テーマ『風が運んできたもの』
『風が運んできたもの』
薄桃色の和紙で作った花びらを、はらり、はらり、木の根元にまいている。
桜は、まだほころぶのにも早い。
涙でにじむ彼の瞳には、春が過ぎて見えるのだろうか。
けれど・・・
「友よ、その木は、桜ではないよ?」
「いいんだ、こいつらに新しい生き方を提案しているところだから」
酷い鼻声で、マスクとゴーグル装備の不審者は言った。
『風が運んできたもの』
「ねー、ねぇ、おかーさん」
「んー、どうしたの?」
「んふふふ、なんでもない」
あらあらまあまあ、何か、可愛いことをたくらんでいるわね。
「あのね、おかあさん」
「なあに」
「あした、おかあさんの、おたんじょうびだね」
「そーだねー」
あぁ、そういうことね。
浮かれて、堪え切れずに、ほとんど白状しちゃってる、そんな我が子のポンコツなところも可愛い。
あら、これは――
「ここにシロツメクサの花が落ちてるわ」
小さな、小さな、白い花びらが集まって形作る、丸い花を拾う。
「あっ」
娘が息をのむ。
そう言えば、近所のお姉さん達に、冠の作り方を教わっていたっけ。
にわかに芽生える悪戯心。
「おやおやあ、どうしておうちの中なのに、シロツメクサの花が落ちているのかなあ?」
ついつい、ちょっと構いたくなっちゃう。
「えっとお、それは、きっとね、かぜでとんできたんだよ」
思わず笑みがこぼれてしまった。
「わぁ、それは――」
「とっても素敵な贈り物ね」




