95/95
テーマ『まあるい背中』
ホームへの階段を、若い女性に手を引かれたお婆さんが、ゆっくりゆっくりと降りてくるのを、通過列車を待つ車内の横長の椅子から眺めていた。
そろそろかと立ち上がり、扉へ向かうフリをする。
軽く混んだ車内に、席から扉までを繋ぐ道ができたところで脇に避けると、そのタイミングで女性の声がした。
「お婆ちゃん、あそこが空いているから座らせてもらお」
親切な人達の作った一本道を二人が通る。
してやったりとほくそ笑むのを、向かいの席から大学生と思しき青年が驚いてみており、あっ。
…いたたまれない。
その時、松葉杖の男性が乗車、青年が私を見た。
そして、意を決して席を譲るために声をかける。
けれど男性がそれを固辞し、つい見かねて、傍に行き一度だけコクンとうなづく。
男性は笑顔で青年に感謝を伝えた。
青年は立派だ。
彼の視線を感じ、声にする勇気がなかっただけの自分に言い聞かせる。
背筋を伸ばせ、今だけは、まあるい背中は見せられない、と。




