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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

今日のトレンド

作者: 鮎川雷鳥

ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ・・・・

六畳1Kの部屋に目覚まし時計のアラームが鳴り響く。

けたたましく鳴る時計は7時30分を指している


「んーー、んー、起きればいいんでしょ!!もーうるさいなっ!!」


ドンッ・・・・!!布団の中から出された手は目覚まし時計の上部をダンクシュートのように叩いた。


「んー、んー眠い....って、あーーー!!!」


入社2年目になる私は遅刻魔とはいかないが他の社員よりは時間に遅れることが多い。そんな私にも交配ができ、上司からはお手本になるようにとくぎを刺されていた。

出社の時間は8時。完璧な寝坊だ。

これから走って駅に行き、電車に乗ればギリギリ間に合うだろう。

慌てて身支度を整えて、人の目など気にせず全速力で走った。


----------------------------


両手を膝に置き、息切らしながらも発車時刻の2分前に駅に着いた。


「ハァハァハァ...危なかった....」


ICカードをかざし改札を抜けるとやけに人が多いことに違和感を覚えた。

大多数の人が上を見上げ発車標を凝視している


「え...嘘でしょ」


発車標には電車の予定発車時刻と共に「駅間で人身事故が発生しました」の文字がゆっくりと流れていた。

遅刻が確定した。すぐに改札口の駅員に運転再開までの時間を尋ねた。

予定ではあと1時間はかかるらしく、何百回と聞かれたのだろう詳しくは改札すぐのボードを見てくださいと案内された。

私は、会社に電話をしなければと思い出し、スマホを取り出し上司に電話をかけた。

まずは誠心誠意の謝罪。そして、通勤列車が人身事故に遭い、運転再開まで1時間ぐらいかかる旨を伝えた。上司からは、「それなら仕方ない」と許してもらえたものの社会人なら余裕持って行動しろと多少注意された。


「チッ!うぜーな!今日人身事故が起こるなんか分かるわけないじゃない!」


朝から不運続きイライラし、今日のこれまでの出来事を目覚まし時計、駅員、上司、会社、人身事故を引き起こした人のせいにした。

Twitterを開き、今日のトレンド覧を見る。ランキング3位に人身事故のタグがあった。


”朝から人身事故とかついてねー”

”死ぬなら人に迷惑かけずに死んでくれよ”

”また人身事故かよ 日本社会マジ闇www”


みんな自分と同じ気持ちで迷惑しているんだと安心し、自分は被害者なんだ。

被害者達の怒号や呆れ、悲観などのツイートで溢れる中一つリツイートした。


”人身事故の現場にいたけどホームへの飛び降り自殺だった。”


人身事故が起きた駅にたまたまいた人のツイートが数万いいね、数万リツイートされていた。

そのツイートのリプライには投稿者が現場で起きたことを質問者に返信していた。


”飛び降りたやつ誰?”

”制服着てたし、たぶん女子校生だった”


”生で見てどうだったw?”

”マジでやばすぎw電車の前の部分にめっちゃ血ついてし轢いたときの音もやばかったwww”


面白半分のリプライに軽く答える中、異様に返信件数が多いのがあった。


”人が死んでいるのにここにいる人たちは迷惑や面白半分だったりと非常に気分が悪い!尊い命が一つなくなったのに何でそんなことがいえるのか不思議でしょうがない。憤りを感じます。”


正しい意見であり何も間違ってはいないのだが、なぜだか反論したくなった。


”迷惑には変わりない。自殺なら首つりなり一人で死ぬことが出来るのにわざわざホームに飛び込んで自殺する必要はない”

”自殺する時に人の迷惑なんて考えていないよ。それだけ追い込まれているんだから”

”それだけ追い込まれていたのなら親は気づくのじゃない?育児放棄もあり得る”..........


それから電車が来るまで何が何でも反論しつづけた。

会社に出勤するとTwitterの言い合いのことなどすっかり忘れていた。


-----------------------------------


仕事に一段落つき時計を見ると時計の針は0時を回ろうとしていた。

早く帰らないと終電になってしまう。急いで荷物をまとめ駅へ向かう。


終電の2本前に駅に着きTwitterを開くと通知が数件溜まりダイレクトメッセージにも何件かあった。

知り合いでもなければフォローしたこともない人からメッセージが着ていた。

    ピピピピピッ ピピピピピッ

電車が到着するアラームが鳴る。


 ”あれだけ人を馬鹿にしておいて逃げるんですか?”

 ”あなたは人の気持ちを何も分かっていません”

 ”同じ状況になればその子の気持ちもわかります。”


写真が一枚送付された。

それは、プラットホームに立つ女性の後ろ姿であり、今スマホを見ている私だった。

電車のヘッドライトがホームを明るく照らす

後ろを振り向くと同時に背中が強く押された。

手からスマホが離れ、体が電車の前に投げ出される。


フォーーーーーーーーーーン


電車の警告音が鳴り響く。

プラットホームに立っているのは怒りや悲しみ、憎悪に満ちた顔をした女性だった。

Twitterに新たにダイレクトメッセージが送られてきた。

 ”これで娘の気持ちも分かるでしょ”



その日のトレンド1位は人身事故だった。

ツイートされている内容は朝と変わらない。


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