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テーマ『お弁当』
「先輩、これを持って行ってください。」
澄み渡る今日の空の様な、くもりない笑顔で、”雨傘”を差し出す彼女には、秘密がある。
それは、少し変わった予知能力。
いつ、どこで、何のためにかは、わからないけれど、将来必要となる品物がわかるという。
チェーンの切れた自転車を渡された時は、これどうするの!と思ったけれど、警官に追われたひったくりが、この自転車を奪って自滅するに至った。
或は、釘抜きが無くて困っていた演劇部に、なんて物を持ち歩いてんだよ!とおののかれる一幕も。
今、目の前に、自販機の下をのぞき込んでいる子供がいる。お金を落としてしまったらしい。
仰げば広がる青空に、雨傘の使い道を知った。
彼女の予知は、絶対に外れない。
「先輩、これを受け取ってください。」
翌朝、手渡された物の意味を、僕は懸命に、それはもう全力で考察している。
ハンカチにくるまれた、このお弁当の意味を。