15.休暇7日目
『マルチアトビュート』という魔物は、この国の周辺によく生息している、スライム種の魔物だ。
姫様が例の学者を城に招待したということなので、同席することにした。
「あんたは部屋で休んでなさい!」
「これから会いに行くる方は、彼女がいた方が交渉を有利に進められます。なのでいっしょに参ります」
「その学者と知り合いなの?」
「多分、かなり知っている人だと思います」
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ー謁見の間ー
いかにも学者という格好をした男が来ていた。
「はじめまして、お目にかかれて光栄です、クリス姫様。私の名はイチと申します」
「はじめまして。先日貴方が発表した『マルチアトビュートについて』の論文を読ませて貰ったわ」
「ありがとうございます」
「この学説を魔道具に使いたいのだけど…」
「魔道具ですか…」
「嫌かしら?」
「ええ。昔、妹が魔道具で怪我をした事がありまして…」
学者がそう言いかけた時、彼女は言葉を遮り姫様に尋ねた。
「姫様、発言をしてもよろしいでしょうか?」
「珍しいわね。良いわよ」
「あれは事故ですし、幸いお兄様方のお陰で傷は残りませんでした。だから気にすることは何もありません、イチお兄様」
「ナナなのか?」
「はい…」
「ナナー‼︎」
そう言うと彼女に兄は抱きついてきた。
学者の豹変ぶりを見た姫様の顔は引きつっていた。
学説を発表した学者は、私の一番上の兄だ。魔物学者をやっているのは知っていたが、ここで名を聞くとは思わなかった。
因みに他5人の兄は向こうの世界で言うところの、領主の跡取り・弁護士・医者・銀行員・投資家といった感じだ。
「お兄様、この学説を用いればこの魔道具を貴族だけでなく、皆が使えるようになります。転用してもよろしいでしょうか?」
「ナナの好きなように使いなさい」
「それで、使用料のことなのですが…」
兄妹であってもお金の事はしっかりすべきだ。イチ兄様は、私からお金を取る事をしないだろう。研究するのにお金はかかるから、と言い製品の特許で得られる利益の40%を受け取ってもらうことにした。
「ナナの事をよろしくお願いします。時間があれば、また会いに来ます」
そう言い、国に帰っていった。
「貴方のお兄さんって…」
重度のシスコンです。しかも全員…。
兄達は、私が家を追い出される時に何もできなかった。父の手前、兄達は表立って動けなかったのだ。追い出された後、6人の兄はサポートをしてくれた。
イチ兄様は、冒険者ギルドのギルドマスターに話をつけに行ったり、私に冒険者として生活する為の知恵を授けてくれたりと、故郷の周辺にいた時はかなりお世話になっていた。
二番目の兄は、今すぐ父を亡き者にして、領主を継ぐとまで言っていたが、流石にそこまでするのはどうかと思ったので、やめさせた。
三番目の兄は他の冒険者に襲われた時があって、その時に示談に応じず、相手の一族を全員奴隷の身分まで落とした。
四番目の兄は怪我をしたらすぐに冒険者ギルドへと飛んできて回復魔法を使ってくれた。
五番目と六番目の兄は、お金の稼ぎ方・ため方などを教えてくれた。あと冒険者ギルドの宿は信用できないからと、最高級の宿を手配して代金を支払ってもらっていた。
そんな兄達だ。所在を知ったら今度は全員で来るだろう…。そう思ってしまった。
「貴女の兄達が訪ねてきたら、お父様と私も同席するわ」
姫様も同じ事を思ったのだろう。気を遣わせてしまった。




