第1話
よろしくお願いします。
第1章 「選ばれた、始まり」
第1話
人類の脅威が現れてから既に5年、今まで敵と呼ばれていた者達は総称して「ジェノサイダー」と呼ばれるようになり、敵、味方の両者を示す巨大人型ロボットと言う安直なネーミングはいつしか、敵に「エグゼイーター」、国際反抗連合軍に「エースギア」と言う新たな名前を与えられた。
そして私が住むこの極東の島国、数少ないジェノサイダーによる本土被害を得てない国"日本"は、一定の緊張感に包まれながらも皆何処から海の向こうの余所事と言う雰囲気をぬぐいきれずにいた。
実際先の戦争で派遣された自衛官や各種兵器も存在し、その悉くが破壊され殺害されたのだがそれでもやはり自らに降りかからない災厄にこの国の人間はいつも鈍感であり、また自分たちは生き残るだろうと言う奢りに満ち溢れていた。
そして私もまた、その停滞し淀んだ空気を作り上げる一員として街中を当ても無く歩いていた。
この停滞した空気から目をそらす為に、少し私の自分語りに付き合って欲しい。
私の両親は正義感が強く世に言う親切で優しい"いい人"であった。父は警察官でいくつもの勇敢な行動で様々な章を受賞し、さらには部下や上司からの信頼も厚かった。そんな父の正義感に惚れた母は結婚してから、いくつものボランティアや名も知ら無いような人々の頼み事を引き受けて周囲から頼られる存在となった。
しかし、完璧な人間がこの世界に決して存在しないのは何処の世も同じでそれは彼らにも例外なく適用された。
父は外面ばかりが良く家に帰るとその横暴な本性を現し、自らを頂点としたコミュニティを作り上げた。父が私を殴るときは必ずこのように自らの社会的評価の優位性を示し私の社会的価値ひたすらに否定しながら罵倒していたものだ。
「俺の様な優れた遺伝子から何故貴様の様な劣等遺伝が生まれて来たんだ...」
「貴様なんか
生まれて来なければ
よかったのにな。」
そして、そんな父の正義感に惚れた母は、事の原因を父では無く自分を含めた私達にあると信じて疑わず、より一切一層自分達の為にならない慈善活動に私を巻き込みながら身を粉にしてゆき父に満足してもらおうとしていたものだ。
そんな私に、辛うじて与えられた娯楽はTVであった。
TVのなかでは様々な世界が形成され、私を虚構の世界に取り込んでいった。
特に私は年頃の子供と同じように特撮に心を惹かれて放送時間には必ずTVの前に座り込んだ。
しかし、今思えば番組に対しての見方はとても他の子供とは違う見方をしていたのだと思う。
度重なる親切、人助けを身近に存在していた私にとって俗に言う正義の見方が敵に説くご高説に私は心を震わせるどころか得体の知れない怒りのようなものが湧いていた。
そして、その綺麗事を喋り続ける聖人君主にひたすら相対し続けて決して曲がらず自らの信念を持ち戦い続ける者達、一般にHEELと呼ばれる私にとって正真正銘の正義の味方。実現することも出来もしない自らに不釣り合いな理想を語り続けるやつらなど私には到底理解が出来ず親しみや憧れなど持ちようが無かった。
今思えばこのときにはもう私は歪み始めていたのだろう。
しかし、そんな私でも幼さ故の未来への夢や希望を持ちいつか私の正義の味方が忌まわしき英雄を討ち取る事を夢見て私はTVの前に座り続けた。
しかし待てども待てども敵は強く強大で味方と言う膨大な数に後押しされこちらの戦士達を跡形もなく捻り潰して来た。
そしてそれでもいつかは、と希望を持っていた幼い私でも気付いてしまう事実、正義と言う名前の前には如何なる主義主張もまかり通る事は決してなくそれは全て悪という一文字に強引に収められ数と言う暴力で潰されて行くのだと言う事を。
そして私はTVの前に座るのを辞め、大多数の主張する"正義"と言うものに潰されてしまわないように両親の望むまま正義の存在として生きてきたのであった。
あと数話、こんな感じで続きます。