テーマ『心くすぐる香り』
どこかでカレーを作っている。
そわそわしながら帰ってみれば、それが我が家だった時の気分って、わかってもらえるかな?
「おかえり」
台所の母も心なしかご機嫌で。
「ありがとね」
なんて、母からの感謝の言葉が続く。
「炊飯ジャーの事よ、あんたにしては気がきくじゃない」
確かに、買い物に出る前にお釜をセットして炊飯スイッチを入れた。
「あっ、あぁ」
焦って返事につまると、その隙に、母にたずねられる。
「何か買ってきたの?」
私は、手にした買い物袋を母に差し出す。
「あ、うん、これ良かったら使って」
バターに蜂蜜、チョコレートソースが入っている。
「美味しくなると思うよ」
隠れてこっそり、そう思って用意したものだけれど、もはやこれまで。
あらためて、甘い香りの湯気を立てる”それ”を見やると、そそくさと。
「ジャー」
逃げた。
言えない、ホットケーキの気分だったなんて。
後が怖いけれど、立ち上るジャーの湯気の香りに、ついほくそ笑んじゃう。
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『ミステリーファン』
「死臭?」
「シチュー!」
『ミステリーファン2』
「におうな」
「美味い焼き肉屋があるって聞いたもんでね」
「タレこみ情報か?」
『ミステリーファン3』
「キナ臭いな」
「ああ、実に香ばしい」




