。
私がどっちを選んでも、この2人の友情を壊す事になるんだろうなと思うと、心苦しい。
ヒサオミ君が、チラッとこっちを見た。
「こっち見てくれた~♪」
私の前に座っていた女子が、小さな声ではしゃいでいる。
きっとヒサオミ君ファンクラブの人だろう。
一昨日5限目までの私もこんな感じだった(まあ、ここまでキャピキャピはしてないけれど)。
ヴヴヴ ヴヴヴ
着信だ。
机の下でこっそりスマホを見る。
ヒサオミ君!?
授業中にメッセージ送ってくるなんて。
それでこっちを見たのか。
『答え、待ってるから』
首筋まで赤くなる。
だってヒサオミ君の隣には、フミヤがいるのよ!
今、何を返信していいものか悩む。
私はスマホの上で指をプルプルさせてしまう。
「何?誰から?」
公子が小声で聞いてくる。
ちょうどその時、
「また、こっち見た!願いが通じた!」
前の子がまたはしゃぐ。
メッセージが既読になったので、ヒサオミ君が振り向いたんだろう。
この子が敵になるかも知れない。と頭をよぎった。
ヒサオミ君を選べば、ファンクラブが怖い。ヒサオミ君をフっても、それはそれでファンクラブが怖い。
詰みじゃん!
そもそも何で王子様から告白されたんだろう。
もしかして、からかわれてる?
なんかのドッキリ?罰ゲーム?
裏でみんな笑ってるわけ?
…それなら、からかわれてる方が楽かもしれない。
『もしかして私をからかってます?』
後でメッセージを誰かに見られたとしても、誤魔化せそうな文にしておく。
でも送信ボタンが押せない。
この返事によっては、私はとても傷つくんじゃないかと思う。
意を決して送信。
「ねぇ、何だったの?」
「後で話す。」
公子。こんな話、授業中にできませ~ん。
ヴヴヴ ヴヴヴ
もう返事がきた!
『本気』
2文字ですか。
こんなインパクトのある返信は予想してませんでした。
「ほんき」?「マジ」?
どっちで読んでも、ヒサオミ君の声で再生されます。
とは言え「マジ」なんて読みは無いんですけれども。
公子は心配そうに声をかけてくる。
「音美、大丈夫?」
「たぶん。」
いいから、私の代わりにしっかり授業を聞いておいてください!
きっと今日の授業、私の頭に入んないから。
あとで授業ノート写させて!
『なぜ私なんですか?』
次のメッセージは既読になったが、ヒサオミ君から返事がない。
前を見ると、フミヤが何か話しかけている。
ばれた?
いや、教科書のページを聞いていたみたいだ。
その時、公子がノートを押し付けてきた。
『馬場君?』
そう走り書きしてあった。
さすが公子ね。でも、フミヤもヒサオミ君も、2人とも同じ名字なんだな。残念!
公子も自分で気づいたらしく、書き直す。
『王子様?』
私は頷く。
ヴヴヴ ヴヴヴ
『それは会って話したい。今日、晩御飯行かない?
7時にコンパスでどう?』
コンパスは学生お達しの居酒屋で、パーティー席もあれば、半個室のブースもある。お値段もそこそこで、気軽に飲めると人気のお店だ。
どうしよう。
これ、行ったらオッケーってことになってしまわないかな。
それに、私、まだお酒飲めない歳なんですけど。
机の下で、公子にスマホを見せる。
公子はメッセージのやりとりを見て、ノートに書き込んだ。
『行ってこい!』
この日の心理学の授業は、心理学の歴史。
色んなページを行ったり来たりして授業が進んだので、フミヤはページが分からなくなりました。
音美は、今日の授業を捨てました。




