テーマ『だから言ったのに』
『七夕』
「短冊に書く願い事は、決まった?」
「君の願いが、かないませんように。」
「ひどい。」
「この件では、織姫や彦星とは利害が一致している。」
「なんで!」
「なんなら試しに書いてみたらどう?」
「あなたが、私に優しくなりますように。」
「ふっ、だから言ったのに、そんなことをして雨でも降ったら、困るのは奴らなのさ。」
『だから言ったのに』
「また脱ぎ散らかして」
帰るなり学生服と鞄を放り出し、探し物を始めた息子。
「お母さん、リモコン知らない?」
「知らないわ、いつも見える所に置きなさいって言ってるでしょ」
「えーっ」
「それより学生服と鞄を片付けなさい」
「ごめん、後でやるよ、見たいテレビが始まっちゃう」
もお、ため息をつき、制服を拾おうと屈んだ時、炬燵の布団から顔をのぞかせた黒い物を見つけた。
息子がお探しのブツは、こんなとこでぬくとまっていたのね。
ふと見れば、背を見せて床に広がる学生服。
手には、黒いリモコン。
裏面は、それこそ本当に真っ黒。
ふむ。
徐に、拾ったリモコンを裏返し、学生服の上に置く。
これで良し。
んー、でも、念くらいは押してあげよう。
「きちんと片付けなさいね」
「ねぇ、本当にリモコン知らない?」
「お母さんは、ちゃんと見えている所に置いてるよ」
「うわぁ、どこいったあー」
「だから言ったのに、まあ、あんたには、絶対に見つからない所かな」




