8.大勝利
彼女は休みの間に、賭け金の払い戻しに行くことにした。払い戻しの期限は60日で、あと25日ぐらいあるが、できるだけ早く行こうと思う。また意識を失ったりして、払い戻しの期限を過ぎていたら大損するからね。
姫様が部屋を出て暫くしてから部屋を出た。
彼女に見つかったら部屋に戻されそうだし、慎重に城を抜け出す事にした。
王族だけが知っている抜け道を使い、急いで闘技場に向かった。
払い戻しの受付には、仮面をつけた男がいた。この仮面は魔法や能力による洗脳などのの対策の為につけている、というのを前に姫様から聞いた事がある。
「あの、賭け金の払い戻しをして欲しいのですが…」
「札と身分が証明できるものを出しな」
賭けた金額といつ行われたか、購入者が誰なのか書かれてる札と、冒険者ギルドのカードを、払い戻し口にいる男に渡した。
じっくりと札を見た後、男は驚いた。
「嬢ちゃん、ちょっと待っててくれ」
男はギルドカードを返してから奥へ行き、数分後に戻ってきた。
「こっちに来てくれ」
応接室に通された。
「この部屋の中で暫く待っててくれ」
部屋の中で待っていると、ビキニアーマーを身につけた赤髪の女性が入ってきた。
「ここのオーナーのパボーネ・キャトスだ」
「はじめまして、ナナ・サリシュです。何故ここに呼ばれたのでしょう?」
「まず、不正をしてないか確認をしたい」
「魔道具である札に細工したら分かると思いますが?」
「そっちじゃねーよ。冒険者ギルドに所属してるんだろ?それだったらカードを見せな」
冒険者ギルドのカードは無闇に人に見せるのは良くない。それだけ大切な情報が詰まっている。だが、彼女は見せる事にした。見せないと色々と面倒な事になりそうだし。
見せようとカードを渡そうとした時
「実際に見せなくていいぞ。大切な情報なんだからな、何があっても見せちゃダメだ。これは先輩としての忠告だ」
と言われた。
そして彼女は自分のギルドカードを取り出して見せてきた。この人も冒険者のようだ。
「では何故カードを見せろと?」
「悪い、悪い。試しただけだ。やましい事があったら、見せるとは思えないからな」
「なるほど」
「そんで本題に入る。払い戻しの事だが、分割に…してもらえないでしょうか?」
分割以降の言葉がかなり小さく、さっきまでの威勢の良さがなかった。
「何故でしょうか?払い戻しはその場で一括で支払われる事になっていますよね?」
「本当はそうしなきゃならないんだけど、…今回は無理だ」
「どうしてですか?」
「…実を言うとあの日は、姫様が出るっていうんで、殆ど奴が姫様に賭けてた。そんで他の人の倍率が跳ね上がった」
なるほど、大体分かった。
「ナナが掛けたタッグ、一番人気がなかったんだ。ナナしか掛けてなかったし…。その倍率が…10000倍で…」
「…分割でいいです。金貨10000枚は流石にそんな早く用意できないでしょうから」
「ありがとう。こちらとしても助かる。」
この国の国家予算は約金貨5000枚だ。
その倍の金貨をすぐに用意できるとは思わない。それに、あるだけの硬貨を闘技場からとったら、運営できなくなって潰れてしまう。そうなったら、全額を回収できなくなるし、人々の娯楽を潰して恨みを買うことにもなる。仕方がない。
「これが今決めた内容の契約書だ。流石に額が額だから、口約束って訳にもいかないしな」
彼女に不利な内容は書かれていない事を確認し、署名した。
毎月月初めに、冒険者ギルドの彼女の口座に金貨15枚が入金されるようだ。
初めて知ったのだが、冒険者ギルドは銀行のような業務もやっているらしい。
今月分は、明日振り込んでおくと言われた。
55年後ぐらいまでは、月給金貨15枚が保証される。
だけど、彼女は侍女をやめる気は無い。
恩がある姫様の元に居たいから…
この世界の貨幣価値について
・1日の食事代金が銅貨10枚ぐらい(この世界では基本2食)
・金貨1枚=銀貨100枚、銀貨1枚=銅貨100枚
・年間金貨3枚あれば、一般的な宿屋に毎日泊まっても余裕で生きていける。
・エランジェルイト王国の侍女のお給金
月給銀貨25枚。(1日あたり約銅貨80枚ぐらい)
しかも宿代や食事代はかからない
(城の中に侍女用の部屋が用意され、食事については国が全額負担という待遇である)




