2ページ:幼なじみ
登場人物
更野 音美(ノート美)
馬場 久臣(王子様)
馬場 二三八(2B)
下地 公子(親友)
「昨日、ヒサオミ君に告白されました。」
「後はよく覚えていません。」
「とりあえず、ちょっと待ってと言いました。」
「はい、今は私の返事を待ってもらってます。」
ピアノ練習室での公子による長い尋問が終わった。
ここは防音がしっかりしてるから、話し声は外に漏れない。
「なんで、保留しちゃうかな!」
公子が叫ぶ。
ここは防音がしっかりしているから、中で叫ぶとよく響く。
「何を悩む必要があるの?馬場君は王子様よ。」
ごもっともです。
私が公子の立場なら、全く同じことを言っていると思います。
「なんか、舞い上がっちゃったっていうか、突然過ぎたっていうか。今まであんまり話したことも無かったし。」
私は、思いつく限りの言い訳を並べる。
「一緒に文化祭委員やってたじゃん。」
「あの時もほとんど話せなかったって、公子も知ってるでしょ。」
「それなのに、何で音美のことが良いと思ったんだろう。」
ですよね~。何でだろ。
『更野さんが可愛いから。』
突然、昨日のヒサオミ君の台詞がフラッシュバックした。
顔が火照って来るのが分かる。
「ちょいちょい、音美。思い出し赤面なんてやめてよ(笑)」
「だって~。」
「にやけてるわよ。だらしない顔になってる。」
仕方ないじゃないか。告白されたのなんて、まだ人生で2回しかありませんから!
私は、頬を叩いて平常心を取り戻す。
「で、どうすんの?断る気は無いでしょ。」
「うん、それはそうなんだけどね。なんか敵とか増えそう。」
ヒサオミ君には非公式ファンクラブが存在する。あのルックスで、あのステータスなら仕方ないことだ。
彼女たちが黙っているわけがない。
「あー。前に、フミヤ君が嫌がらせされてたなあ。」
公子が思い出したのは、1回生の時の体育の授業のことだ。
バスケのゴール下でフミヤとヒサオミ君が接触。ヒサオミ君の上にフミヤが覆い被さる形で転倒。
ヒサオミ君が足を挫いた。
その後のファンクラブからのフミヤへの嫌がらせは酷かった。
フミヤがアホじゃなかったら心が折れてたかもしれない。幸いなことに、フミヤはあれを嫌がらせだと気づかなかった。
嫌がらせを止めさせたのは、誰あろうヒサオミ君だった。彼らが親友になったのはそれからだ。
「付き合うとなったら、この大学辞める覚悟がいるかも知れない。」
「確かに。女子相手なら手加減しないだろうし。」
やっぱり断ろう。中の下の庶民と王子様が付き合っても、長続きはしないよ、きっと。
「私は絶対に誰にも喋らないと誓うよ。」
「?」
「だから、安心して付き合え!」
公子が応援してくれているのはとても嬉しい。
しかし、嫌がらせも怖い。
そもそも、私はヒサオミ君のことを恋愛対象として見たことがあっただろうか。
「こら、何を悩んでるの!据え膳食わぬは女の恥ぞ!!」
公子ぉ?あなたが何を言っているのか分かりませんっ。
「ほら、スマホ出して。電話しなよ。」
「ごめん~今は無理~!」
私はピアノ練習室から逃げ出した。
*** ***
練習室の鍵を返さないといけないから、公子はすぐには追って来れない。
私は一人、図書館へ向かって歩いていく。本の返却に行かなきゃ。
この時間は授業中だから、歩く人は少ない。
西日が眩しくて、目を細める。
反対側から誰かが歩いてくる。逆光で顔は見えないが、体格と歩き方ですぐに分かった。
私は胸の前で小さく手を振る。
「フミヤ、図書館行ってたの?」
「あ?いや、これはその…」
いつもと違って歯切れが悪い。こういう時、フミヤは嘘をつこうとしている。
「はいはい、言いたくないなら良いよ。」
私は図書館に向かって歩き出す。
「待って。ノート美に…、音美に話があるんだ。」
フミヤの後ろの太陽が眩しくて、フミヤの表情が見えない。
ただ、声は真剣だ。
「何?」
「なあ、ヒサオミから告白されたのか?」
残念、公子。あなたは黙ってくれているはずなのに、もう情報はダダ漏れみたいです。
ファンクラブからの壮絶な嫌がらせ。
精神を病む。
大学中退。
引きこもりニート。
パラサイトシングル。
ゴミ屋敷で孤独死。
走馬灯のように、私の転落人生が妄想されていきます。
「オッケーすんのか?」
「ちょっと待って。何でフミヤが知ってるのよ。」
昨日の夜のことは、まだ私と公子しか知らない「はず」なのに。
「ヒサオミから聞いた。」
そうでした~。そっちのルートがありました。
ヒサオミ君が秘密にしてくれるとは限りませんよね~。
ヤバいヤバい。親友を疑ってしまいました。
友情を失うところでしたよ。
ごめん公子。
「なあ、オッケーすんのか?」
「どうだっていいでしょ。」
夕日が山に沈み始め、あたりは暗くなってきた。
あと20分程で、授業が終わってみんなが出てくる。
「覚えてるか?」
「何を?」
街灯が点き始める。フミヤの顔が見えた。
なんか、思い詰めたような顔をしている。
「俺が告白したこと。」
「小学校の時の話じゃない。」
このアホは、何で突然昔話を始めたのか。
確かに人生最初の告白は、フミヤからでした。
「そう、十年前だ。」
「それがどうしたってのよ。」
少し、変な間が空く。
「俺、今でも同じ気持ちだから。」
「え?」
何だろう。
なぜか、フミヤが次に言う台詞を一言一句想像できた。
「音美の事が好きだ。」
やっぱり。
でも、困る!これ以上悩みを増やさないでよ!




