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テーマ『時計のつぶやき』
オムニバス
タイトル『おーい、まだかい』
腕時計を見つめながら、たずねる旦那さんに。
「もう女性は、支度に時間がかかるの、乙女のたくらみよ。」
腕時計は呟く。
「たしなみではないのですね。」
タイトル『いそげ』
「ちょっ、時間かかりすぎ、何やってるの!」
時計は思う。
カップ麺に叫ぶ彼女にこそ、何をやっているのかと問いただしたい。
タイトル『賢者の贈り物』
「大切な懐中時計を、質草にしてよいのですか?」
「はい、妻に櫛をプレゼントしたいのです。」
ああ、なんということだろう。
二人の間の懐中時計の声にならない呟きは、けれど届かない。
「とめてください、はやまらないで。」
タイトル『校門の前で』
「お前がいるってことは、やばいぞ、急げ。」
「おい、人を、時計代わりにするなあ。」
その頃、慌ただしく過ぎる朝の騒乱から、静けさを取り戻した部屋で、目覚まし時計は告解する。
「ごめんね、もっと君のそばにいたかったから。」




