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『君の香り』(テーマ『心くすぐる香り』)
彼女が怒っている。
放課後の体育館、ジャージ姿の部員達の中で、たむろする黒い一団が異彩を放っていた。
ひしめく各部に割けるスペースは十分ではない。素行の悪い者達に一角を占拠されるのはあきらかに邪魔だった。
あっ、そろそろ生真面目な彼女の我慢は限界だ。
先んじて僕は、眼鏡をケースにしまうと思い切り叫んだ。
「お前らいい加減にしろよ!」
ボコボコにした僕を嘲笑いながら彼らが立ち去る。
さすがに立ち上がれない。
「あんたはもっと賢いと思ってた」
彼女が言う。
「あんな考えなしに」
「考えはあったよ、ケンカ腰だったのは他の場所に連れていかれないため、目撃者の多いここなら酷いけがを負わせられないし、事件現場に居られないから追い払える、それに騒ぎを起こしたからここにはもう来ないと思うよ」
「あきれた、バカなの?、もう、これで鼻血を拭きなさい」
「ありがと…このハンカチ、君の匂いがする」
「はあ?」
「サビた鉄の匂い」
「よし血祭り」




