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テーマ『満ちる』
第1話
ふと見上げたら、月がきれいだった。
「もうっ!先生、こっちを向いて、原稿は進んでますか?」
眼鏡の可愛い編集さんとの打ち合わせは、本来、僕の楽しみの一つ。
つい軽口も叩きたくなるっていうもので。
「僕のアイディアは、丸く満ちるあの月の様だよ。」
彼女は、にっこり、のたまう。
「つまり、少しも書けてないんですね。」
第2話
彼女は目ざとい。
すぐにそれを見つけた。
「あっ、このお団子は、お月様に供えているのですか?」
「いや、君の襲来に。」
第3話
「先生、私も、お月見の料理を作って来たんですよ。」
「どれどれ。」
「どう…、ですか?」
「あー、この料理が日の目を見ることは、もうないだろうね。」
不満に満ちる編集さんが、可愛いけれど。
僕は、これでもほめているからね?
最終話
彼女を送りつつ、恐る恐る口にする。
「月がきれいですね。」
慌てる編集さん。
「えっ、ちょっ、わざわざ言われなくても、私は、月のない夜に、襲撃なんてしませんからねっ!」