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テーマ『夜の音』
『夜の音』
「穴場だって」
人混みに恐れをなし、出かけるのを渋る僕を、そう言って連れ出した彼女は。
「ここから花火がよく見えるらしいよ」
嬉しそうに、追撃を加える。
「つまり、夏祭りには、またこの山を登ることになるのかあ」
息も絶え絶えの僕に、コーヒーを差し出して。
「もう、情けないなあ、君は」
彼女の
「夜明けが見たい!」
という願いを叶えるために、僕は、高台の遊歩道をえっちらほっちら登ることになったというのに。
もっとも。
「二人ならあっという間だよ」
というセリフにほだされたのはいなめない。
「もうすぐ明けるね」
「もしかして聞こえるかな?」
夜のしじまに耳をすますと、遠くの方に鐘の音。
どちらともなく、二人はあらたまって。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくね」




