第8話
意外となんとかなった。
第8話
風呂は良い...
生まれて初めてその事実を実感する事が出来た。
日も暮れ、完全に夜の闇に支配された今。
私は旅館にある温泉にてその事実を心の底から実感していた。
身体が十分に温まり、心地よいお湯との別れを惜しみながら風呂から上がり部屋に戻った私を待っていたのは、いろとりどりの美しく美味な料理であった。
今まで私が経験したことの無い素晴らしき体験の数々を前に、心を奪われつつあった。
「いやぁ、全く風呂も料理も何もかも最高ですね‼︎」
「おまけに完全なシーズンオフで完全貸切状態だ!やっぱり旅行はこの時期が一番だな‼︎」
「それに加えて、新しい出会いまである。文句をつける気にすらならん!」
私の周りではしゃぐ人間さえいなければ...
結局あの後、押しに負ける形で同行を許可してしまった。
今となれば、何故どうにかして断らなかったのかと後悔の念が押し寄せてくる。
そんな私の後悔も知らずに周りの3人は勝手に盛り上がる。
私、居る意味なくない?
最初は、私への質問攻めが続いていたのだが、あからさまに興味が無い対応を続けて行くうちに今の状況となってしまった。
それでも時折、気を利かせたのか気まずくなったのか先程の様に話題を向けてくることもあるが、基本は3人で盛り上がっている。
これ幸いと宿泊部屋も私と3人で分けてしまおう画策していたが、それに気づいた彼らは明らかに慌てた様子で私同じ部屋に泊めさせるのであった。
こうして今に至る...
この状況下でいまいち上がり切らない私は、目を背ける手段として睡眠を選んだ。
部屋の中を障子で分け、少しでも3人から遠ざかる為に戸を閉じ背を向け意識を手放すのであった。
-翌日-
誰よりも早く寝たおかげか、この部屋で1番の早起きをする事が出来た。
寝ぼける頭でカーテンの隙間より差し込む日差しを覗き込み、昨日までの行動を思い出す。
障子の向こうからは寝息や小さないびきが聞こえてくる。
昨日までの後悔を思い出した私は、この機会を逃すまい行動を起こす。
荷物まとめて旅館を後にする準備を始めるため、上半身を起こした姿勢のまま身体の向きを変えようと布団に手をつく。
『ヌルッ』
何かが手に触れる。
それは、直接見ずとも生理的に触る事を拒みたくなる様な粘度と僅かな熱を持っていた。
まるで何かの生き物の死骸の様な感触であった。
その感触と共に眠っていた五感の一つが目を覚ます。
嗅覚が感じとる。
部屋の中での高い湿度と共に届いたその香りは、生臭くつい鼻覆いたくなってしまうものだった。
あまりの不快感に、私は昨日の風呂場に着の身着のまま、入り込み身体を湯船で清めるのであった...
書き始めてみたところ、今までが嘘みたいに一気に書き進めることが出来たので暫くは安定供給が出来そうです。
あまりに進みすぎて少し長くなりそうですが...